「要」と「急」の線引き
苦手な言葉に「不要不急」というのがある。
(苦手過ぎて、一度も発したことがなく、今初めて書いてみた)。
とはいえ、言葉自体に罪はなく、この言葉を使うという行為が嫌だ。
ある人にとっては「要」であり「急」であるものを、別の誰かが「んなはずねえ」と切り捨てる。僕にとっては、居酒屋やミニシアターは「要」そのものだけど、お酒にも映画にも興味がない人にとっては「不要」になる。逆もしかり。僕はスポーツは好きだけど、オリンピックは「不要」で「不急」だ。つまり、この言葉の対象は、誰が発する主体になるかでぜんぜん違う意味をもつ。そして、人と人のあいだに「要」と「急」でくっきりと線を引く。ほんとはそこには豊かなグラデーションがあるはずなのに。
かつてミニシアターに人生を救われた人間が今ここにひとりいて、しかも僕はそれほど自分が特殊な人間ではないと思っているので、そういう人はほかにもいっぱいいたはず(宇宙には地球人がいるのだから、ほかにも生命体がいるはずだ、という論理と一緒)。自分を救ってくれたものを、できる範囲で守りたいと思っている。
そう思って、今年『シュシュシュの娘』という自主映画を作った。『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』という作品以来、10年ぶりの自主映画だ。どうやってミニシアターを応援していこうかと考えたときに、これはもう一蓮托生、一緒に苦楽を共にするしかないと思った。それまでは、コロナ禍での自粛要請や補償に対してヒアリングしたり、各劇場がやっている通販(オリジナルTシャツとか)を広める活動をしてきた。でも、どうやらコロナはまだまだつづくっぽい。だったら映画を作ってミニシアターで上映してもらい、どうやってお客さんに戻ってきてもらうか一緒に考えよう。
上映は8月21日(土)から全国のミニシアターでスタート。その前の8月11日(水)には、先行プレミアム試写会というのをやって、入場料は全額ミニシアターに寄付する。
この映画のチラシを配りながら、あのキャップおじいさんの居酒屋の前を通った。シャッターは閉まったまま、次の店が入る気配はない。「このあたりじゃウチが一番古くて」と誇らしげに語っていたあのおじいさんは、どこに行ったのだろうか。ふと見上げると道の先で、何やら世界的なビッグイベントの物体が上空に上がっていた。ここは千駄ヶ谷、莫大なカネをかけて作った例の会場まではすぐだ。2020年から2021年の夏にかけて、人知れず消えていった多くのもの。そして人。それらからは目を逸らし、何が祭典かと思わず呟きたくなった。
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