箕輪厚介氏の発言から「売れる」を考える(トリプルファイヤー吉田靖直)
ソリッドなビートに、なんとも形容し難いユーモラスな歌詞で人気を誇るバンド「トリプルファイヤー」。作詞を担当するボーカルの吉田靖直は『タモリ倶楽部』や大喜利イベントに出演するなど、独特なキャラクターを活かして幅広いフィールドで活躍している。
女性問題で世間を騒がせた編集者の箕輪厚介氏によるある発言を読んで、吉田氏は現在の自身の立ち位置を踏まえつつ、「反射的に」言いたいことが出てきたそうだが――。
反射的に何かを言いたい気持ちに駆られた
編集者の箕輪厚介氏が女性問題でバッシングを受けたあと、オンラインサロン内のメンバーに向けて釈明をする動画について書かれた『文春オンライン』の記事を読んだ。箕輪氏のセクハラ行為については、今さら言いたいことは特にない。個人的に記事の中でとりわけ響いたのは、自分は出版人から嫉妬されている、と箕輪氏が述べていた部分だった。
あとは出版人の嫉妬だよね。箕輪むかつくっていう。でもこれ箕輪むかつくっていうのは、今回箕輪のセクハラ騒動で、文春砲で箕輪が黙って、3日間ぐらい何もツイートしなくていきなり「東京改造計画」ドーンってやってこんだけニュースになってめちゃめちゃ売れて、また嫉妬してるだろうね。「ふざけんなこいつ」って
『文春オンライン』(「幻冬舎 箕輪厚介氏『何がセクハラだよボケ』『俺の罪って重くない』『反省してない』オンラインサロン会員へ大放言《動画入手》」2020年5月30日)
箕輪氏が編集を担当した堀江貴文氏の著書『東京改造計画』は出版前に予約が殺到し、初版3万部から発売前に2万部の重版がかかったらしい。本が売れないと言われている時代に5万部はかなりの数字なのだろう。
もうどうしようもないよ。実力が違いすぎるんだもん、正直。嫉妬されても申し訳ないっつーか、実力が違いすぎるんだよ
同上
以上の発言時の箕輪氏は、かなり酒に酔っていたことをつけ加えておく。
一応言っておくと、私は箕輪氏のことをそれまでなんとなく知ってはいたが特に好きでも嫌いでもなく、むしろいかにもヒールっぽい風貌でおもしろそうな人だな、と思っていた。
しかし、今回の発言を読んで、箕輪氏の自信が思った以上にシンプルな図式の上に成り立っていることがショックだったというか、箕輪氏的な構図の中では確実に下位に属する自分を直感し、反射的に何かを言いたい気持ちに駆られた。
編集のことはよくわからないが、編集者にとって関わった著作の売り上げは重要事だろう。一部から「天才」と呼ばれているように、売り上げを出す面で箕輪氏はおそらく非常に能力が高いのだと思われる。
箕輪氏が多く携わってきたようなビジネス書というか啓発書というのかああいうジャンルの本を私も何冊か買ったことがあるし、やる気を出すための特効薬としておもしろく読んだことも多々ある。存在を否定はしないが、しかしああいう本は書籍の中でもかなり売り上げを出しやすいジャンルだと思っている。その中でもヒット作を出すのは簡単なことではないのだろうが、箕輪氏が「嫉妬」の根拠としている「編集者の実力=本の売り上げ」的な論理が出版界の共通認識だとしたら、すべての出版社が自己啓発本しか出さなくなるのではないか。そんなのは嫌だし、そうはならない。
「早くいい旦那さん見つけないとね」とアラサー女性が言われたときの気持ち
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