「タブー」だった著名人の政治的発言はなぜ増えた?芸能界に起こった地殻変動(中川淳一郎)
2020年は、BLM運動、検察庁法改正問題、日本学術会議任命拒否問題など、大きな波紋を呼んだ話題の多い年だった。そんななか、きゃりーぱみゅぱみゅ、小泉今日子、大坂なおみなど著名人が、自らのスタンスを明確にし、社会問題に対して発言する機会が増え「著名人の政治的発言」に注目が集まった。
ネットニュース編集者の中川淳一郎が、今年「著名人の政治的発言」が増えた背景を、広告業界のスタンスの変化と、芸能人と所属事務所のパワーバランスの変化を軸に解説する。
目次
政治に物申した著名人が増えた1年だった
今年のネット上の最大の話題は当然のように新型コロナウイルスだったが、週刊女性12月15日号の「炎上大賞2020」という特集がうまく1年間を総括している。「年間大賞」は岡村隆史の「美人さんがお嬢やります」という発言で、ほかにも「迷惑ユーチューバー大賞」にへずまりゅう、「コロナNG大賞」に安倍晋三元首相の「『うちで踊ろう』コラボ失敗!」が入った。
そんな中、「政治に物申した大賞」があったが、きゃりーぱみゅぱみゅの「#検察庁法改正案に抗議します」が入り、ほかにも浅野忠信、小泉今日子、水原希子らが政治に物申した著名人として紹介された。同誌では登場していないものの、著名人でいえば、テニスの大坂なおみもBLM運動への賛意を「政治に物申した」と捉えられた。
この特集はコラムニストの吉田潮さんと私が編集部から取材を受けて記事が構成されているが、ここでは芸能人と政治的発言について考えてみる。主にツイッターやインスタグラムでの発言だったのだが、大きな原因はやはりコロナにもあったのでは。何しろ自粛生活と仕事が吹っ飛んだことにより暇になり、さらに自分や社会の行く末が不安になったり、SNSやネットに触れる機会が多くなったため意見したくなった面もあるのでは。あとは海外セレブが積極的に政治的発言をしたり、反トランプ氏を表明するなどを見て「我こそも声を挙げねば!」と考えたかもしれない。
なぜ、政治的発言は「タブー」なのか
そうしたことに加えて、大きかったのがYouTubeをはじめとしたネットが著名人のカネ稼ぎの手段になり得ることがわかったことだろう。数年前、「なぜ、日本の芸能人は政治的発言をしないのか?」という議論があった。このとき、私はメディアの取材に対し、広告業界の内情を紹介し、だから政治的発言がしづらい、と答えた。だいたいこのようなことを話したはずだ。
「もっとも割のよい仕事が広告出演です。かつて、芸能事務所の社員は『テレビや映画の出演は、いわばプロモーション。そこで好感度を上げておけばCMの仕事がもらえる』と言っていました。テレビや映画の仕事は拘束時間は長いけど、ギャラは少ない。CMであれば1日の撮影と発表会の登場程度の稼働で数千万円もらえるのであまりにも“おいしい”仕事なのです。政治的発言をすると反対派から広告主のところにクレームが寄せられてしまう。それを回避するためには、『よけいな色』をつけないほうがより多くのCM出演が可能になります。だから政治的発言はしてもいいけど、“おいし過ぎる”仕事が来なくなる恐れはあります」
とは言っても、基本的にキャスティングを担当する広告代理店は政治的思想には当時はあまり注意を払っておらず、むしろ不倫や薬物疑惑がないかに関する「身体検査」に重点を置いていた。せっかく大金を払ってCMを作ってもイメージ低下につながったらアホだからである。
きっかけになったのは三浦瑠麗氏のAmazonプライムCM騒動
今年、変化がひとつあった。発端は政治学者の三浦瑠麗さんが「Amazonプライム」のCMに出演したところ、同氏と政治的スタンスの違う人々がツイッターで「#Amazonプライム解約運動」のハッシュタグで不買運動を呼びかけたのだ。
この騒動の直後に広告代理店の会議に参加したが「中川さん、今回の三浦さんの件、驚きましたね。あんなことになるんですね」と「CMキャスティングにあたっての候補者の政治的発言の有無」が議題となった。
私は「中道左派であっても『極左』認定されたり、中道右派でも『ネトウヨ』認定されたりします。そうすると不買運動を起こされたり、カスタマーセンターにクレームは寄せられます。そこも踏まえてキャスティングは提案すべきでしょう」と意見。ツイッター等で政治的発言をする人のリストを作成し、提出した。当然「クレームは単なる言いがかりであることも多いので、クライアントは『この人が一番我が社の商品の魅力を伝えられる』という自信を持って理不尽なクレームには与しないでほしい。そもそも政治的発言を抑え込もうとするのはおかしい」と伝えた。
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