トリックスター太田光の真骨頂
高市早苗政調会長に学校法人森友学園をめぐる公文書改ざんについて見解を質したのも実にまっとうというべきで、ツイッターでググってみると高市シンパが「高市さんに失礼だ」「あんな怒った顔をした高市さんを初めて見た」と憤慨しておられますが、政治家を怒らせちゃいけないんですか? わたしは政治家を怒らせるような追及をしてこそだと思いますけどねー。後々取材ができなくなるのを恐れて、ご機嫌うかがいみたいなアプローチしかできない政治ジャーナリストより、太田光の態度のほうがよほどジャーナリスティックだと思いますし、維新にごまをすりまくってる一部の吉本芸人よりよほど信頼できるじゃないですか。
そもそも芸人は、道化/トリックスター的な役割も担っていたはずなんです。時の権力者を、罰せられないギリギリの線の芸で茶化してみせる。ごまをすっているかのような態度の裏に「あっかんべー」を仕込んでみせる。そんな綱渡りのような芸/笑いをもって、庶民を愉しませるのが道化/トリックスターの真骨頂です。
いまどきの芸人のほとんどはそんな危ない役割を放棄しています。さっきも記したように、一部の吉本芸人は維新とべったりで、維新を推す在阪テレビ局の馴れ合い番組のレギュラーを取ろうと必死のパッチ。そんな中にあって、立川談志を愛する太田光は道化/トリックスターとしての芸人の道を貫いている。力不足の局面は多々見られるし、わたし自身「うるさいなあ」とか「耳ざわりだなあ」とか「落ち着け」とか感じることもしばしばです。でも、この道化/トリックスターであろうとするアイデンティティの持ちようをもって、わたしは太田光を得がたい人物と思っています。
ラフなブラジル人にシンパシー『マクナイーマ つかみどころのない英雄』
というわけで、今回はトリックスターを主人公にした小説を紹介します。1928年に刊行されたマリオ・ヂ・アンドラーヂの『マクナイーマ つかみどころのない英雄』(福嶋伸洋訳/松籟社)です。
マクナイーマはブラジル人の特性を体現するといわれる、アマゾンのジャングルで生まれた英雄。かの国では有名な神話的キャラクターであるらしいんですが、恥ずかしながら、トヨザキは知りませんでした。で、ネットで調べてみたら、1969年にジョアキン・ペドロ・ヂ・アンドラーヂ監督によって映画化されていて、日本でも、2010年の暮れにシアター・イメージフォーラムで上映されたとのこと。いやー、観たかったなあ。というのも、英雄マクナイーマが経験する冒険はCGのない時代にとても映像化できるとは思えないほど奇天烈きわまりないからなんです。
この小説を読んでまず驚かされるのは、マクナイーマがまるで英雄らしくないということ。むしろ、登場しては場をひっかき回すトリックスター的な存在です。6歳になるまでは「あぁ! めんどくさ!……」という言葉しか発せず、ある日、なぜか(ある種の神話や寓話と同じく、この物語のなかで起きる不可思議な出来事の因果はほとんど説明されません)美しい王子さまに変身するや早速女の子といちゃいちゃしだし、兄のジゲーが結婚すれば、その都度必ず嫁を寝取るという仁義なき女好きへと成長していくんです。
そのマクナイーマがアマゾンの森の女神と愛し合うようになり、彼女が天に召される際に形見として遺してくれた、ワニ形のお守りムイラキンを奪った巨人ピアイマンをこらしめるために、長兄のマアナペ、次兄のジゲーをともなってサンパウロに旅立ち、紆余曲折の末、再びジャングルに帰ってくるまでを描いたのが、この物語の屋台骨。
ニワトリアルマジロやらネズミイルカやら、おしりの穴から入ってこようとする吸血ナマズやら、たくさんのへんてこりんな生きものや怪物や精霊たちが跋扈するジャングルから、都会の連中が「キカイ」と呼んであがめる文明の利器あふれるサンパウロへ。その旅路で、マクナイーマはたくさんの冒険を経験するんですが、対処のしかたのいちいちがまったくもって英雄らしくなんです。
強くもなければ、高潔でもなければ、リーダシップも発揮できなければ、知恵もなければ、モラルもない。やることなすことグダグダで、むしろダメ男。すぐだまされる単細胞でもあり、ある男から「タマタマを割って食べてるんだ」と言われると信じこんで、四角い石で睾丸を割って悶絶死するようなバカなんです。
で、そんなアホらしい死に方を何度かするんですが、そのたびにまじない師の兄マアナペが生き返らせてくれるというように、たいていの場合、他力本願。お守りをうばった巨人のことも本当は怖くてしかたないもんだから、マクンバという儀式で呼び出された悪魔のエシューに頼んでやっつけてもらおうとする弱虫であり、浮気を責められれば「だってとっても悲しかったんだもん!」と、言い訳にもならない言い訳を繰り返して許してもらおうとする甘ったれでもあります。
そんな情けない英雄のコミカルな言動が、エイモス・チュツオーラの傑作『やし酒飲み』を彷彿させる神話的というか原始的というかマジックリアリズム的というか、かなり騒々しい語り口で描かれていくんです。普通の小説のような文体ではないので、最初は読みにくいと思うかもしれませんが、いったんこの予定不調和で自由奔放な語りに乗ってしまえば愉快愉快愉快。ラテンアメリカ文学が好きな方なら絶対読まなきゃいけません。
こんな英雄とはとても思えないトリックスターを愛し、語り継いでいるブラジル人なら、開票特番における太田光の失態を見ても大笑いですませ、太田光の政治家への忖度なき追及に大喜びするのかもしれないな。汲々と真面目な日本人より、マクナイーマみたいなトリックスターを自分たちの化身と思えるラフなブラジル人にシンパシーを感じるトヨザキなのではありました。
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