尾崎世界観「母影」におじさん臭だと?芥川賞講評をメッタ斬り!「推し、燃ゆ」受賞は素晴らしかったけどね

2021.1.26
豊崎サムネ

文=豊崎由美 編集=アライユキコ


芥川賞選考の経過と理由に納得がいかない。選考委員代表で講評に立った島田雅彦会見を豊崎由美がメッタ斬り!

「推し、燃ゆ」「旅する練習」W受賞ならず

1月20日、第164回芥川賞の受賞作が宇佐見りんの「推し、燃ゆ」(河出書房新社)に決定したわけですが、しかし、つくづく宇佐見さんはすごいですねー。文藝賞を取ったデビュー作「かか」(河出書房新社)が第33回三島賞に輝き、2作目で芥川賞を受賞しちゃうんですから。こんな新人作家、初めてですー。

『かか』宇佐見りん/河出書房新社
『かか』宇佐見りん/河出書房新社

ラジオ日本で大森望とやってる『文学賞メッタ斬り!』(司会・植竹公和)での、わたしの予想は「推し、燃ゆ」と乗代雄介「旅する練習」W受賞だったんですが、乗代作品は惜しくも落選。どうしてだったのかなあという分析はとりあえずあとに回して、まずは候補作のあらすじ紹介からさせてください。

純文学初の“ガチ勢”小説「推し、燃ゆ」

宇佐見りん(1999年生まれ)「推し、燃ゆ」(『文藝』2020年秋季号/河出書房新社)初

『推し、燃ゆ』宇佐見りん/河出書房新社
『推し、燃ゆ』宇佐見りん/河出書房新社

語り手は、アイドルグループ「まざま座」のメンバー上野真幸の活動を追うことに心血を注いでいる高校生のあかり。
CDを大量に買って応援するだけではなく、推しが発した膨大な情報をできる限り集め、放送された番組はダビングして何度も観返し、推しの発言をすべて書き起こしています。そんなあかりのスタンスは〈作品も人もまるごと解釈し続ける〉ことで、そうして解釈したことを文章化して公開したブログの閲覧は増え、まざま座のファンが交流する場になっているんです。
〈みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる〉けれど、〈推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな〉と信じている女の子の声を、表現力豊かな文章で描き切った純文学初の“ガチ勢”小説です。
精神(気持ち)はアイドルを推す自分として成立しているし受け止めることができるのに、何をやってもうまくいかない肉体のほうを疎ましくしか思えない主人公の姿が痛々しいんですが、四つん這いになって散らかした綿棒を拾う無様な自分を受け入れるラストは、先は長いかもしれないけれど再生の道を示していて、読後感は悪くありません。とにかく文章表現力が抜群に素晴らしいんです。

「母影」の真っ暗ではない〈茶色い夜〉

この記事の画像(全7枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

直木賞164

第164回直木賞全候補作徹底討論&受賞予想。授賞すべきは、加藤シゲアキ。だが本命は、杉江もマライも『インビジブル』

芥川賞164

第164回芥川賞全候補作徹底討論&受賞予想。マライも杉江も宇佐見りん「推し、燃ゆ」オシ、尾崎世界観はちょっと厳しい

豊崎由美サムネ

欅坂46から櫻坂46へ。解散じゃないけど淋しい。『推し、燃ゆ』の卓越した文章、推すことの「救いと絶望」を推す

エバース

「ウケるからやるは『M-1』では失敗する」。3位だったエバースは2026年、自分の感覚を信じる【よしもと漫才劇場10周年企画】

豪快キャプテン×ダイタク

ダイタク×豪快キャプテン、認め合うお互いの漫才の魅力「簡単そうに笑いを取る」【よしもと漫才劇場10周年企画】

三遊間×ゼロカラン

三遊間×ゼロカラン、人気投票との向き合い方の正解は?「やっぱり有名にならなあかんな」【よしもと漫才劇場10周年企画】

Furui Rihoが『Letters』で綴った“最後の希望”「どんなにつらい日々であっても、愛は忘れたくない」

Furui Rihoが『Letters』で綴った“最後の希望”「どんなにつらい日々であっても、愛は忘れたくない」

EXILE NAOTOが語る、「勝負する身体」がステージと水面で魅せる“攻めの0.1秒”。大きな影響を与えるオーディエンスのパワーとは【『SG第40回グランプリ』特別企画】

4年目の今、重荷だった「王子様」を堂々と名乗れる。Last Princeが語る、プリンスを背負う勇気と楽しさ

甲斐田晴/ローレン・イロアス/3SKMの撮り下ろし表紙を公開! VTuberのトップランナーたちを徹底解剖【春のQJ×にじさんじ祭り!】

ニューヨーク『Quick Japan』vol.181

ニューヨーク、60ページ総力特集「普通は勝てない?」を考える。バックカバーにはSHUNTO×MANATO×RYUHEI(BE:FIRST)が登場【Quick Japan vol.182コンテンツ紹介】