田嶋陽子が再ブーム。“日本でいちばん誤解されたフェミニスト”はこんなにカッコよかった(清田隆之)

2020.3.7

男性優位社会という巨大構造に石を投げる

私がフェミニズムに出会ったのは30代になってからだった。学生時代から「サブカル」と呼ばれるジャンルの愛読者だった私は、TBSラジオの深夜番組『文化系トークラジオ Life』でサブカルと社会学が交差する言説に興味を持ち、その延長で北原みのりや上野千鶴子の本を手に取った。当時の私にとってフェミニズムはサブカルだった。

『女ぎらい』
『女ぎらい』(上野千鶴子)

読んでみて、そのあまりのカッコよさにびっくりした。生活や習慣、ルールやシステム、恋愛、セックス、経済、メディア、政治……など社会のあらゆるところに潜む性差別にひとつひとつ異議を唱えていき、しかもその言葉が知的で論理的でユーモラスでエモーショナルで、読みながらぐいぐい引き込まれていった。

性差別の背後には岩盤のように強固で分厚い、長い歴史をかけて作り上げられてきた男性優位社会という巨大構造が見え隠れする。そこに石を投げつづける姿勢がめちゃくちゃロックでパンクに映ったし、文章を書く仕事に携わる人間として、見たくない自分や目を背けたくなる自分のことも果敢に言語化しながら、男性である自分自身とこの社会の関係をもっと知っていきたいと思った。

身を切るような体験をまっすぐ言葉にしていく

しかし、そうしてフェミニズムに魅了されたはずなのに、私は今になるまで田嶋陽子のことを「いつも男に怒ってるおばちゃん」のまま放置していた。「日本一有名なフェミニスト」であるはずの彼女の本を読んだことすらなかった。

今回、『エトセトラ』をきっかけに『愛という名の支配』も読んでみた。クールで優しくて果敢な自己開示に満ちた、すさまじい本だった。そこで田嶋は、「さみしい私の心のよりどころ」だったという、中学生のころに飼っていた猫のエピソードを紹介している。

ところが、その猫が皮膚病にかかったんです。そうしたら、うちの母が「猫を抱いて寝ると結核になるから、抱いちゃいけないよ。ふとんに入れたらいけないよ」とくり返し言いました。あんまり言われて、私もだんだん気持ちわるくなってきて、ある日、足元からふとんにはいってきた猫を蹴りだしたんです。二月の寒い時季だったので、猫もしつこく何回もはいってきました。そのたびに足で外に出していたら、あきらめたらしくて、階下に降りていきました。そうしたら、翌日、その猫が近所の畑のなかで死んでいたんです。

『愛という名の支配』より

本当にすごい話だと思う。こういう身を切るような、それでいて誰もが経験し得るかもしれないような体験をまっすぐ言葉にしながら、そこから差別のことや愛のことや文学のことに思索をめぐらせていく姿が本当にカッコいい。

『愛という名の支配』(田嶋陽子)

田嶋は『エトセトラ』のインタビューで「私のための、私が生きるためのフェミニズムであって、フェミニズムが先ではないからね」と語っているが、まさに「生きるためのフェミニズム」を象徴しているエピソードではないだろうか。

私はフェミニストたちの言葉から、切実で実存的な個人の問題を深く掘り下げながら、その先に見える他者や社会の問題について身体感覚を伴って言葉にしていくのがフェミニズムの根本であると学んだ。

知るのはつらいし、考えつづけることはときに疲れる。それでもフェミニズムは男性にとっても必須なものだと思う。それは男たちを被害者にして甘やかすものでは決してないのだ。



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清田隆之

(きよた・たかゆき)1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。 『cakes』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿するほか、朝日新聞..

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