気軽に休める社会――休み休み歩いたほうが遠くまで行ける (荻原魚雷)

2020.1.23

「ときどき怠けることは、生きていくうえで大切なことです。そして、仕事でも役立つのです」

子どもが風邪をひいて熱を出しても「学校を休むな」という親は当たり前にいる。途中でやめること、休むことはいけない。幼いころからそう刷り込まれてしまっている人は少なくない。

結婚したばかりのころ、妻が熱があるのに会社に行こうとしたことがあった。38度くらいあったとおもう。わたしは「休め」といって会社に電話をかけさせた。

妻は「なんで?」といった。

信じがたいことだが、妻は風邪で会社を休むという発想がなかったのだ。

わたしは長年フリーランスで仕事をしているのだが「疲れたら休む」「眠くなったら寝る」をモットーにしている。

この教えは水木しげるから学んだ。

『水木サンの幸福論』(角川文庫)という本で「幸福の七カ条」という幸せの秘訣を提唱している。

《第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。

 第二条 しないではいられないことをし続けなさい。

 第三条 他人との比較ではない、あくまでも自分の楽しさを追求すべし。

 第四条 好きの力を信じる。

 第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。

 第六条 怠け者になりなさい。

 第七条 目に見えない世界を信じる》

水木先生は若い漫画家や編集者に「徹夜をするな」と注意した。徹夜は寿命を縮める。

理想の怠け者は猫とつげ義春だといっていた。

《ときどき怠けることは、生きていくうえで大切なことです。そして、仕事でも役立つのです》

水木しげる『水木さんの幸福論』2007年、角川文庫

ぜひとも令和の日本は「気軽に休める社会」を目指してほしい。途中でやめたり、サボったりすることに寛容な国になってほしい。

わたしはこの理想が実現する日を「365日24時間」願っている。

休み休み歩いたほうが遠くまで行ける。無理はつづかない。自分の身を守れるのは自分だけだ。

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