『THE ROLAND SHOW』『進撃のノア』チャンネル演出・ソンDが語るYouTubeドキュメンタリーの流儀

2022.11.24
『THE ROLAND SHOW』『進撃のノア』チャンネル演出・ソンDが語るYouTubeドキュメンタリーの流儀

文=山本大樹


カリスマホスト・ROLANDの動静に密着した『THE ROLAND SHOW』、北新地クラブ・ランスの社長を追った『進撃のノア』。夜の世界を生きる人々にカメラを向け、計200万人の登録者数を誇るチャンネルを演出するのが、通称“ソンD”だ。

「見せたくない部分も全部見せる」という過激な密着スタイルで注目を集める彼の映像制作の流儀に迫る。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.163(2022年10月27日(木)から順次発売)掲載のインタビュー記事を転載したものです。


「僕のカメラは忖度しない」

ソン・ギョンジュン(ソンD)
映像ディレクター。『THE ROLAND SHOW』、『進撃のノア』YouTubeの演出のほか、『PRODUCE 101 JAPAN』の制作プロデューサーも務めるなどTVの現場でも活躍中

──ソンさんはどんなキャリアを歩んできたのでしょうか?

ソン 僕は生まれも育ちも韓国で、アイデンティティも生粋の韓国人なんです。大学生のころに日本に来て、日本の大学を出て大手のバラエティ制作会社に入社しました。

──当時はバラエティをメインに担当されていたんですか?

ソン そうです。ただ、当時の僕は日本語がすごく下手クソでADの業務もろくにもらえなかったんで、会社の車の運転と飲み会の盛り上げ役が主な仕事でした。でも、あるとき密着バラエティ番組で6年間で一度も勝利したことがない少年野球チームに半年間密着したんです。カメラは先輩のディレクターが回すので、僕は毎日練習に顔を出して子供たちの手伝いをしたり、落ちたボールを拾ったりしてました(笑)。

──今の密着スタイルにもつながるエピソードですね。

ソン そういう泥臭いこともやるのは今と変わらないですね。ただ、ドキュメンタリーって相当タフな仕事なんですよ。その現場でも先輩が途中で体調を崩してしまって、僕が急遽ディレクターをやることになったんです。結局、そのドキュメンタリーは、最後弱小チームが強豪チームに逆転ホームランで初勝利を挙げる……という劇的なストーリーになって。そのときに「密着って面白いな」って思ったんですよね。

──バラエティよりもドキュメンタリーのほうが自分に合っている、と。

ソン 韓国人の僕から見て不思議だったのが、日本のバラエティって芸能人にすごく忖度するじゃないですか。「〇〇さんは冷めた弁当は食べないから温かい弁当を別途出す」とか、そういう文化がすごく性に合わなかった。だから会社に「ドキュメンタリー番組に配属してくれ」とずっと言ってました。それで希望が叶って、『ウーマン・オン・ザ・プラネット』という番組で半年間、NYで日本人のモデルさんの密着をしました。そこで全13話を放送して、自分は密着ディレクターに向いていると確信したんです。

取材対象者との厚い信頼関係

──ソンさんのツイートを見て気になっていたんですけど、「『私を取材してください』と言って会いに行ってがっつり打ち合わせしたら『やっぱりやめます』って言われるのが9割」っておっしゃってましたよね?

ソン ははは(笑)。ROLANDさんのYouTubeでわりと名前が知られるようになってから、いろんな著名人の方から「私を撮ってください」ってオファーが来るんですよ。だから僕は最初に「本当に全部隠さず撮りますけど大丈夫ですか?」って言うんです。そうすると、著名人の方は自分のマイナスの部分を出したくないっていう人が多くて。「やっぱりやめます」となることはしょっちゅうあります。

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──ROLANDさんも進撃のノアさんも、ソンさんの条件を受け入れているのがすごいですよね。

ソン ROLANDさんは本当に僕に隠すことがない人なんで。それくらい深い関係性なんです。ノアさんも「私を撮ってください、なんでもお見せできます」と言ってくれたんですが、やっぱり僕の密着が想像を超える激しさだったらしく、最初はすごく警戒していましたね。今ではもっと信頼関係も深くなったので、撮りやすくなりました。

──「全部隠さずに嫌な部分も撮る」って相当の信頼関係がないと難しいことですよね。

ソン そうです。だからまず僕は彼らと徹底的に向き合う姿勢でいる。彼らから何時に電話が来ても必ず出ますし、「今すぐ来てほしい」と言われたら理由も聞かずにすぐ飛んで行きます。「なんでも頼んでください、なんでもやります」って伝えてますから。ただ僕はディレクターなんで絶対にビデオカメラとレコーダーは持っていきますけどね。

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──「こんなヒヤヒヤする場面も撮っていたのか」と驚くようなシーンも多いです。

ソン 一度だけ動画を出すか迷ったことがあったんです。ROLANDさんがイタリアンレストランをオープンしたときに、あまりにも店がうまく回ってなくて。「この動画を世に出したら店が潰れてしまう」と思ってROLANDさんに相談したんですよ。そしたら「これを観て店のみんなと反省するから、出してほしい」と言われて。結局、その動画がきっかけでお店にも注目が集まって、食べログの評価もどんどん上がってきた。だから、光も影も全部見せれば結果的にはいいことしかないんじゃないの?って思ってますね。

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──影の部分やうまくいっていない部分も全部見せれば、取材対象者にとってもメリットがある、と。

ソン 『進撃のノア』でも、キャバ嬢が失敗したり怒られたりするシーンを出すと、批判的なコメントも結構集まるんですよ。でも、「今回の動画では失敗したけど今は頑張ってます」ってSNSで発信して、逆に人気を集める子もいる。たまにホストクラブやキャバクラのPRだと勘違いされるんですが、僕は絶対に彼らのPRはしないと決めているんです。でも、僕の動画をうまくPRに使って有名になるぶんにはいいと思っているので。

──なるほど。

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ソン 僕からしたら、少年野球の子供たちも、ROLANDさんも、ROLANDさんの店の従業員も、全部同じ人間。だから接し方も変えないし、忖度したりPRしたりもしないんです。

──そこまで徹底してフラットな目線でいるんですね。

ソン そう。韓国にはキャバクラやホストの文化がないから単純に不思議なことも多いですし、ただそこにいる人間のドラマが面白いから撮っているだけなんです。僕が後輩のディレクターに口を酸っぱくして言ってるのが「青森のりんご農家の方が見ても面白いものを作ろう」と。業界人に評価されてもなんの意味もない。日本だとドキュメンタリーはインテリ層が見るものって思われがちなんですけど、いいドキュメンタリーは絶対にどんな人にも刺さりますから。

釜山国際映画祭のレッドカーペットを歩くソンD

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山本大樹

(やまもと・だいき)編集・ライター。1991年生まれ、埼玉県出身。明治大学大学院にて人文学修士(映像批評)。編集プロダクション勤務を経て、2019年に独立。現在『クイック・ジャパン』外部編集・ライターのほか、『BRUTUS』、『オードリーとオールナイトニッポン』シリーズ、『三四郎のオールナイトニッポ..

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