「やっても地獄、やらなくても地獄」ライブ自粛に翻弄される現場の声

2020.3.1
中止される音楽ライブ

文=神田桂一 編集=田島太陽


2月26日、新型コロナウイルスの拡大防止に向け、政府が今後2週間の大規模イベントの中止や延期を要請。同じ日に予定されていたEXILEの京セラドーム大阪公演や、Perfumeの東京ドーム公演などが急遽中止された。今後のライブやイベントも続々と中止が発表されており、その数はメジャーレーベルに所属するアーティストだけでも数百以上とされている。

大規模な音楽ライブだけではく、演劇公演や100人程度の小規模イベントも自粛する動きが広がっている。ミュージシャンや俳優をはじめ、エンタメ業界で現場を支えるスタッフには個人事業主や非正規雇用が多い。突発的な中止は、関わっているスタッフの仕事が失われ、収入がストップすることに直結する。イベントを主催した企業は莫大な赤字を背負うことになる。

しかし「どんなイベントを中止すべき」なのかも、「いつまで取りやめるべき」なのかも、未だ漠然としている。

台湾文化やポップカルチャーなどに精通するライターの神田桂一が、騒動の渦中で翻弄される音楽関係者やミュージシャンに話を聞き、自粛ムードが向かう先を考える。


多くのアーティストも疑問の声を上げる現状

国内で感染が発覚したのは946人、うち死亡したのは11人となっている(クルーズ船含む)。(2月29日19時のNHKによる報道より)

猛威を振るう新型コロナウイルスの対応策として、安倍総理による「文化的イベントの自粛要請」が発表された。その後、僕はFacebookに中国語でこう投稿した。

「日本結束了(日本は終わった)」

すると台湾人の友だちからコメントがついた。

「こういう時は完蛋了(ニュアンスを無理に訳すとオワタ)だな」

台湾でも、日本の後手後手の対応は知れ渡っていた。翻って、台湾はその対応の速さで現政府は支持率を爆上げしていた。

なんで僕がこんなことを投稿したのかというと、この曖昧な要請によって、現場のミュージシャンやライブハウスの人たちが困惑していたからだ。

あるインディーズバンドは、払い戻し対応もしつつ、ライブ開催を決定した。そのメンバーのひとりに話を聞き、匿名を条件に掲載することを了承してもらった。

「開催するか、中止にするかはメンバー間でも意見が割れました。うちはライブの回数は少ないバンドですが、それでもライブによる収益は大きいです。中止にしたら赤字になってしまうし、政府はなんの補償もしてくれません。自分らで負担することになるので大ダメージです。もちろんお客さんに迷惑をかけられないのは当然ですし、開催して感染者が出たら大ごとになりますし。

だからといって開催しても、自分たちで運営しているのでツイッターでの告知や、マスクや消毒液などの用意、それに伴う事務作業など、非常に負担が大きい。いっそのこと、中止にしたほうが楽だななんて考えたりもしました。僕が言えることは、やっても地獄、やらなくても地獄ってことですね

YouTuberとしても人気のアーティスト、ノンストップラビットは3月1日に開催を予定していた豊洲PIT公演を中止した。メンバーであり、所属事務所の代表として経営にも携わる田口達也さんは、ツイッターに「この規模のライブの中止で会社すら潰れかねない損失を受けます」「本当に国を挙げて対応して欲しい」などと記し、大きな反響を呼んだ。

改めて今回の発表に至った背景を聞いてみると、

「ファンを守るため、感染防止を最優先しました。僕らはアーティストでもあり、主催者(経営者)でもあるので、たくさんご心配もおかけしている状況ですが、みなさんには大変温かく受け入れてもらいました。一時的にライブというかたちでは音楽を届けづらくなりますが、今のところは、今後の活動にはそれほど影響はないと思っています」

と、前向きなメッセージを語ってくれた。

ミュージシャンと同じように、ライブハウスのスタッフにも生活がある。中止になれば当然、収入はゼロになる。東京の青山にあるライブハウス「月見ル君想フ」と台北の「THE WALL」を経営している寺尾ブッタさんにも聞いた。

「日本のほう(月見ル君想フ)は、大人数が集まるイベントがやりにくい状況で、どうしたらいいのかをライブハウス全体で模索している段階です。でも台湾では国がある程度コントロールできています。というのも、感染者の行動がある程度特定できていて情報も公開されていますし、一般の人の新型コロナウイルスへの意識も高い。各人がちゃんと予防しているので、警戒はしつつもライブハウスも営業はできています。2月に日本にいるとき、台湾に比べて新型コロナウイルスに対する防疫の意識がかなり低いと感じていて、心配してました」

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神田桂一

(かんだ・けいいち)1978年、大阪生まれ。ライター/編集者/総合司会。カルチャーからジャーナリズムの領域まで節操なく執筆。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』シリーズ(宝島社・菊池良と共著)。初の単著(ノンフィクション)をもうすぐ出します。

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