「トランプ劇場」が露わにした“中央”の空虚さと二大政党制の無意味さ(粉川哲夫)

2021.1.9

ドナルド・トランプは“役者”ではなく“独裁者”だったのか

私は、2016年の選挙の少し前から、ずっとトランプの動向を観察し、「雑日記」に書いてきた。それは、Netflixなどが目につくようになり、劇場映画がつまらなく感じ始めて、ふと対象をアメリカ大統領選挙に変えたところから始まったのだが、私の関心は、アメリカ政治の分析ではなく、あくまでもヤジウマとしての好奇心であり、トランプという道化的な「役者」への関心だった。

ずっと思っていたのは、この「トランプ劇場」には「演出家」がおり、彼自身、自分が「役者」であることを意識し、道化や狂気や勝手や大人子供のキャラを演じているのではないかということだった。実際、スティーブ・バノンやケリーアン・コンウェイのような「演出家」や、先頃トランプが恩赦で救ったポール・マナフォートやロジャー・ストーンのような「悪役」にも事欠かなかった。だから私は、「トランプ劇場」のドラマトゥルギーは、プロレスやカジノの興行形式なのだと信じて疑わなかった。

しかし、最近になって、私はその考えに疑問を抱くようになった。あるいは、トランプ自身が変わったのかもしれないが、2020年の「コロナ感染」以後の彼は、まったく「演技」性を欠いている。「道化社長」を演じているのではなく、「独裁者」になり得ると信じているかのようだ。

トランプは、コロナに罹り抗ウイルスカクテルを摂取して別人になった、トランプはコロナに罹って死に、その「ボディ・ダブル(代役)」がすり替わった──という陰謀論的なジョークもあるが、それよりも前々から言われていた「老人性せん妄症」ではないかという説を信じたくなるような変わり方である。

それが、私の中でより強まったのは、1月2日にジョージア州の州務長官ブラッド・ラッフェンスパーガーおよび選挙関係の責任者に対して電話したときの発言である。個人的な電話ではなく、ホワイトハウスとジョージア州との関係者が通話する電話会議のようなものだが、その内容が『ザ・ワシントン・ポスト』に公開された。

Trump berates Georgia secretary of state, urges him to ‘find’ votes (Audio)

おそらくジョージア州側がこれを1月6日にある上院議員欠員2名の選挙に対する圧力と取り、公開に動いたのだろう。何せ、ラッフェンスパーガーとは、トランプがジョージア州の大統領選挙では不正があるから再集計しろという訴えを起こしたとき、「ならばやりましょう、しかも全部手作業で再集計しましょう」と請け負い、不正がなかったことを短期間に確証させた根性の人物である。共和党員であるにもかかわらず、選挙は選挙だという「正義」は貫いたので、一気に「男を上げた」。

ニュースでは「ジョージア選挙への恫喝」といった見出しが躍るが、この録音を聞くと、トランプは「ありがとう」を何度も繰り返しており、脅しというよりも「老いの繰り言」のように聞こえる。しかも、彼が繰り返し言うのは、自分が勝っているはずなのに不正で票を失ったということばかりであり、上院議員選のことなどそっちのけである。

たとえば、彼は「今日、重さにして3000ポンドの票がシュレッダーにかけられたという報告を受けたが、そうなのか?」「(ジョージア州)コブ郡では数十万の票がシュレッダーにかけられたという噂がある」などという言い方をする。誰がそういう「報告」をしたのかも「噂」の出処も言わない。そもそも、不正をやったと想定している相手に「噂があるが本当か?」などと聞いて、「はい」という答えが得られると思っているのだろうか?

ホワイトハウスとはその程度の場所だった

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