1位・2位はコロナ禍における演劇界を描いた作品
1位 東京夜光『BLACK OUT~くらやみで歩きまわる人々とその周辺~』(三鷹市芸術文化センター星のホール/2020年8月21日〜30日)
2020年は観劇本数を制限せざるを得なかったということもあり、未知の劇作家、演出家、振付家の作品に劇場で触れる機会が少なかった残念な一年でした。
そんななか、初見の東京夜光『BLACK OUT~くらやみで歩きまわる人々とその周辺~』を観た衝撃と感動は今でもジワジワ蘇ってくる、僕にとっては今年を代表する一本です。
お話は、いわゆる「商業演劇」のバックステージもので、売れない劇団の主宰をしながら大きい舞台の雇われ演出助手をしている30歳前後の青年が主人公。2020年4月中旬に本番初日を迎える公演の稽古場。そう聞いただけで、このあと彼らに待っているであろう展開に、いたたまれない気持ちになります。
でも、このお芝居が心に響くのは、コロナ禍を題材にしているという時事ネタ的な要素だけではなく、「自分が置かれた場所と人はどう折り合いをつけていくか」という普遍的な悩みを描いた作品だからだと思います。
作・演出の川名幸宏さん(32歳)は、実際にプロデュース公演の演出助手の仕事もされているそうで、この作品は私小説的な要素も強く、また随所に舞台の用語解説や「演劇あるある」的なエピソードも盛り込まれているのですが、動員目当てにキャスティングされた主役のイケメン俳優、モデル出身で何もわからない初舞台のヒロイン、「鬼才」と呼ばれる演出家などのキャラクターは若干ベタ過ぎると思えなくもなかったです。ただ、話が進むにつれ、彼らの言い分も彼らなりに切実で必死さゆえなのがきちんと伝わってくるので、突飛に思えた人物設定も物語を転がすための道具になっていないことに感心しました。
後半、稽古のあと演出助手の青年が昔から仲のいい照明スタッフの女性と「この芝居どう思う?」「うーん……自分が演出ならこうはしない。正直、おもしろくはないかな(笑)」的な軽口を叩き、それが通し稽古の記録用映像に撮られてしまっていて、翌朝みんなの前で土下座するシーンは、身につまされて今思い出しても胸が苦しくなります。
最後に公演中止が伝えられた演出助手の青年のもとに「今年の8月、うちの劇場で新作の公演をやらないか」という依頼が届きます。その青年が書いた公演こそ今、自分たちが観ているこの芝居だったのだということを観客が理解した瞬間に暗転(BLACK OUT)。
今年、公演中止、延期になった演劇人たちの無念が、いずれこのようなすごい作品に昇華してくれる日が来たら。そんな希望のような祈りのようなぼんやりとした気持ちで帰路についたことを覚えています。
2位 東葛スポーツ『A-②活動の継続・再開のための公演』(シアター1010稽古場1/2020年12月10日〜14日)
東葛スポーツ『A-②活動の継続・再開のための公演』も、コロナ禍における演劇人たちの置かれている状況を題材にした作品です。
過去の映画作品をサンプリングした映像や寸劇と共に時事ネタ、政治ネタ、芸能人ゴシップ、演劇界への悪口(or陰口)などをラップにしてつないでいく手法はいつもと一緒ですが、完成度は今までと比べて群を抜いていて、ツイッター上でも「東葛で泣かされる日が来るとは。コロナめ」といった感想をいくつも見かけました。私も7年ほど観てきて、これほど刺さる東葛は初めてです。
今回のリリックは1小節ごとに今までのほぼ倍の文字数を入れているそうですが、それを高速ラップ&爆音でちゃんと聴かせられる演者たちのスキル。特に森本華さんと川﨑麻里子さんのラップのあまりのうまさに舌を巻きました。
「劇場の灯を消すな そんなセリフ恥ずかしくて顔から火が出る 悠長なこと言ってられないのは ゆうちょ残高見れば火を見るより明らか」
右も左も中道も皇室も〇〇も等しく平等に(無差別に)俎上に載せる金山寿甲さんらしく、政府のコロナ対応や格差社会をネタにしながら返す刀で演劇人たちのぬるい言説をも混ぜっ返す一本筋の通った芸風にストイックな誠実さを感じました。
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