コロナ禍の社会に対する「命をかけた賭け」 毛皮族・江本純子の「行動」を見届けたい(末井昭)

2020.8.17


感染防止対策を逆手に取った舞台設計

コロナ禍の中で一番活躍しているものは、Zoom Video Communications,Inc.が提供するZoomアプリだ。ウィキペディアによると、2019年12月の1日のZoom平均ユーザー数は約1000万人だったのが、2020年3月では2億人に増えているそうだ。Zoom会議、Zoom講座、Zoom面接、Zoom飲み会、Zoom演劇(おもしろくないという噂)……Zoomは必要不可欠になった。

『あのコのDANCE』も、打ち合わせはすべてZoomで行っている。オーディションの最終選考も、スタジオ入りする前の稽古もZoomだった。

おもしろいのは、舞台もZoomのようになっているところだ。通常は客席になる場所に、3階建ての仮設住宅のような構造物が組み立てられる。布かアクリル板で仕切ってパーソナルスペースが作られ、登場人物がひとりづつそこに入る。中にはZoomだけで登場する演者もいる。

それを引いて見ると、Zoom画面のようにも見えるはずだ。コロナの感染拡大防止のガイドラインを遵守し、創作、稽古、上演を想定したら、そういうかたちになったらしい。

では客席はどこにあるのかというと、通常は舞台として使われるスペースだ。ここにも演者が入る構造物と同じものが作られ、希望者はそこに入ることができる。その人たちは富裕層とか貴族とか呼ばれるようだ。つまり、集合住宅が2棟向かい合って建っているイメージではないか。

現在はこの美術プランから更新されている(スケッチ:加藤ちか)
現在はこの美術プランから更新されている(スケッチ:加藤ちか)

観客側の構造物のどこかに、全体を写すメインカメラが据えられ、2台のカメラが演者たちの「個室」を写していく。これは「中継」ではなく、「映画」として撮り、各家庭に公演ごとに生配信される。江本さんはこれを「劇場から生まれる生映画」と呼んでいる。そして、この「劇場から生まれる生映画」を、リヤカーに積んだモニターに映しながら、“名もなき誰か”がリヤカーを引っ張り、下北沢の町を歩いていく。どうでしょう? この文章を書いているだけで、何かワクワクしてくるのですが。

おもしろいことが始まろうとしている

見学と称して、毛皮族のZoom会議「族Zoom サロン&ラウンジ」に数回参加させてもらった。最初は確か7月27日だったと思う。そこで話されていたことは「現場からも観客からも感染者を出さないように」ということについてで、コロナ対策ミーティングはその後何回も行われ、観客の靴の裏はどうするかということまで議論されていた。コロナ感染を100%防ぐことはできないけど、99%に限りなく近づけていくことはできるという意気込みだ。

江本さんは今回の公演について、「これは公演というより、やること自体が行動だと思っている」と言っている。

毛皮族の行動理念は、それぞれの「個」から生まれるゲージツで、社会に介入していくことです(=アンガージュマンする)。

とことん「個」の状態から生まれる時間には、芸術になりえるものが潜んでいると見込んでいます。それらが集合したら、このオカしな(もはや異常な?)社会に対峙できるようなエネルギーだって生まれると踏んでいるんです。異常に慣れるのも手。今だと、わたしたちはコロナ禍での演劇づくりにも慣れていかねばいきません。ものすごいエネルギーがいりますが。エネルギー使ってエネルギーを生み出そうとしていることになるけど、いいのか。ダメです。無理をせずにいい感じのエネルギーを生み出す。この作品では、そんなことができないかと。

江本純子「『あのコのDANCE』について」より

9月2日が初日なのに、おそらくまだ台本もできてないはずだ(この演劇に台本があるのかどうかもわからない)。でも、何かおもしろいことが始まろうとしている予感は、ヒシヒシと伝わってくる。

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  • 毛皮族2020Tokyo『あのコのDANCE』

    2020年9月2日(水)〜9月7日(月)
    場所:ザ・スズナリ 東京都世田谷区北沢1-45-15
    チケット発売:8月23日(日)から(予定)
    料金:劇場観覧4000円・生配信2500円

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Written by

末井 昭

(すえい・あきら)編集者、エッセイスト。『ニューセルフ』(セルフ出版)、『写真時代』(白夜書房)、『パチンコ必勝ガイド』(白夜書房)などを立ち上げ、編集長を務める。『自殺』(朝日出版社)で第30回講談社エッセイ賞を受賞。1982年の刊行以来、さまざまな出版社から文庫化され、版を重ねている自伝的エッセ..

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