『Ghost of Tsushima』は文化盗用なのか?抜け落ちた“ゲーム”としての論点

2020.7.27

文=さやわか 編集=森田真規


2020年7月17日に発売され、わずか3日間で全世界の累計実売本数が240万本を突破したプレイステーション4用ゲーム『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』。

日本の史実「元寇」を題材にしたこのゲームは、アメリカのゲーム会社が開発。その世界観は日本でも(おおむね)受け入れられ、賛辞の声が寄せられている。しかし欧米では、「欧米による日本文化の盗用である」と炎上しているのだ。

『僕たちのゲーム史』などの著書を持つライターのさやわか氏は、この文化盗用の議論には抜け落ちている論点があるという――。


「歴史警察」みたいな方々の指摘は、ひとまず「どうでもいい」

日本の(そしてモンゴルの)史実である「元寇」を題材にしたゲーム『Ghost of Tsushima』が炎上している。

そもそもこのゲーム、玄界灘に浮かぶ対馬をオープンワールドで再現し、リアルな3Dグラフィックで日本の景勝を美しく描いたってことで、まずはプレイヤーを感嘆させた。作ったのはサッカーパンチというアメリカの会社だが、とりわけ日本人たちが「すげー! これぞ日本の美」って感じで賛辞を送り、発売日にはツイッターのトレンドにもなった。主人公である侍を、苦悩するヒーローとして描いたストーリーも、日本人の感性にマッチしている気がする。

『Ghost of Tsushima』 ローンチトレーラー

そんなわけで僕ごときのところにも、「ねえ、ちょっと『Ghost of Tsushima』について何か言ってみてよ」みたいに話しかけてくる人が多くいた。これは僕の経験上「普段そのサブカルチャーに深い興味を持っていない人が、なんか急に気になる作品を見つけたとき」によくあるパターンだ。要するに、このゲームはゲームマニアを越えた、幅広い層から好意的に注目されたっぽい。

描写については、一部のいわゆる「歴史警察」みたいな方々が、ゲーム内の時代考証がどうの意匠がどうのと言ってたみたいだ。けど、そういう人はまあ、そういうことをあれこれ指摘するのが楽しいんだろうから、どうでもいい。「どうでもいい」とか書くと意識の低さを怒られそうだから、「ここではひとまず、どうでもいい、ということにする」としておこう。

しかし、それ以上に考えさせられるのは、このゲームに対する、欧米からの反応だ。いわく、『Ghost of Tsushima』は、欧米による日本文化の盗用であるというのだ。

文化盗用という概念は、欧米人、ざっくり言えば白人が、非欧米圏の文化特性やエスニシティを題材にした作品を作った場合に、最近しばしば指摘されるようになったものである。つまりポリコレってやつだ。

その指摘を、実際に盗用された非欧米圏のアイデンティティを持つ者が行うなら、まだ話はわかりやすい。だが摩訶不思議なことに、こうした指摘は欧米人が欧米人に対して行うことが多い。つまり「俺たちはあいつらの文化を盗用しちゃいけないのに、やってる奴がいまーす!」という吊るし上げを、欧米人同士でやっちゃってる感が強いのだ。

『【PS4】Ghost of Tsushima (ゴースト オブ ツシマ)』

文化盗用にまつわる、めちゃくちゃ入り組んだ議論


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さやわか

ライター、物語評論家、マンガ原作者。著書に『僕たちのゲーム史』『一〇年代文化論』『僕たちとアイドルの時代』『文学の読み方』(いずれも星海社新書)、『キャラの思考法』(青土社)、『文学としてのドラゴンクエスト』『名探偵コナンと平成』(コア新書)、『ゲーム雑誌ガイドブック』(三才ブックス)など。ほか共著..

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