佐久間宣行、パンサー向井、ぺこぱ──2022年印象に残ったラジオを奥森皐月と振り返る

2023.3.26
奥森皐月

リスナーの印象に残ったラジオ放送を表彰する「プラネット賞」、2022年も年間賞・話題賞が出そろった。

年間賞は2022年4月放送の『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』「娘との箱根旅行」回、話題賞は2022年10月放送の『ぺこぱのオールナイトニッポン0(ZERO)』「松陰寺(太勇/松井勇太)さん第一子誕生」回がそれぞれ受賞した(いずれもニッポン放送)。

このインタビューでは、“ラジオ変態”のタレント・女優であり、プラネット賞年間賞企画のアンバサダーも務める奥森皐月と共に、年間賞・話題賞のみならず2022年印象に残ったラジオ番組について振り返る。


『佐久間宣行ANN0』から考える「理想的なラジオ」のあり方

──今年のプラネット賞・年間賞は、『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』の「娘との箱根旅行」回が受賞されました。

佐久間宣行ANN0
『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』プラネット賞2022年間賞受賞記念イラスト(QUESTION No.6)

奥森 あの放送回は、「日本民間放送連盟賞ラジオ部門中央審査生ワイド番組部門」を受賞されたんですよね! 何がすごいって、特別な企画やライフイベントの報告ではなく、エピソードトークだということですよね。

──確かにそうですね。2022年のプラネット賞・月間賞に選ばれた放送回にはパーソナリティのライフイベントが多かったので。

奥森 たとえば『三四郎のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)での小宮(浩信)さんの結婚報告や、『アルコ&ピース D.C.GARAGE』(TBSラジオ)での酒井(健太)さんの第一子誕生報告などがありましたよね。もちろん、それらの回が月間賞に選ばれているのも、ラジオのいいところだなと思います。

佐久間さんの「娘との箱根旅行回」はエピソードトーク自体もよかったですけど、それに対するリスナーからのメールがたくさん届いて、ひとつの放送回が作り上げられた。ラジオの存在意義を改めて考える回になったのではないでしょうか。

──確かに、エピソードトークだけの時点では、ほっこりしてそのまま終わりそうでした。

奥森 有名人のエピソードトークは、テレビなどでも話題になりやすいですけど、トーク内容に対してリスナーが反応して、コミュニケーションを取りながら作り上げられて、それが広がっていくのは、ラジオの生放送ならではだと思います。

奥森皐月

──最終的にどんなかたちになるのか、誰にもわからないですしね。

奥森 佐久間さんが「めっちゃいい話にしてやるぞ」と意気込んでしゃべっているわけでもないというか、意図せずいい空気が作られた感じがするところがまたいいんですよね。感動を作りにいっているわけじゃないのに、結果的に感動的になったところが。

──佐久間さんはラジオでよくご自身の失敗談をお話しされていて、今回も、「思いがけず娘と旅行できそうになっているが、なかなかうまく誘えない」といった失敗談が内包されていましたからね。

奥森 嘘がなくて、人間味が感じられて、親近感が湧きますよね。せっかく娘さんが「私も行こうかな」と言ってくれてるのに、「朝早いから起きられないでしょ」と言ってしまうところとか、笑ってしまうけど、佐久間さんと同じような立場にいる人からすれば、娘に対してカッコつけたくなる気持ちとか、素直に言えないもどかしさとか、自分と重ねてしまうところがあるでしょうし。

──『佐久間宣行ANN0』は、リスナー層がかなり幅広いですよね。

奥森 娘さんと同じくらいの年代の方からのアドバイスが届いていましたし、佐久間さんと同じくらいかそれ以上の方々も聴いているから、「亡くなった父を思い出しました」といったメールも届いていましたよね。

あの番組がもともと持つ偉大さを再確認しましたし、その偉大さが特に発揮されたのが「娘との箱根旅行回」だったと思います。内容はもちろんのこと、ラジオ番組のあり方としてすごく印象的でした。

──「ラジオ番組のあり方」の話が出ましたが、奥森さんにとって理想的なラジオはどんなものですか?

奥森皐月

奥森 『伊集院光とらじおと』(TBSラジオ)の最終回で、伊集院さんが「いいラジオって難しい」という話をされていて。それはパーソナリティの考え方にしても、リスナーの捉え方にしても、人それぞれのものだと。私が伊集院さんを好きだという前提もありますけど、本当にその通りだと思うんですよ。

その上で、私にとっての「理想的なラジオ」において大事なのは、「どんなテーマを」話すかよりも、「どんな言葉で」話してくれるかということ。パーソナリティご自身のよさが出るラジオが、いいラジオだと思うんですよね。「この人はこのテーマをどんなふうにしゃべるんだろう」と、パーソナリティの方に興味を持って聴くので。

──確かに、同じテーマで話したとしても、パーソナリティが持つ視点などによって印象はまったく異なります。

奥森 複数のパーソナリティの方が同じイベントに出演されたお話とか、それぞれのラジオでそのイベントのことを話されていても、全部印象が違う。それぞれで見えているものが違うからだと思うんですね。

リスナーがその場に居合わせなくても、パーソナリティの視点を通した状態の映像を想像しながら聴ける。それがすごく魅力的だなと思います。

──それこそTBSラジオの朝の帯番組が『伊集院光とらじおと』から『パンサー向井の#ふらっと』にバトンタッチされることが決まったときも、出来事として見ればひとつですが、伊集院さんと向井(慧)さんがそれぞれの番組で話されたことはまったく違いますよね。

奥森 あのときの向井さんのお話はよかったですね。もともとラジオ好きでパーソナリティになる方はたくさんいらっしゃいますけど、向井さんってリスナーとしても本当にすごくラジオが好きな方で。

だからリスナーとしての思いや熱さみたいなものを今も持ち合わせていて、その状態でパーソナリティをされているからこその言葉がある。向井さんのあのときの葛藤は、リスナーとしての気持ちに寄って語られている印象がありました。

パーソナリティとゲストの化学反応によるおもしろさ


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鈴木 梢

(すずき・こずえ)1989年、千葉県市川市生まれ。出版社や編集プロダクション勤務を経て2019年からフリーランスに。主に日本のエンタメ/カルチャー分野の企画・執筆・編集を行う。もちもちしたものが好き。

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