ぺこぱ“NEO優しい”の衝撃「優しいのにおもしろい」という革命(清田隆之)

2020.2.4

受容や肯定だけでなく、実は鋭い批評にもなっている

松陰寺のツッコミは決して相手を責めない。シュウペイによるタクシー運転手に2回もぶつかられたにもかかわらず、「いや痛ってえな!って言えてる時点で無事でよかった」と無事を喜び、「いや2回もぶつかるってことは俺が車道側に立っていたのかもしれない」とむしろ自分を疑ったりもする。

車を急停車させて居眠りを始めた運転手の突飛な行動を「いや休憩は取ろう」とむしろ推奨し、舞台の端から奇妙な動き方で戻ってきた相方を「いや戻り方は人それぞれだ」と受け入れる。

最終決戦で披露した「超高齢化社会」を題材にした漫才でも、電車で老人に席を譲ろうとしたら「うるさいハゲ!」と理不尽に難癖をつけられたにもかかわらず、「いやハゲてねえのは今だけなのかもしれない」と冷静に自己省察してみせ、「ウホウホウホー!」といきなりゴリラが乗ってきたシチュエーションにも「いやゴリラが乗ってきたら車両ごと譲ろう。命を守ろう」と理知的に対応してみせる。

松陰寺が受容し肯定しているのは、おそらく相方のシュウペイだけではない。理不尽な目に遭ったことのある人たちや、逆に他者に対してひどい振る舞いをしてしまったことのある人たちをも受け入れ、肯定していくようなメッセージ性にあふれている。

こういった言葉や態度が笑いにつながるのは、それが予測誤差を生むからだ。「もう誰かのせいにするのはやめよう」というセリフが笑いになるのはこの社会のベースに他責的な風潮があるからだし、「もう適当なツッコミを言うのはやめにしよう」というセリフも、社会にお笑いのコードが浸透し、安易なツッコミが大量生産されている背景があるからこそ刺さるものになっている。

つまり、ぺこぱの漫才で提示される言葉たちは単に人を受容し肯定するだけでなく、実は鋭い社会批評になっているからこそあそこまで人の心を揺さぶったのではないか……。昨年秋に超大型の台風19号が上陸したとき、政府やメディアは国民に対して「命を守る行動を」としきりに訴えていた。自己責任で命を守れと言われた現代の日本人にとって、「命を守ろう」という言葉はもはや道徳ではなく批評なのだ。

優しさの概念を更新する「NEO優しい」漫才

安易に相手を責めず、タクシー運転手の長時間労働を心配する。「キャバクラに行きたい」という老人の快活さを喜びつつ、「いやお年寄りがお年寄りに席をゆずる時代がもうそこまで来ている」と超高齢化に伴う日本の現実も同時に直視していく。電車に侵入してきた宇宙人に対しては、「宇宙船が壊れている可能性がある」と想像力を馳せ、「助け合っていこう」と配慮を見せる。

「キャラ芸人になるしかなかったんだ!」と武器のない自分のこれまでの試行錯誤を吐露したかと思えば、「いやどういうボケでも処理するのが俺の仕事なんだ!」と高い職業意識を宣言する。

「間違いを間違いと認められる人になろう」「できないことはできないと言おう」と常識的なことを叫んでいるが、それらは決して安易な説教になっていない。これまで述べたとおり、これらにはすべて鋭い批評性が宿っているからこそ、予定調和を崩す裏切りとして機能しているのだと私は感じている。

ぺこぱの漫才は確かに優しい。しかしそれは、受け入れること、相手を否定しないこと、現実を直視すること、自分自身を疑うこと、多様なあり方を認めること、旧弊的な習慣から脱却すること──などと同義であることを考えると、決して退屈なものではなく、知的で批評的で刺激的で、極めてクリエイティブな営みであることがわかるはずだ。

ミュージシャンのCHAIは「NEOかわいい」というコンセプトを掲げ、画一的な基準で判断されがちな美醜の価値観をぶっ壊し、かわいさはもっと多様なものであり、生きとし生けるものは全員かわいいのだというメッセージを力強く発信している。

それにならい、優しさの概念を軽やかに更新し得るぺこぱの漫才を私は「NEO優しい」と称してみたい。優しさとは本来、おもしろくてカッコイイものなのだ。なお、2月5日公開のインタビューではぺこぱの歴史(フィストリー)やふたりの試行錯誤の軌跡などを詳しく語っていただきました(ぺこぱ独占インタビュー【前編】「ノリツッコまないボケ」はこうして生まれた)。松陰寺さんの高い美意識とシュウペイさんの伸びやかなボケに痺れました。そちらも併せてお読みいただけたらうれしいです。


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