<2020年を映した演劇5本>『12人の優しい日本人を読む会』『いきなり本読み!』タニノクロウ、東葛スポーツ、akakilike

2021.1.4

『12人の優しい日本人を読む会』オンライン生配信

緊急事態宣言下でオンライン演劇が少しずつ増えてきていた5月。「演者の肉体を生で観る」ことが演劇なのだとしたら、オンライン演劇は演劇なのか?という議論もあるなか、近藤芳正が発起人となって配信されたのが『12人の優しい日本人を読む会』だ。相島一之や西村まさ彦ら、かつて東京サンシャインボーイズで92年に上演された際のキャストが集まり、Zoomを使ったオンラインでの読み合わせが行われた。12人が並列に存在し、ひとりひとりに見どころのあるこの戯曲がZoomで平坦に区切られた映像にぴったりとハマった。初期のオンライン演劇、Zoom演劇にありがちだった間の悪さもなく、細やかな演出も見事で、何よりも役者たちの演技が素晴らしく、読み合わせを超える確かな演劇がそこにはあった。
『12人の優しい日本人』の脚本家であり、この配信にもピザ屋として登場した三谷幸喜がまさに”演劇をつづける”ことを描いた『大地(Social Distancing Version)』でパルコ劇場再開の銅鑼を鳴らしたことも忘れられない。

『いきなり本読み!』シリーズ

読み合わせといえば、ハイバイの岩井秀人による『いきなり本読み!』シリーズが印象深い。役者たちがその場で初めて見る脚本を読み合わせる。それだけといえばそれだけのごくシンプルな構成によって、役者の力、演出の力をまざまざと見せつけられる。これまで皆川猿時、浅野和之、ユースケ・サンタマリア、松本穂香、黒木華ら、そうそうたるメンツがこの取り組みに挑戦してきた。第1回は2020年2月、ギリギリコロナ前だったが、思えば「当日その場にならないと脚本を読めない=事前に集まる必要がない」のは、“新しい生活様式”に合ったかたちかもしれない。ひと言目からいきなり役が立ち上がる空気、役を入れ替えた途端に見える景色が変わる様、岩井の演出でがらりと変わっていくキャラクター……。演じ手のすごさを思い知らされるイベント。12月25日には松たか子、神木隆之介、後藤剛範、大倉孝二というメンバーで東京国際フォーラム・ホールCで開催されるまでに成長した。

庭劇団ペニノ『ダークマスター VR』、タニノクロウ秘密倶楽部『MARZO VR』

タニノクロウが主宰を務める庭劇団ペニノによる『ダークマスター VR』についてはQJWebにも掲載されたが、タニノはその後もVR演劇の可能性を追求しつづけている。『ダークマスター VR』のわずか2カ月後、12月に上演された『MARZO VR』では、観客は看護師姿の女性によってコンクリート剥き出しの部屋に通され、寝台に寝かされてゴーグルとヘッドホンをつけられる。病室に寝ているらしい「私」はいつの間にか拘束され、腹を切り開かれ、内臓を取り出され……。庭劇団ペニノはこれまでも細部まで作り込まれた美術セットとリアリティある演技によって、没入性の高い演劇を作ってきた。それが極まったのがこのVR演劇だと思う。そこには生の肉体がないにもかかわらず、”目の前”で行われている演劇が、嫌というほど自分に関わってくる。これは、コロナによって生み出された新たな表現だと思う。

東葛スポーツ『A-②活動の継続・再開のための公演』

東葛スポーツは、時事をピックアップしてラップに乗せ、笑いをたっぷりまぶして見せる団体。12月に上演された『A-②活動の継続・再開のための公演』は、上演や配信をすることで助成金が下りるという文化庁の助成金制度「文化芸術活動の継続支援事業」の項目名そのままだ。普段なら小劇場界を揶揄したり、斜めの角度から時事を切り取ることの多い彼ら。しかし今回は「この状況で演劇を上演しつづけること」「観に来てくれている観客への感謝」などの熱い思いがたくさん詰まっていて、図らずも激しくエモーショナルな作品となった。思いがあふれた結果、高速ラップがいくつも披露されたが、演劇界の二大フィメールラッパー、森本華と川﨑麻里子がそれを見事にこなしていた。最後に披露された1曲には照れ隠しのように悪意がパンパンに詰め込まれていて(基本的には事実をそのまま述べているだけなのだが)、そこもやっぱり東葛の魅力。

akakilike『眠るのがもったいないくらいに楽しいことをたくさん持って、夏の海がキラキラ輝くように、緑の庭に光あふれるように、永遠に続く気が狂いそうな晴天のように』

akakilikeは演出家・振付家・ダンサーの倉田翠が2016年に立ち上げた団体。今作は2019年夏に上演された作品の再演で、出演者は薬物依存症のリハビリ施設である「京都ダルク」の利用者たち。一人ひとりが自分のこれまでを語る。反社会的組織に入り、クスリで5回刑務所に入って父の死に目に会えなかった人。小学生のころ、母がクスリで刑務所に入っている間預けられていた家で虐待に遭った人。高齢の姉に申し訳なかった、と話す68歳の利用者。うしろでは、代わる代わる皆が協力して焼きおにぎりと豚汁を作っている。初演から1年ちょっとで、キャストは約半数に減った。いなくなった彼らがどうしているかはわからないけれど、とにかく舞台上の6人は、終始和やかに料理を作りつづける。合間合間でしつこいくらいにアルコールスプレーを手にかけ合う。一人ではなく誰かといること、いろんなことが変わっていくなかで、それでも日々一緒にご飯を食べること。そのかけがえのなさが胸に刺さる。

akakilike『眠るのがもったいないくらいに楽しいことをたくさん持って、夏の海がキラキラ輝くように、緑の庭に光あふれるように、永遠に続く気が狂いそうな晴天のように』公演チラシ
akakilike『眠るのがもったいないくらいに楽しいことをたくさん持って、夏の海がキラキラ輝くように、緑の庭に光あふれるように、永遠に続く気が狂いそうな晴天のように』公演チラシ

2020年に生まれたいくつかの表現も、やがて日常になっていくだろう。どんな題材であれ、今をいやというほど反映するのが演劇だ。一度は消えかけた演劇の灯は、弱々しくいびつながら、再び燃えている。2021年が映し出された演劇はどんなものになるだろうか。

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