オンライン化であらゆるエンタメが融合してゲームになった<2020年ゲームベスト8>

2020.12.1


オンラインの「リアル脱出ゲーム」(SCRAP)ほか

コロナ禍の影響で、どんどんイベントが中止になった。
「リアル脱出ゲーム」「リアル謎解きゲーム」と呼ばれる体験型謎解きゲームも、その影響を大いに受けた。いくつものイベントが中止になり、施設が閉鎖された。
そんななか「リアル脱出ゲーム」の創始であり先端を駆け抜けているSCRAPが、「リアル脱出ゲーム」をオンラインで展開した。
そもそも、コンピューターゲームの「脱出ゲーム」を現実のリアルな空間でやってみるという試みだった「リアル脱出ゲーム」が、リアルとオンラインの融合を見事に実現したパワーアップ脱出ゲームとして、再びコンピューター上に戻ってきたのだ。

6月末にオンラインの完全新作公演『封鎖された人狼村からの脱出』を発表。
村人同士が監視し合う封鎖された人狼村。プレイヤーは、この村に潜入した村人フレック役になって、謎を解き、誰が人狼なのかを推理するゲーム。
9画面に分割したリモート会議の画面の中で、人狼村の住人たちの議論を聞いて謎を解く。
コロナ禍の現実世界を想起させる虚構世界の物語を体験する不思議なオンラインエンタテインメントになっていた。
男女のZoom通話をのぞき見しつつ調査&参加できる新しいチャレンジ『のぞきみカフェ』を5月に成功させたきださおりは、7月にInside Theater『SECRET CASINO』を開催する。これは、Zoom、スマホ、PC、チャットなどを駆使した没入型演劇イベント。
Zoomの向こう側にいる演者たちと、カジノ、バー、マジックなどのパーティーを楽しんでいるうちに事件が起こり、プレイヤーがそれに巻き込まれていくのだ。
Inside Theater vol.2『僕等のラストフェスティバル』(2020年11月20日~12月20日)が公演中だ。

また、劇団ノーミーツは、会わずにオンラインだけで作り上げた劇団。第2回長編公演『むこうのくに』では、投票システムで観客を参加させる仕組みを取り入れた。コメントで観客の声が直接届くことでインタラクティブな感覚もあるステージだった。
2020年は、ゲームと演劇体験がオンライン上でよりいっそう融合した年だったと言えるだろう。

『あつまれ どうぶつの森』(任天堂)

2020年を象徴するコンピューターゲームといえば『あつまれ どうぶつの森』だろう。
3月20日に発売されたNintendo Switch用ゲーム、どうぶつの森シリーズの第7作目である。
販売本数2604万本。
メトロポリタン美術館のサイト内に『あつ森』専用ボタンが設置されたり(収蔵の約40万点の作品を公式に取り込める!)、バイデン陣営が選挙活動に使ったり、日本でも『あつ森』内で選挙運動を行う動きもあったが、任天堂と協議し計画を撤回するといったドタバタがあったり、さまざまな社会現象となった。
コロナ禍で3密を避けるために、『あつ森』の中で卒業式や結婚式や交流会が開かれたりした。
外に出て楽しめない状況でめげそうな気持ちを『あつ森』の世界で癒やされた人が、めちゃくちゃたくさんいたに違いない。


『パンデミック』(『Pandemic』マット・リーコック/ホビージャパン)

ゲームデザインは、マット・リーコック。
2009年に日本語版が出て、2013年に改訂版が発売された感染爆発をモチーフにしたボードゲームだ。
2020年コロナ禍の今臨場感たっぷりにプレイすることができる。
プレイヤーは、感染爆発(パンデミック)に挑むエキスパートチームの一員となる。
「科学者」「研究員」「衛生兵」「通信司令員」「作戦エキスパート」「危機管理官」「検疫官」の役割それぞれに特別なスキルがあるので、お互いが協力し合って、感染を食い止める。世界の各都市を移動して、研究施設を作り、ワクチンを発見する。パンデミックで世界が滅びる前に、4種類のワクチンの研究開発を行うのが目的だ。
スクが高い場が複数存在すると、1カ所で起きた感染急増が連鎖し、イッキに悲劇的な状況が拡がってしまう。プレイして実感するのは、感染拡大する前にしっかりと抑え込むことの大切さだ。渦中にいる今こそ、視野偏狭の罠から抜け出すためにも、俯瞰した視点をボードゲームで学ぶべきだろう。

「マーダーミステリー」

新しいジャンルとして「マーダーミステリー」のヒットも外せないだろう。「Rabbithole」「シンジュクジンチ」 「トリックスター」など、マーダーミステリーの専門店や、開催している店舗も増えてきた。
ミステリ的な物語の登場人物になって、真相を解明する体験型推理ゲームだ。自分が探偵になるときもあり、犯人になるときもあり、犯人の恋人になるケースもあり得る。
キャラクターの役割を演じながら、交渉、推理、協力、対話を繰り返し、ミッションをクリアする。
ゲーム独自の展開が用意されているので、たいていの演目は一度しか遊べない。遊んでしまうと真相を知ってしまうからだ。
そのため「公演型」「パッケージ型」と展開形式もさまざま。
ネタバレ禁止なので、おもしろくても感想がおおっぴらに言いにくいので、イッキに広まるというよりも、じわじわと形態進化しながら拡大している。

2021年3月に『マーダー★ミステリー ~探偵・斑目瑞男の事件簿~(仮題)』(ABC朝日放送)の放送も予定されている。
演劇+ゲーム+謎という要素の融合は、2021年にもっと大きなブームがやってくるのではないだろうか。

『ザ・クルー:第9惑星への旅』(『The Crew』T.ジング/株式会社ジーピー)

2020年「ドイツ年間エキスパートゲーム大賞」を受賞したカードゲーム。
トリックテイキングという骨太のゲームメカニクスを、協力ゲームにしてしまう斬新な仕組み。さらに、プレイヤーは宇宙船の乗組員で50のミッションに挑むという物語的なフレーバーも乗せてきた。
第9惑星を探すプロジェクトのトレーニングから始まり、ロケットの打ち上げ、事故、隕石群の突破など、数々のミッションを協力してクリアしていく。宇宙空間で、話ができない設定なので、無言でカードをプレイすることになるが、無線チップや、カードプレイそのものでコミュニケートしていく醍醐味が楽しめる。
フレーバーとしてのモチーフはあっても物語的な要素が加わることはほとんどなかったトリックテイキングというメカニクスを、協力ゲームにして、ナラティブな体験を加えた古典的でありながら新しいタイプのゲームの誕生である。

『ザ・クルー:第9惑星への旅』(『The Crew』T.ジング/株式会社ジーピー)2020年ドイツ年間エキスパートゲーム大賞を受賞したカードゲーム
『ザ・クルー:第9惑星への旅』(『The Crew』T.ジング/株式会社ジーピー)2020年「ドイツ年間エキスパートゲーム大賞」を受賞したカードゲーム

『ドミニオン』(『Dominion』ドナルド X.ヴァッカリーノ/ホビージャパン)

日本語版が出たのは2009年だったが、実は長らく入手困難で10倍ものプレ値がついてたりした。
その『ドミニオン』が、2020年にようやく増産。ゲームデザインは、ドナルド X.ヴァッカリーノ。
「ドイツゲーム賞2009 大賞」「ドイツ年間ゲーム大賞」「アラカルト・カードゲーム賞」史上初の三冠に輝く傑作ゲームで、10年以上経った今でもずっと遊びつづけている人も多い。ハマるのだ。
『ポケモンカード』や『マジック:ザ・ギャザリング』といったトレーディングゲームでは、カードを買って組み合わせを構築したあとに対戦していたが、『ドミニオン』は、カード入手と構築そのものをゲームプレイの中に取り込んだ。デッキビルディングと呼ばれるゲームメカニクスの金字塔的な作品だ。
レジェンドなゲームなので、一度プレイしてみるといいよ。

『ゴースト・オブ・ツシマ』(『Ghost of Tsushima』Sucker Punch Productions/ソニー・インタラクティブエンタテインメント)

家庭用ゲーム機の話題作といえば『ゴースト・オブ・ツシマ』と『あつまれ どうぶつの森』だろう。
『ゴースト・オブ・ツシマ』は、アメリカの会社Sucker Punch Productionsが開発したPlayStation 4用ゲーム。
世界累計実売本数が発売から4カ月で500万本を突破し、世界的な大ヒットとなった。
テレビ番組『日立 世界ふしぎ発見!』11月21日の放送は、「ゴースト・オブ・ツシマの舞台、対馬」の回で、ゲームや、開発チームのインタビューが流れた。
時代劇への愛があふれる世界観、日本的な四季の美しい背景が、オープンワールドで、たっぷり味わえる。
ゲーム的なアイコン表示も少ない(たとえば、目的地を示すマーカーは表示されず風の吹く方向でナビゲートする)のもいい。
日本でも高評価で受け入れられたが、欧米では「文化盗用なのか?」という議論も巻き起こった。そのへんのややこしさは、さやわかさんが「『Ghost of Tsushima』は文化盗用なのか?抜け落ちた“ゲーム”としての論点」で詳細に論じている。

「PlayStation 5」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)

「PS5」が11月12日に発売になった。コロナ禍ということもあってネット抽選で郵送という販売方法がとられ、店舗に並ぶという現象がなくなった。ぼくは、いまだに入手できていない。うぐぐ。

ほかにも、ゲームメカニクスの事典『ゲームメカニクス大全』(全608ページ、184項目!)の日本語版の登場や、Netflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』の大ヒットでチェスが盛り上がったり、女子高生バンドVTuber「都まんじゅう」がネット上で物語(「血の人形・再来事件」!)をリアルタイムに展開する謎のプロジェクト『みやまんチャンネル』や、2020年あれこれあったなー。
世界的にハードな年だったが(だったからこそ、か)、ゲーム・エンタテインメントは盛り上がっていたぞ。

私たちを助けてください「都まんじゅう」

ベスト8から外したが、今年は、自分自身が関わってるモノもあれこれ話題になった。
米光一成ゲームデザインの『はぁって言うゲーム』は累計40万部を突破。12月には『はぁって言うゲーム3』も出る。
100円ショップのダイソーから、“人気ゲームクリエイターが本気で手がけたカードゲーム!”『変顔マッチ』『イロピッタン』『回転ずしポーカー』『オーダーピザーラ』が登場。ちゃんとゲームデザイナー名が表記されているのが素晴らしい。米光一成は『変顔マッチ』をデザインした(※定価100円((税抜)※店舗によって品ぞろえが異なり、在庫がない場合がございます。なお、店舗へのお問い合わせはお控えください)。

口説くジェントルとあしらうレディーの駆け引きをゲーム化した『レディファースト』、「ぽく」「ちん」「にゃー!」と叫びながらプレイする『ぽくちんとネコ』などもリリースしました。

2020年、米光一成が製作したボードゲーム(1部)
2020年、米光一成が製作したボードゲーム(1部)

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米光一成

米光一成 (よねみつかずなり)ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学教授/日本翻訳大賞運営/東京マッハメンバー。代表作は『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『はっけよいとネコ』『記憶交換ノ儀式』等、デジタルゲーム、アナログゲームなど幅広くデザインする。池袋コミュニティ・カレッジ..

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