噴出する「東京差別」恵まれた人たちが耳を傾けるべき理由(中川淳一郎)

2020.4.28

東京民と地方民の終わらない対立

「あぁ、オレらのこと『トンキン土人』だのなんだの好きに言えよボケ!」と東京都民は言いたくなるかもしれない。都民の反論は「てめぇら田舎者の稼がない連中にオレらが生み出した富が地方交付税としてどんだけ使われてるんだよ。このボケが! お前らも稼げアホ!」といった調子だ。

しかし、地方民としても「労働力を地方から奪っておいて何を言うのだ!」と反論したくなる。ネットでは、地方vs東京、というイシューで、まったく噛み合わない議論が常に展開されてきたが、今回はついに地方が東京に対して猛烈にdisを浴びせることが可能になった。何しろ「日本最大の感染源」という事実は都民にとって反論の余地がない。

首(こうべ)を垂れて「申し訳ないッス」と言うしかないのだ。都民である石田純一が沖縄でゴルフを楽しんだことも猛烈に批判されたし、感染者数が当時ゼロだった鳥取の砂丘に東京人も含めた人々が殺到したときも「頼むから来ないでくれ!」と鳥取県民のイラ立ちが感じられた。

ゴールデンウィークには、6万人が沖縄に行く航空券を予約しているというが、東京からも相当の人数が行くことだろう。すでに県民からはブーイングが浴びせられている。4月26日に東京から山梨へツーリングに来て骨折した男性に対しては「放置すればいい。当然それくらいのリスクはとる覚悟だろ」などと辛辣な意見が書き込まれた。 徳島県の知事も他県ナンバーに対して事実上「入ってくるんじゃねぇ!」的な宣言をし、実際に他県ナンバーの車に対する嫌がらせも発生したという。

首都圏のコロナ禍を避けるべく地元に帰省する東京(及び近隣県)住民が「コロナを拡大させるな!」と非難を浴びたが、地元に残った人々からすれば「お前達は地元を捨てたんだろ? 一生東京にいろよ」という気持ちを持つであろうことは存分に理解できる。

だから、今回のネット上での「地方からの東京への怒り爆発」にはある程度の理解を示すべきだと私は考えている。とはいっても、叩かれ過ぎな感は4月25日の段階で出てきている。

私は「行列嫌悪主義者」

小池百合子・東京都知事が4月23日に「スーパーには3日に1回」と要請をした結果、翌日、スーパーに大行列ができた。当然いつものように「東京人はなんでこんなに行列が好きなんだよw」といった声が書き込まれる。いや、こんな要請をしたら人が殺到することは分かっているのに小池さん、何をお願いしているんだよ……と私も思ったが、「3日に1回しか行けない!」→「じゃあ、今日行かなくちゃ!」→「同様に思った人殺到で結局“3密発生”」という間抜けな事態になったのだ。

東京におけるこの事態もネットにより拡散され、いつもの「トンキン土人」「なんで東京の奴はこんなに行列が好きなんだよw」の声が書き込まれた。私も正直行列を作る人の気持ちはまったくわからない。

スーパーの前に行列ができているのであれば、少し離れた場所の、空いたコンビニで買うか、時間を改めればいい。この行列行動については正直「愚者の行進」としか思えない。元々私は「30分行列を作って一番行きたいラーメン屋に入るのはさもしい行為。むしろ15分歩いて二番目に行きたいラーメン屋に行列なしで入りたい」と考える「行列嫌悪主義者」である。

だから行列ができる東京ディズニーランドなど当然一生行く気もないし、開店前のドラッグストアにも並ばないし、福袋も買わない。行列に並ぶぐらいだったら不便と娯楽を我慢したほうがマシ、という行動規範を持っている。当然、行列の亜流である「渋滞」も嫌いなため、ゴールデンウィークやお盆、年末年始に車でどこかへ行くことなど一切ない。

東京を叩きたくなる気持ちも理解できる

今回、地方の人々から寄せられる揶揄や誹謗中傷については、東京都民(の中の恵まれた人々)は一応キチンと目を通しておいたほうがいいと思う。今まで、あまりにも当たり前のように楽しんでいるパリピ的状況をSNSを通じて発信しまくってきたことに対し、地方からの怒りが噴出し、「東京差別」が発生しているのだ。

私は今回の東京差別についてはまっとうなものだと思うし、我々を叩きたくなる気持ちも理解できる



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中川淳一郎

(なかがわ・じゅんいちろう)ネットニュース編集者。1973年東京都出身。1997年博報堂入社、CC局(現PR戦略局)配属。2001年退社。以後無職、ライター、雑誌編集者などを経て現在はウェブメディア中心の編集者に。ひたすらネット上の珍騒動や事件を毎日テキストファイルに記録する生活を長年つづけている。

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