ポストコロナにおける「新しい生活様式」とは――二極化する「身省」と「身体」文化

2020.7.9


オフィスは幹部の特別空間、ワーカーはリモート仕事が当たり前に

コロナ危機でも、命の値段を計算し、ロックダウンや「自粛」の是非が判断される。ある経済学者によると、日本人ひとりの「経済価値」は1〜3億円だという。それとCovid-19で出る死者数を掛けて出た総額と、ロックダウンや「自粛」で失う損失とを比較して、どの程度の死者数までは許容できるかという試算をすると、コロナでかなりの死者が出ても、交通事故の「被害」とさほど変わらないという。なるほどとも思う一方、どっか変だなという思いがするが、これが「コラテラル」の時代の考え方である。

とはいえ、Covid-19がもたらした「分子革命」は、古いトレンドを振り切る方向ももたらしつつある。ただし、あらゆる革命も変革も、すでにミクロな分子的レベルで起きつつあった変化を急激に広げ、露にするに過ぎない。リモートワークにせよ、テレミーティングにせよ、テイクアウトやデリバリーはもとより、Covid-19以前からすでに始まっていた傾向である。

これらは、当然、今後もっと強まるであろうし、もともと「ソーシャルディスタンシング」の文化が根づいている日本では、過剰なまでに進むだろう。会社も、オフィスは幹部だけの特別空間となり、ワーカーはリモートで仕事をすることが当たり前になる。住宅も、ファミリー同士でも「三密」が不安になり、カプセルホテル状のスペースを自宅に設ける者も出てくるだろう。

アムステルダム「紅灯街」の営業再開と、新しい経営方法の模索

では、「三密」ワークやビジネスのほうは衰退するのだろうか? 7月1日、アムステルダムのアウデーケルクス広場に近い運河沿いの「紅灯街」が、3月の中旬以来つづいた封鎖命令から解除され、営業を再開した。この間、そこで働くセックスワーカーたちがデモをしたり、「飾り窓」が建ち並ぶこのエリアを集合ビルに移す案が取り沙汰されたりした。が、結局、ここでも経済重視の「コラテラル」主義が実行されざるを得なかった。アムステルダム市にとって、これらの施設は重要な観光資源であり、有力な収入源であるからだ。

現地を取材したニュースにあるセックスワーカーのおもしろい発言があった。自分たちは、これまでも「コロナなんか比じゃない」疫病と背中合わせで仕事をしてきたのだから、「コロナなんかを回避する術はちゃんと心得ている」と言うのだ。そのかわり、客ごとに室内やベッドを殺菌するとか、客の体調をあらかじめセンシングし、怪しい客は入れないとか、「衛生セキュリティ」を高めるという。すでにHIV検査は組合が定期的にしているから、それにPCR検査を加えることは難しいことではない。

アムステルダム「紅灯街」が7月1日から営業再開されたニュースを報じる『FRANCE 24 English』

だが、そうは言っても、コロナ禍が心理的にもたらした影響は根強く、客足は元には戻らないかもしれない。同じことが、飲食店についても言えるし、単なる抗菌の徹底だけではすまない難題が「三密」関連の美容院や歯科医院やライブハウスなどにものしかかっている。すでに新しいタイプのデザインや経営方法が模索され、その中には、早くも観光名所になり始めた、これまたアムステルダムの「Mediamatic」の温室のような仕切りのボックスに客を入れるレストランのような試みもある。ちなみに、Mediamaticは、かつてはマイナーなアーティストネットワークであったが、今ではシェアリングやエコロジーを意識した新ビジネスになっている。

アムステルダムのレストラン「Mediamatic」がコロナ禍で始めた新しい営業スタイル

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