営業自粛要請をかけてみた
最初、プレイヤーにできることは少ない。
感染者数も100人以下から始まる。検疫で発見できずそこから拡散した新規感染者数をサイコロで決める。運よく小さい目が出て変化なし。まだ重篤者も死亡者もいない。
入国規制や営業自粛要請、景気支援施策、緊急事態宣言を発出することができるのだが、さすがにこの時点では必要ないだろうと判断する。
次の週に進む。ダイスの目によって新規感染者数がひと目盛り増える。海外からの新規感染もひと目盛り増える。クラスター対策は功を奏せず、ふた目盛り増だ。
最初のふた目盛りは、50人刻み。感染者収容数は、90%空いており余裕がある。重篤者はいない。
だが早めに対策したほうがいいだろう。営業自粛要請をかけた。これは効いた。サイコロの目を少し減らすだけの効果なのに、ぐっと抑え込むがことできた。
困窮支援予算の割り当てが少な過ぎた
だが、その後、GDP成長率が少し落ちた。失業率が上がった。経済起因自殺に直面した人を救済するために困窮支援予算を使う。困窮支援予算の割り当てが少な過ぎたと気づいたがあとの祭りだ。
景気支援対策をすることもできたが、現実のGoToキャンペーンの杜撰さを知っているだけに実行する気にはなれない。
感染はある程度コントロールできたが苦い経験となった。この経験が甘えにつながった。
経済起因自殺者を出したくない。困窮支援予算も残り少ない。連動して、GDP成長率も、失業率も悪化する。支持率も下がる。
そういったことを恐れて、行動制限をためらった。徐々に感染者数が増えてくる。そろそろヤバイ、また営業自粛要請すべきか。いや、もう1週待とう。
だが、これが罠だ。
感染爆発を実感
プレイヤーがわかるのは常に2週間前の感染者数でしかないという事実が、このシミュレーションを難しくしている。対策した結果が返ってくるまでにタイムラグがある。
さらに悪いことに、200人から目盛りは100人刻みに変わる。400人を超えると200人刻み。1000人を超えると500人刻みだ。
1000人の感染者がいるときは、たったふた目盛り増えただけでも1000人増加して、倍の2000人を突破してしまう。しかも1000人を超えるとクラスター班は機能しない。
まだ罠がある。新規重篤者数が判明するにはさらにタイムラグが生じる。
今、強い対策を打っても、すぐに重篤者数が減ることはない。重篤者収容限界が厳しくなってから対策しても間に合わないのだ。しばらくは重篤者数が増えるのを茫然と眺めるだけになってしまう。
しっくりくる「図上演習」
医療支援予算を使って感染者収容増床予定数を大胆に増やした。重篤治療予算も大胆に使って重篤者収容増床予定数も大胆に増やした。
だが、これも予定数であって、実際に収容数が増えるのは、少しずつでしかない。
営業自粛要請をかけて、感染者数を抑えたが間に合わない。重篤者数が、重篤者収容増床数を超えた。一度感染者数が爆発すると手がつけられなくなる。
『Operations Research for COVID-19』の邦題は『図上演習 新型コロナウイルス感染症』。図上演習という名がぴったり当てはまるシミュレーションである。
ルールは複雑で、マニュアルの読解も難しい。ぼくも全部を理解できたとは思えないまま、部分部分は現実的な状況を想定してルールをアレンジしてプレイした。
シミュレーションなので、もちろん簡略化・図式化されているが、プレイすると感染をコントロールする困難さについて、構造的な理解が深まる。
営業自粛を要請すべきかどうか。決断は悩ましい。未来を(サイコロの目を)確実に読み切ることはできない。だが、繰り返し直面する選択肢に対して、強いお気持ちや思い込みではなく的確に判断することで、確率は真の割合に限りなく近づく。
ゲーム『パンデミック』を紹介したときにも書いたが繰り返す。〈コマやカードを使って抽象化した仕組みを動かす行為は、今目の前で起きている事態を、主観的な恐れだけに囚われずに、俯瞰した客観的な視点で捉え直す訓練になる〉。
防疫レベルが「12」に達すると
図上演習シートの真ん中にあるのは、防疫レベルスライダーだ。毎月第1週目にサイコロの目によって2〜4目盛りずつ増えていく。防疫レベルが「12」に達すると「防疫対策の普及」が達成される。達成されると新規感染者決定時のダイス目を3減らすことができる。これに適切な行動制限の効果を加えれば、力強く感染者数を抑えられるようになる。
1月7日、首都圏の1都3県に二度目の緊急事態宣言が発出された。
ステイホーム。
防疫対策に関する知恵のレベルをあげ、知恵に基づいて行動することが、このゲームに勝利する鍵だ。
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