謝罪ネイティブ世代の若者たちと、謝らないおじさんたち
速水 ちなみに、今カレの名前は、春木開っていうんだけど、彼が上げている動画を見ると、彼、めちゃくちゃたくさん謝ってるのよ。
おぐら 謝罪動画のプロですね。
速水 恐らくこれ、ガーシーchのバタフライ効果というか、みんな暴露系になっていってることへの対抗として謝罪系が登場してるっぽい。YouTubeでは、暴露vs謝罪の戦いが始まってる。
おぐら 謝罪って本来は不義理なり不正なりの説明責任を果たすために、社会的立場を鑑みた上で、きちんと区切りというか、けじめをつけることが目的だったわけじゃないですか。でも今や、いちコンテンツとしての見映えを追求するほうに目的がスライドしている。その結果、何かの閾値(しきいち)というか臨界点を突破したと思うんです。とにかく謝罪だ、という流れはSNSが出てきて以降かなり大きなムーブメントになっていきましたけど。
速水 でもね「謝罪ブームですよ」と適当な感じで言ったけど、やってる人はみんな若いわけ。
おぐら 確かに若い。
速水 若い人は動画で謝るけど、おじさんたちは謝らないなっていう話もあるんじゃない?
おぐら おじさんは謝らないですよ。最近だと、吉野家の例の発言も、会社としては謝っても本人は謝ってないですし。
速水 おじさんが謝らないケースはすごく多いよね。
おぐら おじさんは謝らないけど、デジタルネイティブは動画で謝る。
速水 さっきの「謝罪動画のつづき」がどこから始まったかっていうと、去年のメンタリストDaiGoあたりからなんじゃないかな。「生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい」、「ホームレスの命はどうでもいい」という発言が炎上したときに、彼はまったく謝罪するつもりのなさそうな謝罪動画を上げているのね。注目を集めたついでに、謝罪で失敗してさらに人目を引く手法という感じ。このあたりから“エンドレス謝罪社会”が始まってる気がするよ。もう“このあとは有料チャンネルで!”って開き直ってた印象。
おぐら 謝罪なんて最も公共性が求められるはずなのに、有料の会員登録をしないと見られない。
速水 「サロンのほうではもっと詳しく事情を話します!」っていう。
おぐら 一方で、おじさんたちが頑なに謝りたくないのは、そのぶん謝罪を重く考えているともいえるんじゃないですか。
速水 実は謝罪って、理由を説明する機会でもある。でも「こういう理由で、仕方なかった側面もあります」っていうのは、謝罪で一番やっちゃいけない態度でもある。謝罪で叩かれて、ますます火が大きくなるっていうのも、よくあるやつでしょ。謝罪するのもリスク拡大するだけだし、やめましょうってなってそう。
謝罪は形骸化し、コントになっていく
おぐら 謝罪動画ネイティブにとって、謝罪はピンチだけどチャンスでもある。
速水 だって、謝罪が一番稼げるコンテンツなんだもの。
おぐら 謝らない人は、謝罪を稼げるコンテンツだと思ってないから。
速水 どっちが誠実なのかっていうのも難しいよね。謝らないで開き直るのも問題だし、コンテンツにして収益化するのも問題。もちろん、すべての謝罪動画に誠意がないってことでもないんだけど、見てる側にはそう見えている。
おぐら 今後はさらに、何かあって「謝罪しましょう」となったときに、謝罪コンサルから「ただ謝ってるだけじゃ足りないなぁ」みたいなテコ入れが入るようになるかもしれない。
速水 だけど、見る側もバカじゃないんだから、そのうち飽きて誰もクリックしなくなる。
おぐら 謝罪はバズるためにやるんじゃないですけどね。
速水 1年くらい前までは、何か事件があるたびに「犯罪者の妹です」みたいな嘘の動画もたくさん出てきたけど、あれもさすがにもう見ない。
おぐら 「真実をお話しします」みたいな定型句も、パロディ化されてコント的に消費されていくし。形骸化って、こうやって進むんだっていう。謝罪する人が髪を黒くしたり、スーツを着たり、メイクの塩梅を見極めたり、かつてはきちんとした謝罪を動画で配信するっていうゼロ地点で価値があったのが、だんだんそれでは物足りなくなってきて。
速水 そうか、謝罪動画は、コントのシチュエーションっぽいってことか。実際には、無自覚なんだとしても、どう謝罪をしようがコメディになってしまう。
おぐら 見るほうも「おっ、謝罪動画だ」って期待して見に行って、「なんだ、ただ謝っただけか」「ゲストもいないのかよ」とか言って、その反応に対して今度は「皆様の期待を裏切ってしまい、申し訳ありませんでした」って、続編の謝罪動画が作られるわけでしょう。一方では絶対に謝らない人がいて、一方では謝罪が形骸化して本来の目的を見失っている。
速水 それはもう、どうしようもないネット社会だなあ。だけど謝罪を形骸化させたのは、謝罪を要求するネットの人たちって側面もあるかも。謝罪って被害者と加害者が直接やればいいもので、別にメディアやSNSを介さなくてもいいわけだよね。謝罪とは何かってことをきちんと考えないと、人類はネットごと滅びちゃうんじゃないかと心配になるよ。
速水健朗(はやみず・けんろう)
メディア、都市など。『UOMO』『pen』で連載。『TOKYO SLOW NEWS』(TOKYO FM)元MC。著書『東京どこに住む』『フード左翼とフード右翼』など
おぐらりゅうじ
『TV Bros.』編集部を経てフリーランス編集、ライター、構成作家。映画『みうらじゅん&いとうせいこう ザ・スライドショーがやって来る!』構成・監督、テレビ東京『「ゴッドタン」完全読本』監修。片桐仁、マキタスポーツ、山内マリコ、川田十夢、鈴木涼美などの書籍を担当。J-WAVE『INNOVATION WORLD』を拠点に「テクノコント」メンバーとしても活動
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