なぜ興行主は「無観客開催」を決断できないのか
新型コロナウイルス感染症の影響で、さまざまな興行が中止や延期を余儀なくされている。他でもないUUUMも、主催するファンイベントを軒並み中止とする決断をした。
こういったニュースが流れるたびに、SNSなどでは「無観客開催すればいいじゃないか」との声が上がる。確かに感染リスクを抑えられる上に、大相撲のように興行をやり切った前例もある。しかし、興行主が無観客開催を決断するためには数々の障壁がある。想像に難くないかもしれないが、一番の障壁は収益化だ。
無観客開催を決断した瞬間、真っ先に諦めなければならないのは収益の柱となる観客の入場料だ。興行主は「入場料抜き」にしても採算が合うと判断すれば、無観客開催を敢行できる。多くの興行が中止か延期の決断をしているのは、無観客開催の経済合理性が見えないことにある。
こうした事態を受け、「動画配信に入場料を設けてはどうか」との声も上がっているようだ。しかし、個人的にはうまくいかないと考えている。理由はいくつか挙げられるが、一番は日本人に寄付習慣がないことだ。
初めて海外旅行に行ったとき、レストランやホテルでのチップ文化に戸惑った人は多いだろう。日本人は「気前よくその場で払う」よりも「元からサービス料として料金に組み込んでおく」ことをおもてなしとする価値観が根づいている。そのため、目の前のサービスの背景や従業員の努力を想像する習慣がないのだ。
これを無観客開催に置き換えるとどうなるか。観客は、オフラインイベントの臨場感や熱量を期待しているため、比較的味気なく感じる動画配信でのライブに対価を支払おうとする人はあまり多くないだろう。ましてや、目の前のパフォーマンスの「裏側」を想像し、お金を払おうとする人はもっと少ないはず。こうした日本人の特性もあり、動画配信でのライブパフォーマンスは、定着しないのではないかと考えている。
最後に。東京オリンピックが延期となったが、個人的には「世界初」の決断として注目を集めるし、うまく乗り切れば日本のプレゼンス向上に結びつけることもできると考えている。長期的な収益にもつながるだろう。残念に思う人もいるかもしれないが、間違いなく歴史に残る時代の当事者として生きていると思えば、少しは怒りも収まるのではないだろうか。