尾崎世界観「母影」におじさん臭だと?芥川賞講評をメッタ斬り!「推し、燃ゆ」受賞は素晴らしかったけどね
芥川賞選考の経過と理由に納得がいかない。選考委員代表で講評に立った島田雅彦会見を豊崎由美がメッタ斬り!
目次
「推し、燃ゆ」「旅する練習」W受賞ならず
1月20日、第164回芥川賞の受賞作が宇佐見りんの「推し、燃ゆ」(河出書房新社)に決定したわけですが、しかし、つくづく宇佐見さんはすごいですねー。文藝賞を取ったデビュー作「かか」(河出書房新社)が第33回三島賞に輝き、2作目で芥川賞を受賞しちゃうんですから。こんな新人作家、初めてですー。
ラジオ日本で大森望とやってる『文学賞メッタ斬り!』(司会・植竹公和)での、わたしの予想は「推し、燃ゆ」と乗代雄介「旅する練習」W受賞だったんですが、乗代作品は惜しくも落選。どうしてだったのかなあという分析はとりあえずあとに回して、まずは候補作のあらすじ紹介からさせてください。
純文学初の“ガチ勢”小説「推し、燃ゆ」
宇佐見りん(1999年生まれ)「推し、燃ゆ」(『文藝』2020年秋季号/河出書房新社)初
語り手は、アイドルグループ「まざま座」のメンバー上野真幸の活動を追うことに心血を注いでいる高校生のあかり。
CDを大量に買って応援するだけではなく、推しが発した膨大な情報をできる限り集め、放送された番組はダビングして何度も観返し、推しの発言をすべて書き起こしています。そんなあかりのスタンスは〈作品も人もまるごと解釈し続ける〉ことで、そうして解釈したことを文章化して公開したブログの閲覧は増え、まざま座のファンが交流する場になっているんです。
〈みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる〉けれど、〈推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな〉と信じている女の子の声を、表現力豊かな文章で描き切った純文学初の“ガチ勢”小説です。
精神(気持ち)はアイドルを推す自分として成立しているし受け止めることができるのに、何をやってもうまくいかない肉体のほうを疎ましくしか思えない主人公の姿が痛々しいんですが、四つん這いになって散らかした綿棒を拾う無様な自分を受け入れるラストは、先は長いかもしれないけれど再生の道を示していて、読後感は悪くありません。とにかく文章表現力が抜群に素晴らしいんです。
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