「編集とは途中の極み」編集者・宮田文久が語る雑誌編集の面白さとは
なにをもって、優れた記事と言われるのか。どのような雑誌が、高い完成度だとされるのか。正解が見えない編集の世界の、やりがいと難しさはなんなのだろう。
2022年3月15日に発売された編集論集『編集の提案』(著・津野海太郎)の編者であり、『クイック・ジャパン』本誌のライターでもある宮田文久と、『クイック・ジャパン』編集者の渡部遊が、『クイック・ジャパン』vol.160のテーマである「練習」をキーワードに「編集」を語る。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.160に掲載のコラムを転載したものです。
宮田文久
フリー編集者。文藝春秋を経て独立。東山奈央オフィシャルブック『NOW loading…』ではメインライターを務める。初の編著となる『編集の提案』(津野海太郎・著、黒鳥社)が発売中
「わからなさ」がシンクロする
──「編集」の仕事は、体系だったものを教わるのではなく、現場で「練習」を重ねることで学んでいくものだと思っていて。編集未経験で『クイック・ジャパン』に入ったときに、カメラマンやライターなど社外のスタッフに育てていただいた経験は、自分のキャリアの中でとても大きいんですね。今回は、宮田さんが「編集」の仕事をどう捉えているか聞きたいんです。
宮田 「途中」のものを出す職業って編集業以外にもあるとは思うのですが、やはりそこに特徴があるような気がしていて。たとえばチェーン店の料理で、「なんとなくこんな感じのメニューを出してみます」っていうことはありえないじゃないですか。一応、メニューとして完成したものだけが提供される。
けれど、特に雑誌的な編集って、確たるエビデンスもないままにアタリをつけて、ある方向に走っていきますよね。そして校了が迫る中、なんとか完成度をギリギリ高めていく……そもそも確たるものを世に出す仕事ではない(笑)。
──つまり、「編集」はずっと途中にある?
宮田 そうですね。「途中の極み」を世に出せればいいですよね。なにかの現象であれ人物であれ、取材対象のすべては理解できないし、その対象だって常に動き続けているわけですから。むしろ、その途中感がうまく誌面に出たときこそ面白い気がするんですよ。
──なるほど。これまで『クイック・ジャパン』ではライターとして何度もお世話になっていますが、毎回思うのは、宮田さんの原稿は上がるスピードが異様に早いぞ、と。
宮田 ……はい(笑)。
──ライターとして取材をされるときは、その後の執筆作業も念頭に置かれているのですか。
宮田 インタビュアーとして話を聞いているときも常に編集者的な感覚があって、聞きながら頭の中でブロックが構成されていくんですよね。その時点ではまだ文章にはなってないのですが、なんとなく入り口とお尻が見えれば──「途中」だけどちゃんと一本の記事になるぞ、という感覚が得られたときに、インタビューを終えています。
──質問事項もアタリをつけていくんですか。
宮田 たぶん、「わからなさの方向性」を考えてから臨んでいるんだと思います。取材相手の中でまだ言語化できていない、かつ私たちもわからない、空隙というかオープンスペースがないか、事前の準備で探ったりして。
──わからなさの方向性、ですか。
宮田 たとえば雑誌だと、媒体の方向性がありますよね。前号の「引き継ぎ」も今回の「練習」も一見なにを言ってるか、もしかしたら編集者側もわからないけど(笑)、それと誌面に登場いただく方々のわからなさがシンクロすると、マジックが起きる。
『クイック・ジャパン』vol.159の古川日出男さん(編註:取材を宮田が担当)が『平家物語』を通じて考えていることと、『クイック・ジャパン』の問題意識が、全然違う方向から合流する。わからなさの方向性においてシンクロして話がグルーヴする──そして、読者もそこに魅力を感じてくださるような形になるといいな、と。
編集部、誌面に登場するゲスト、読者の三者がある種の共有地において、わからなさを一緒に楽しむことができ、お互いに魅了し合える関係は可能なのかなあと、最近は考えています。
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