私はどうやらまだ“劇的なクライマックス”を求めているようだ
それで本を出して1カ月が経ち、どうだったのか。ありがたいことに、『持ってこなかった男』は世間から黙殺されているわけではなさそうだ。むしろAmazonの売れ筋ランキングや読者レビューを高頻度でチェックする限り、かなりの好評を博していると言ってよいであろう。
ネットで見つけた感想を私が作為的に抽出すれば、「感動した」「泣いた」「面白くて一気に読んでしまった」「そこらの自己啓発本よりよっぽどためになる」といった具合だ。基本的に他人への感謝の気持ちが薄い私でも、本を読んでくれた方々に対してはありがたい気持ちでいっぱいである。
というのも、本を書いている間ずっと不安だったからだ。取り立てて珍しい人生を歩んできたわけではないし、世間的に大人気などとはけっして言えない私なんかの自伝に興味を持つ人が果たしてどれだけいるのか。お前が自伝を出すに値する人間かよ。誰も頼んでないのに何勝手に人生語り始めちゃってんの。そんなヤフコメ的なツッコミがいつまでも脳内にまとわりついて離れなかった。
しかし結果として想像より世間は温かかった。事前の予想を遥かに上回る反応をいただけた。それは本当にありがたいと思っている。ただその一方で頭をもたげてくる例の妄想、「本の出版が私の人生に爆発的な変化をもたらす」といったことがこのまま特に何も起こらなさそうな気配に「……まあそらそうだわな」とやや物足らぬ思いでいながらもわずかな期待を捨て切れずにいる。本屋大賞か何かにでも選ばれるしかないのだろうか。
本の帯には「今の時代において『売れる』とは何か、『才能』とは何かを、結果として問うことになる、等身大より少し低めな自伝的エッセイ」と書かれている。確かに問うてはいるかもしれないが、あいにくその答えを持ち合わせてはいない。
上述したように、私は今でも軽薄な期待と失望の間で迷いつづけている。最近いくつかあった出版関連のインタビューや対談などでも、「『売れる』とは何か」というややこしいテーマに話が及ぶとその場を取り繕おうと慌ててわけのわからぬことを口走り、たびたび相手をキョトンとさせてしまった。恥ずかしい。
『持ってこなかった男』は、パッとしない失敗や根拠のない自信、人から認められない屈辱や他人への嫉妬、怠惰な日常、といった内容が多くを占め、大学5年生のところで物語は終わっている。現状の私を見ればわかるとおり、マンガのような大躍進のクライマックスは待っていない。そしてその後10年以上の時が過ぎても、ごく稀に小さな祭のような出来事はあれど、基本的にあまり変わり映えのしない日常がつづいている。
本を書いている間は劇的なクライマックスの用意されている嘘くさい話など嫌だ、くらいに思っていたが、私はどうやらまだそういったものを自分の未来に対しては求めているようだ。
もしいつかこの本の続編が出るようなことがあれば、多少個人的な好みとは異なれど、マンガ『BECK』みたいなステレオタイプなサクセスストーリーとなっていることに期待したい。
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