元アイドルが「新しい職場で見下される」現状。“使い捨て”の業界にならないためにできること

アイドル現代学

文=竹中夏海 編集=高橋千里


最新のニュースから現代のアイドル事情を紐解く。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。

今回は、元アイドリング!!!の遠藤舞と酒井瞳らと共に「SHOWROOMアイドル専用ジムプロジェクト」を立ち上げた竹中氏が、アイドルのセカンドキャリアについて考える。


アイドルは「ニコニコしていればいい仕事」?

「新しい職場で、アイドルだったことを知られると、見下されたり嘲笑されたりする」。

これは実際に私が元アイドルたちから聞いた声。到底信じたくはない理不尽な話だが、聞いたのはひとりやふたりからではない。

そもそも、人のどんな経歴でも他人がジャッジする権利はないはずだが、アイドルだったことを嘲る人間の言い分はこんなようなとこだろう。

「ニコニコしていればいい仕事」「労働ではなく遊んでいるようなもの」「夢見がちで将来を考えていない」。

こうした言葉は職場以外でも、たとえば家族やパートナーからかけられることも少なくないそうだ。

こんなことを直接本人に言える人間のデリカシーのなさは論ずるに値しない。ただ、多くの人が「アイドル」という仕事の実情を理解できないことに関してだけは一考の余地がある。

なぜなら、そうしたリアリティや生っぽさを消すこともまた、アイドルの業務の一環でもあるからだ。

プロダンサーでも戸惑う「アイドル」という仕事の過酷さ

しかし、身近でアイドルと接する立場の私から見ると、彼女たちの仕事内容はほかに類を見ないほどハードだ。

ダンスひとつ取っても、ただ振り付けを覚えればいいのではない。グループの場合、フォーメーションは必然なので、常に自分の場位置(ステージに等間隔に貼られている番号)を記憶し、動線(移動する際に誰の横を通ってどこへ行くかの道順)を把握しながら移動しないと、簡単に衝突事故が起きてしまう。

さらに、これを歌いながら行う。レッスンに代理でプロのダンサーが入っても戸惑うようなことを、アイドルたちは常に何十曲分も記憶している。

【ライブ】私立恵比寿中学「オメカシ・フィーバー」コール練習動画

ワンマンライブともなれば、これに加えMCで自分の言葉を発信し、合間を縫って特典会ではファンと直接交流もする。バラエティ番組では無茶な企画にもたくさん挑戦させられる。

これで多くの人から見て「いつもニコニコしている」イメージがあるのだとすれば、それは紛れもない彼女たちの努力の賜物にほかならない。


俳優やタレントになるだけが「アイドルの成功例」ではない

アイドルの仕事の過酷さを嘆きたいのではない。問題は、こうした経験がセカンドキャリアにどうしたら活かせるのだろう、ということ。

一般的には、活動を経て一部の“勝ち組”が俳優やアーティストやタレントに転身し、そうでない者は芸能界を去ると考えられている。

しかし、これだけアイドルが増えた時代。「成功例」をそれだけとしてしまうにはもう限界がある。芸事以外にもその経験を応用できる道はないのだろうか。

※画像はイメージです

将来のことまで見据えないまま、アイドルたちに青春時代を消費させてはならない。業界全体の課題でもあるこのテーマについて考えるとき、いつも思い出す元教え子とのエピソードがある。

彼女は、私が振り付けを担当してきたグループの元メンバーで、出会ったころはまだ16歳だったのに、卒業するころには20代後半に差し掛かるすっかり大人の女性になっていた。

解散ライブからまもなくヨガインストラクターのライセンスを取得し、あるとき野外イベントで講師を務めるから遊びに来て、と誘われたのだ。インストラクターとしてはまだ駆け出しのはずなのに、大勢の参加者の前で指導する姿は清々しく堂々としたものだった。

そしてイベント後に駆け寄ってきた彼女は、私にこう言ったのだ。「アイドルをまじめに何年かやってれば、何にでもなれるね」と。

技術はベテラン講師の方にはまだ敵わないけど、人前で話をしたりそれに耳を傾けてもらったり、たくさんの先生の中から自分のレッスンを選んで通ってもらうのはどこかアイドルの仕事と似ているね、と。あんなに楽しいけど大変なことを何年もつづけてきたんだから、もうたいていのことはできる気がする、とけらけら笑いながら話してくれた。

それが心から、頼もしくて誇らしかった。こうした姿はきっと、現役の子たちの道しるべになるのではないだろうか。

アイドル業界を「使い捨て」ではなく、循環できる場所に

私はこの春、「アイドル専用ジム」を作った。トレーニング対象は現役アイドルたち。ハードな活動に耐え得るトレーニングをし、こまめにケアをする場所が必要だと思ったのだ。どうやら、日本どころかおそらく世界初の試みらしい。

SHOWROOMアイドル専用ジムプロジェクト
SHOWROOMアイドル専用ジムプロジェクト

ダンスの基礎トレーニングで私が入るほかに、ボイストレーニング、筋力トレーニングのクラスもある。そこで指導に入ってくれるのは現役トレーナーとして活躍中の、元アイドリング‼︎!メンバーの遠藤舞さんと酒井瞳さんだ。

アイドルの心や身体を理解できる彼女たちは、これ以上ないほど適任だと思う。そしてこうしたロールモデルが身近にいる環境自体が、現役アイドルたちの励みにも希望にもなると思う。

アイドリング!!!『Don’t think. Feel!!!』

私のこの発案に賛同しタッグを組んでくれたのは、ライブ配信サービスを提供するSHOWROOM。この企画担当者にもまた、元アイドルがいる。

かつてアイドルだった人間が、今がんばる子たちのために連帯していく。「使い捨て」のイメージが強いアイドル業界を、これからは循環できる場所に変えていきたい。

もちろん、セカンドキャリアで必ずしも元いた世界に貢献しなくたって全然構わないと思う。大切なのは「あのときアイドルやっておいてよかったな」と、ふといつか、人生の隙間に思い返せるような子がひとりでも増えること。

そう願いながら環境を整えていくことが、私たちアイドル業界に携わる大人の責任だと思っている。

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竹中夏海

日本女子体育大学ダンス学科卒業後、2009年に振付師としてデビュー。その後、さまざまなアーティスト、広告、番組にて振付を担当。コメンテーターとして番組出演、書籍も出版。著書『アイドル保健体育』 (CDジャーナルムック)は「令和の保健体育の教科書」としても注目されている。