女性の自殺8割増──『自殺』の末井昭が考える日本の「女性差別」と「自己責任論」

2020.12.17
末井昭 クイックジャーナル1217

文=末井 昭 編集=谷地森 創


編集者として『写真時代』、『パチンコ必勝ガイド』など数多くの雑誌を創刊し、自伝的作品『素敵なダイナマイトスキャンダル』が映画化されるなど、エッセイストとしても多くの著作を持つ末井昭。

コロナ禍の2020年、自ら死を選ぶ人が増えている。特に顕著なのが女性の自殺で、今年10月は前年同月比80%以上も増加している。『自殺』『自殺会議』などの著書があり「自殺から目を背けないでほしい」と語る末井が、コロナ禍の自殺について真正面から考える。

女性の自殺者が8割以上も増えている

日本は自殺者が多い国である。自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)の主要国ワーストランキングでは、日本は7位に位置する。主要7カ国首脳会議などに参加している国で7位までに入っているのは日本だけだから、先進国の中で最も自殺率が高い国が日本ということになる。

日本は1998年から12年連続して毎年3万人を超える自殺者を出していたが、経済の安定、自殺防止対策の推進などの効果があったのか、2003年の3万4427人をピークに減少傾向にあった。特に2010年以降は、東日本大震災があったにもかかわらず毎年減少していて、2019年には2万人にまで下がっていた。

ところが、今年の7月から自殺者が増え始め、7月から11月までの自殺者は昨年の同期より18%増えている。特徴的なのは、女性の自殺率が高くなっているということだ。7月から11月までの女性の自殺者は、昨年同期より40%も増えているのだ。特に10月が多く、10月だけを比較すると去年に比べて約88%も増えている。

なぜ女性の自殺者が多くなったのかは、テレビの報道番組等でよく言われている、この国の女性差別が原因だ。たとえば非正規社員の男女比率を見ても、男性12%に対して、女性は39%もの人が契約社員、派遣社員、パートタイマー、アルバイトなどの立場で働いている。会社を縮小するときや、利益を優先して従業員を減らすときなどに、真っ先に首を切られるのはそういう非正規雇用の人たちなのだから、コロナ禍のなかで職をなくした女性が多いことは想像できる。

明らかになったのはこの国の女性差別

非正規社員は賃金も正社員より安い。厚生労働省の賃金構造基本調査によると、2018年の賃金格差は、正規雇用者の時給を1とすると非正規雇用者の時給は0.66となっている。女性の平均給与も年293万円と低い。

今年、女性の自殺者が増えたことは、女性に非正規社員が多く、コロナ禍で解雇されたりして収入が途絶えたことが大きな原因ではないかと思う。

女性の自殺者が増えた原因はほかにもある。女性が多い職種は、医療、福祉、小売り業、飲食のサービスなど、人と接触することが多い職場が多い。つまりコロナ感染リスクが高い職場なのだ。コロナに感染してしまったり、リスク回避のため辞めてしまったりして、収入が途絶えることもあるだろう。実際、コロナ患者を受け入れている病院の看護師が、次々と辞めていくことが今問題になっている。

比較的高収入が得られる風俗産業は、3密を伴うので自粛の対象になっていた。閉店や休業する店も多いだろうし、フリーで風俗の仕事を始めてもこの情勢だと難しいだろう。

また、職を失った夫のイライラからDV被害を受ける女性もいる。子供に感染しないよう注意を払って子育てをしないといけないストレスもあるだろう。まさに女性にとって四面楚歌の状態だ。

溜まったストレスを発散するための一番安上がりな方法がおしゃべりである。しかし、これも巣ごもりしているとおしゃべり相手と会う機会がなくなる。リモートでおしゃべりしても、ストレス解消になるかどうか疑問だ。

コロナ感染は「自己責任」?

9月に首相になった菅総理が政策理念として打ち出したのが、「自助、共助、公助」ということだ。この順番で行きますよということだ。

「自助」ということは「自己責任」ということだ。たとえば、コロナ患者が次々運び込まれて、長時間勤務でフラフラしながら仕事をし、結果コロナが感染して辞めざるを得なくなる看護師さんがいたとすると、これも自己責任なのか。

コロナ禍は弱い人のところにしわ寄せがいく。この非常時には「自助、共助、公助」ではなくて「公助、共助、自助」だろう。政府がまず一番弱い人たちから救済していかなければ自殺者は増え、日本は潰れる。

『自殺』に込めた思い

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