「パンデミック」の恐怖から世界を救え。アフターコロナをボードゲームで実践

2020.3.26
「パンデミック」プレイスタート時

文=米光一成 編集=アライユキコ


新型コロナウイルスの感染防止のために、外出自粛や、ライブやイベントの中止が要請される。未知なる敵に対して模索せざるを得ないシーズンが続く。「情報不足のなかで判断を繰り返す状況で、不安も高まるし、疲弊する。そういうときに必要なのは、ちょっとした息抜きと、次に進むための知恵のウォームアップだ」とゲーム作家の米光一成は語る。

『ぷよぷよ』『BAROQUE』などを手がけ、最近では『はぁって言うゲーム』などのアナログゲームのヒットでも知られる米光一成が、次に進むためのウォームアップとして今オススメするのが『パンデミック:新たなる試練 日本語版』。
感染症をテーマにしたテーブルトップゲーム、いわゆるボードゲームだ。


7種類のエキスパートたちが技能を尽くして世界を救う

『パンデミック:新たなる試練 日本語版』

『パンデミック:新たなる試練』は、プレイヤーが対戦するゲームではない。プレイヤーはパンデミック(感染爆発)に立ち向かうエキスパートとなり、世界を救うために協力する。

世界地図のボードを拡げる。ロール(役割)カードは7枚、ランダムに選ぶ。検疫官、危機管理官、研究員、衛生兵、作戦エキスパート、科学者、通信指令員。7種類のエキスパートがあり、それぞれに特色のある効果が設定されている。

7種類のエキスパート。ここでは、科学者と衛生兵を選び2人でプレイした。コマの色は白とオレンジ

感染カードをめくって、ボード上に現在の感染状況を作り出す。東京、ヨハネスブルグ、シカゴに病原体コマが3つ。マニラ、パリ、エッセンにふたつ。マイアミ、ムンバイ、ハルツームにひとつずつ。世界地図に4色の病原体コマが配置されていく。

そう、世界は、同時に4種類の病原体に襲われているのだ。我々エキスパートの使命は、この4種類の病原体の治療薬を発見することである。

治療薬を発見しても、感染は止まらない

カードをめくってボード上に現在の感染状況を作り出す。東京が危ない

エキスパートたちはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)に集結。プレイヤー同士が協力するゲームなので、隠し事をしなくていい。どうしたらいいかわからなければ、アドバイスを求めてもいいし、話し合って決めてもいい。

順に、4つのアクションを実行する。いきなりアウトブレイク寸前の都市が3つもある。すべての状況を改善はできないので、危機的状況でつながりの多い都市へ向かう。

苦渋の選択で、パリへ向かうことにする。カードを使って直行便で移動、パリで感染者の治療、1アクションで病原体コマひとつしか取れない。残り3アクションをつかってパリの病原体をすべて取り去るか、次の都市へ移動させておくか。

そう。このゲームは、いつも未来を予測して、ギリギリの状態をどうするのか、判断を迫られる。1ターンにつき4アクションしかできないため、プレイヤーは何を優先するかを常に考えなければならないのだ。

通過するモントリオールで治療を行うべきか、アウトブレイク寸前のNYに急ぐべきか

4つのアクションを終えると、カードの補充と、都市に感染症が増加したかのチェックとなる。感染症カードをめくって、都市に病原体を配置。3つを超えるとアウトブレイクだ。
そのため、今いる都市の感染者を放っておいて、アウトブレイク寸前の都市に移動しなければならないこともある。感染者の治療よりも、治療薬の発見を優先するために都市を通過して調査基地に戻ることもある。

それどころか、アウトブレイクが起こることを予想しておきながら、その都市を犠牲にして、調査基地に戻り治療薬の発見を優先することもある。

だが、治療薬を発見しても、感染は止まらない。都市に行って治療薬を使って一帯の病原体を取り除いて、根絶状態にして、ようやく新たな病原体は配置されなくなるのだ。

収束しても終息せず。ままならない。終息対策する前に次なる治療薬を発見するために奔走しなければ間に合わない。なにしろ、なぜだかエキスパートは世界にたったふたりしかいないのである(ふたりプレイの場合)!


アウトブレイクの連鎖でイッキに世界が崩壊

勝利条件は、4種類すべての治療薬を発見すること。敗北は、プレイヤーカードがなくなる(時間切れだ)、アウトブレイクが8回以上発生する、病原体コマをすべて配置してしまう、のどれかだ。
人類が勝つためには、知恵と決断と運が揃わなければ無理なのだ。

後半になればなるほど、アウトブレイクの危険性が高まってくる。なぜならエピデミック(感染急増)カードが存在するからだ。

エピデミックカードが出ると、イッキに病原体が3つ配置される。何もなかった都市がいきなりアウトブレイク寸前になり、すでに病原体があった場合はアウトブレイクしてしまう。

しかも感染率マーカーが1レベル上がる。感染率が、3になり、4になると最悪だ。ターン終わりに引く感染カードの枚数が3枚、4枚と増えていく。病原体の感染速度が高まる。人類滅亡へのスピードが加速する。

大事故、災害などで同時に多数の患者が出たときに、緊急度に従って優先順をつけることをトリアージと言う。『パンデミックをプレイすると、トリアージの重要度、そしてそれがいかに困難かを実感する。

次にどの都市で病原体が増えるのか、わからない(漠然とした予想はつく)。エピデミックがどのタイミングで発生するかも不明だ(漠然とした予想はつく)。

「漠然とした予想はつく」が、確定的にはわからない状態で、リスクが高い場が複数存在する。モントリオールの感染を治療せずに移動すれば、アウトブレイク寸前のニューヨークまで辿り着きアウトブレイクを回避できる。だが、ニューヨークに新たな感染が起こらないのであれば、モントリオールを通過するときに治療したほうが効率が良い。

放置して、目先のアウトブレイクを治めるために奔走しているだけでは、じわじわとアウトブレイク寸前の都市が増えていき、アウトブレイクの連鎖でイッキに世界が崩壊するだろう。

よし。モントリオールの感染を鎮めて移動、アウトブレイク寸前のニューヨークまでたどりつき、次ターンで治療しようと決断する。だが、次のターンが回ってくる前にニューヨークでアウトブレイク発生、ワシントンに飛び火。

ああああ、と落ち込んでいるヒマはない。悪化した状況をどうにか収めなければならない。

俯瞰した客観的な視点で捉え直す訓練


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米光一成

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米光一成

米光一成 (よねみつかずなり)ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学教授/日本翻訳大賞運営/東京マッハメンバー。代表作は『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『はっけよいとネコ』『記憶交換ノ儀式』等、デジタルゲーム、アナログゲームなど幅広くデザインする。池袋コミュニティ・カレッジ..

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