『Ghost of Tsushima』は文化盗用なのか?抜け落ちた“ゲーム”としての論点

2020.7.27

ゲームならではの意味のある議論とは?

あと、この話は全然、ゲームについての話にもなっていない。題材へのスタンスだけで作品の評価を左右しようとしているなら、やはり彼らは、その態度とは裏腹に、文化についてまともに議論しているとは言えない。

ならばゲームとして語るなら、この作品はサッカーパンチの過去の人気作『inFAMOUS』シリーズからの系譜として考えるべきである。

『inFAMOUS』はそのタイトルが示唆するように、主人公が悪の道に進むか正義を貫くかで葛藤することが作品のテーマになっている。『Ghost of Tsushima』の、主人公が正々堂々とした侍らしさを捨て、暗殺や焼き討ちなどの非道な戦い方に堕ちていく様は、『inFAMOUS』から正しく継承されたものなのだ。

そんなわけで、この作品はただ侍を美化したというより、『inFAMOUS』にあったテーマを、日本的な「侍」という題材に載せ替えたと言っていい。そしてその載せ替えは、うまくいっている。

ただ現状『Ghost of Tsushima』は、主人公が非道な戦い方に忸怩(じくじ)たるものを感じる描写なんかもあるんだけど、ゲームのルールとしては男らしく一騎打ちなんかもできるようになっていて、じゃあ正々堂々としてるんだから、この人そんなに武士として堕落したとも言えないんじゃないの、と思わされる。

『Ghost of Tsushima』 ゲームプレイトレーラー

つまり葛藤を物語の中心に据えるなら、ベセスダ・ソフトワークスの『Dishonored』シリーズのように、プレイヤーが非道な戦い方を選ぶか、正々堂々を選ぶかで、主人公に対するゲーム内の評価が変わってもよかったのではないか。

そういった趣向のゲームは過去いくらでもあったから、別段『Ghost of Tsushima』がそれをやれなかったとは思わない。このゲームのプレイフィールはユービーアイソフトの『アサシン クリード オデッセイ』にも似たところがあったが、あの作品のほうがまだ、そういったプレイヤーの行動と物語の趨勢のあり方に関連がうまくつけられていた気がする。

むしろ、そういう関連がきちんとつけられていないからこそ、せっかく主人公の苦悩がテーマなのに、それがプレイヤーにとっても切実な問題として受け取られず、つまり主人公の苦悩に感情移入できず、ただただ「日本人が弱者として描かれ、美化されている」みたいな印象を持つ人を生んだのではないだろうか。

……みたいな話を、すべきである。別に文化盗用の話をしてもいいと思うけど、ゲームなんだから、ゲームをプレイして、ゲームならではの何が行われているかと関連させながら議論したほうが、みんなにとって意味があるはずだ。けど、昨今のポリコレ事情は、例の「歴史警察」なんかと同じで、ひとまずそれを指摘することに終始している気がする。

この記事の画像(全1枚)




関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

米光一成ジャーナル

小説に作者がいるように、ゲームにもいる、著作権もある。なぜ認識されないのか

米光一成ジャーナル

「香川県ゲーム規制条例」は、数の暴力によるゴリ押しで進んだ悪夢だ

子供のゲームを制限したら、明るい未来につながらない(川田十夢)

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」