初めて金を借りたのは8歳の時だった(岡野陽一)
どんな借金にも初めの一歩がある。多額の借金を抱え、時に借金第7世代を標榜する芸人、岡野陽一の場合。競馬もパチンコもまだ知らず、友達と野球に明け暮れた子供時代のあの日々の中に、最初の借金の記憶があった。小銭を受け取った少年の心を惑わせた借金の味、それは、国の税金政策と不可分だった。
「岡ちゃんマン」と呼ばれていた
「え!?いいの?明日絶対返すから!」
初めて金を借りたのは8歳の時だった。年号が昭和から平成に変わった1989年の事だ。
僕が「岡ちゃんマン」と呼ばれていた時代だ。
当時流行っていた、『オレたちひょうきん族』のタケちゃんマンから来ているのだろうが、由来なんて覚えていない。
福井県の田舎で育った岡ちゃんマンは、毎日学校から走って帰っては、着替えてジュース代100円を母ちゃんマンから貰って、日が沈むまで友達と空き地で野球をするというリアルカツオみたいな生活を送っていた。
野球といってもそんなきっちりした野球じゃない。
集まりによって5人対5人の時もあれば、6人対7人の時もあるし、大概9回までなんて出来ない。
暗くなってボールが見えなくなるか、ボールが人の家の屋根に乗ったらお開きだ。
早くボールを失った日には、みんなで近くの自販機の前でうんこやしっこの話しながらケラケラ笑いながら、ジュース飲んで帰るのが異常に楽しかったのを今でも覚えている。
コーラ、サイダー、アンバサ……。
めちゃくちゃうまかった。
もう、あの時のジュースほど美味しくジュースが飲める事はないのだろうと思うと少し悲しくなる。
その日は開始早々にボールが川に流されたので、みんなで行きつけの自販機に向かった。
ポケットの全財産100円を自販機にぶち込み、僕はお気に入りの「はちみつレモン」を押す。
……反応がない。
「へ?」
売り切れのランプはついてない。
一瞬何が起こったかわからなかったが、驚愕の事実に気付き、僕は膝から崩れ落ちた。
「み、みんな!大変だ!!」
「どうしたの!岡ちゃんマン!!」
みんなが駆け寄ってくる。
「……ジュ、ジュースが110円になってる!」
「いやいや、岡ちゃんマン!何言ってん……う、う、嘘だろ……」
そう、消費税が導入されて自販機のジュースが100円から110円になった時だったのだ。生まれて初めて社会の厳しさを味わった瞬間かもしれない。
小学3年生の小さな体に容赦なく消費税がのし掛かる。
こんなに目の前にあるのに…。
全財産が100円の僕は一滴も飲む事を許されないのだ。
呆然と立ち尽くす者、その場で泣き崩れる者、精神が崩壊して奇声を発する者…。
この世の終わりだ。
「……貸そうか?」
幻聴が聞こえる。もう僕は死ぬんだ。最期に「はちみつレモン」飲みたかった…。
「……貸そうか?……岡ちゃんマン、500円あるから10円貸そうか?」
やけにはっきりと聞こえる。
「え?」
顔を上げるとそこには、500円玉を持ったクラス一の金持ちの湯浅様がいらっしゃったのだ。
「え!?いいの?明日絶対返すから!」
もし、この時借りなかったら……。
聞いた事がある。一度人間を食べた熊は、人間の味を覚えて人を襲うようになると。
この日僕は覚えてしまったのだ。
人から借りた金で飲むジュースの旨さを……。
<参照>日本の消費税増税ざっくり年表
1989年 3%
1997年 5%
2014年 8%
2019年 10%
『SankeiBiz』「自販機『価格のジレンマ』」(2013.5.3)によると、3%の消費税が導入された1989年には缶飲料の価格は100円から110円に値上げされた。
スロッターの皆様ありがとうございました
どーも!皆様お目目汚しすみません!
私、プロダクション人力舎で芸人をやっております、岡野陽一と申します!
初めて人様にお金をお借りした時の事を思い出していたら長くなってしまい、御挨拶が遅れてしまい大変申し訳ございません!
私、芸もないのに借金で飯を食べさせて頂いてるだけの身分の低い人間、いや、肉がたまたま人間の形になっているだけの肉です。
前回、一度『クイック・ジャパン ウェブ』さんで、「自作のパチンコ台の作り方」という糞みたいな記事を書かせて頂いたのですが、この度連載させて頂けるという事で本当に感謝しかございません。
これもひとえに、自粛でパチンコ屋に行けないスロッターの皆様が、前回の記事にバカみたいにいいねボタンを連打して下さったお陰でございます。
本当に自粛スロッターの皆様ありがとうございました。
そして、『クイック・ジャパン ウェブ』さんの広いお心に感謝です。
では、私は媚び終えたので、次の段落から自己紹介がてらの糞小説パートに戻ります。