パンセクシャルって何?
第3話では、運命の人を求めて男性経験を繰り返す皆川祐奈(秋田汐梨)が、マッチングアプリで知り合った男とセックスして性感染症にかかってしまうというエピソード。婦人科医(安藤聖)の助言もあり、新しい恋人にふたりで性病検査を受けようと明るく提案する。
どれもお説教臭くなく、何より主人公の3人がお互いに支え合いながら、性について学んでいく姿が爽快だ。第3話に顕著だが、悩み、迷う女子たちを上から目線で「教育」しようとせず、彼女たちの成長に寄り添い、肯定してあげるドラマの作りが心地よい。第4話では母親(藤原紀香)のバイブを見つけて嫌悪感を抱く咲良が女性のマスタベーションについて学び、第5話では生物部の悠がインスタライブを使って堂々とパンセクシャル(全性愛)であることを公言。「僕はただ人として惹かれた人を好きになる、それだけ」という悠のセリフはパンセクシャルの考え方として知られている。
女として生きるにはこの社会は地獄
エピソードが進むにつれ、取り上げるテーマは核心に近づいていく。第7話では、スピーチコンテストに臨んだ紬が、「私にとって、この社会は地獄のような場所です。とりわけ、私のような人間が女として生きるには」と声を上げる。
「痴漢大国」と呼ばれ、男性のみならず女性もそれを当然のように受け入れている地獄。女性はいつか結婚して子供を持たなければいけないという押しつけも地獄だし、性的マイノリティに対する差別的な視線がはびこっているのも地獄。ただ、紬を助け、理解する人が少なからずいるのも事実であり、そこに希望を見出すラストだった。
10月22日配信の第8話では、妊娠すると女子生徒だけが退学しなければいけない学校の理不尽極まりないルールに切り込む。予告では「避妊ぐらいしろよ」という女性へのアンフェアな言葉も取り上げられていた。
脚本は劇団「贅沢貧乏」主宰の山田由梨。日常にある小さな違和感を拾って作品にすることが多いという。過去のインタビューでは〈演劇は考えたい問題を、自分なりに考えるためのツール〉とも語っている(『Girl’s PARTY!』2019年11月22日)。演出は『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』などの金井紘。数多くのアーティストのMVの撮影を行ってきたナカムラユーキによる映像が、画面全体に奥行きと瑞々しさを与えている。
なお、制作サイドによると、出演キャストのオファーや撮影場所の許可申請などの企画段階から作品宣伝の際の表現に至るまで、関係各所からNGが続出。日本で性教育がタブー視されている現状を常に感じていたという。
そもそも性教育とはセックスの仕方を教えるものではない。早期からの性教育を行うフランスでは、「成人としての人生に備え、平等・寛容・自他の尊重という価値観の基盤を養うのが、性に関する教育である」と定義し、人生におけるリスク削減と予防(若年での望まない妊娠、強制結婚、性感染症など)、性犯罪・性差別・同性愛差別言動への対策、男女平等の促進という3つの観点から性教育は国家政策として取り組まれている(『プレジデントオンライン』2019年7月2日)。『17.3 about a sex』の内容もこれらのことを間違いなく参照しているだろう。
日本でも来年4月より「生命(いのち)の安全教育」と題された授業を小中学校などで段階的に導入していく予定になっており、現在も議論のまっただ中だという。しかし、性の問題は10代だけの問題ではない。今、改めて『17.3 about a sex』は性教育の当事者ならずとも必見のドラマだと思う。
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