宮迫YouTubeから見える芸能界の未来(九龍ジョー)

2020.1.30


タレント囲い込みの原点

歴史は繰り返す。試しにもっとさかのぼってみよう。

『興行師列伝―愛と裏切りの近代芸能史―』(笹山敬輔/新潮社)は、松竹・吉本・大映・東宝の創業者たちによる、血とカネにまみれた抗争を描いた好著だ。

注目すべきポイントは、その筆を12代目守田勘弥から書き起こしていること。

守田勘弥とは、本書の言葉を借りるなら「近代興行の父」である。幕府公認の芝居小屋である江戸三座の一角、守田座の座元であった勘弥は、時代が明治に移り変わると、浅草にあった守田座を築地へと移転。新富座と改称し、歌舞伎と劇場の近代化を図った。

そのような改革者であった勘弥だが、後年、新興勢力を抑え込む保守側に立つことになる。政府主導の演劇改良会が設立した新劇場・歌舞伎座に対して、勘弥の打った手が以下である。

勘弥は持てる力を存分に使って、妨害策を企てた。興行は人気役者がいなければ成り立たないのだから、今のうちに役者を囲い込んでおけば良い。彼は、あっという間に新富座・中村座・市村座・千歳座をまとめあげ、「四座同盟」を結成した。人気役者8名と契約を結び、明治22年からの5年間、他の劇場に出演できないようにしたのである。

(笹山敬輔『興行師列伝―愛と裏切りの近代芸能史―』)

まさに五社協定の原点を見る思いだ。

興行は演者がいなければ成立しない。だから、興行主は彼・彼女らを囲い込もうとする。しかし、常に勃興する新メディアによって、再編が促される。舞台、映画、テレビと繰り返されてきた光景だ。

芸能人のための労働組合が必要

そして結局のところ、犠牲を強いられるのはつねに演者である。

『サワコの朝』(1月25日放送、TBS系列)での広末涼子の発言が話題になっている。日本の芸能界に嫌気がさし、「人に迷惑をかけずに、人を傷つけずにどうやったらお仕事を辞められるか」を考えた末に、出した答えが、「故意に太ること」だったという。初出でなかったとはいえ、この告白はインパクトがあった。

芸能人の契約問題について、アメリカのエンタメ業界との比較がよく言われる。アメリカでは芸能人は個人事業主であり、それぞれがエージェントやマネージャー、パブリシストらと契約する。すでに力のある芸能人にとって、それは理想的なマネージメントのあり方だろう。

一方で、月給を保証し、新人育成に手をかけ、テレビ番組などで売り出すという、ナベプロ(「闇営業」問題への対処は完璧すぎた)を起源とする日本的芸能プロダクションも、これはこれで良さがないわけではない。ただし、その土台はテレビの時代ともに育まれたものだ。宮迫のYouTube動画ですら、その制度疲労を物語っている。

なんでもアメリカに見習えばいいわけではないが、少なくとも「SAG-AFTRA」のような労働組合は必要だと思う。西田敏行が理事長を務める日本俳優連合のような組織もあるが、協同組合では限界がある。労働組合法に基づく、芸能人のための横断的な労働組合が求められているのはまちがいない。松っちゃん、動いて!


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九龍ジョー

ライター、編集者ほか。編集を手がけた書籍・雑誌・メディア多数。著書に『伝統芸能の革命児たち』(文藝春秋)、『メモリースティック』(DU BOOKS)、『遊びつかれた朝に』(磯部涼と共著、ele-king books)など。『Didion』編集発行人。Errand Press相談役。

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