水溜りボンドの「負け顔」。トミーとカンタの「何者でもない」からこその使命感

2022.4.2

文=西澤千央 写真=時永大吾 編集=田島太陽


コロナ禍での報道を受け、半年の活動自粛を余儀なくされた水溜りボンドのトミー。コンビとしての危機を乗り越えたのは、お互いがお互いを思う信頼感だった──。

テレビやラジオなど活動の幅が広がることで、水溜りボンドが直面した「変化」。“YouTube界のNHK”でも“アニメの主人公”でもない、生身の水溜りボンドがそこにいた。最高の人生に、最高の相棒。2022年の水溜りボンドが一番おもしろい!!


記事前編はこちら

水溜りボンド「自分は何がしたかったのか?」トミーとカンタが見つけた”大切なもの”

あの経験がなかったら、立ち直れなかったかも

『ふたり。』(幻冬舎)

ラジオやテレビなど、YouTube以外の活動は「別の人が考えた企画に乗っかる」ということでもあると思うのですが、それは水溜りボンドにどういう影響を与えていると思いますか。

おもしろいよね。

互いに「こういう出し方してもおもしろいんだ」っていう新たな発見にもなってると思う。

トミーさんがイジられたり。

そうですね。「お互いの嫌がることはしない」っていうのをルールでやってきて、だいたいわかってるんですよ、こういうのちょっと苦手だなとか。そこで僕からじゃできないような、たとえば「絶叫系乗りましょう」という演出が加わったときに、トミーはどう逃げるんかなあとか。

僕が「絶叫乗りましょう」って言っても、逃げていいようにしちゃうのはあるんですよ。そのくだりはわりと伝統芸みたいな(笑)。テレビやラジオでそこに新しいパターンが加わった。

なるほど。

それがいいことか悪いことかはわかんないんすけど、でも確実に幅は広がったので、コンビでできることが増えたのかなって気がしますね。

やっぱYouTuberの特殊なところって、自分が企画と演出と編集ができるんで、見せたい一面しか見せなくていいし、それはよく見えるだろうって思うんですよ。それがテレビになると自分がどう映るかわからない。テレビで噛んでるとこがめっちゃイジられたとき、違和感あったもんね。

あったね。YouTubeなら編集点作ってもう1回言い直すところだもん。

そうか! ここおもしろいんだ!ってそのとき思った。やっぱテレビやラジオに出るって、めっちゃ緊張してるわけじゃないですか。やらせてもらうからにはしっかりやんなきゃいけない、噛んじゃいけない、はっきりしゃべらなきゃ……ってやってたつもりがめちゃめちゃミスってるみたいに放送されてて。

初めは、なんでそんなことするんだろうって思いました。もう、地肩をつけるしかないんですよ。

そうそうそうそうそう。もう毎回ふたりでどうすればいいんだろうって。

作家さんに「カンタもっと言い返していいよ」とか「トミーがやられてもいいじゃん」みたいな提案をされたときに、6年7年やっててそれ一回もやってこなかったよなぁと。それがたぶん、僕らがファンタジーから抜け出した瞬間ですね(笑)。

トミー(ロンT¥5,940/AIVER(Sian PR) パンツ¥5,940/remer(Sian PR))
カンタ(ロンT¥15,400/Ohal(JOYEUX) パーカー¥20,900/LIBELE(Sian PR) Sian PR 03-6662-5525 JOYEUX 03-4361-4464)

おもしろい。

絶叫系はダメですって伝えてんのに絶叫系のとこに行って、カメラ回ってる。やるしかない。でもそれもギリギリやったんですよ。でも今考えると、そういう経験がないまま飲み会の件を起こしていたら、その後立ち直らなかったんじゃないかなと思う。

そうだね。負け顔を見せる経験をした。

そう。折れるパターンも自分の中に幅としてあったことに助けられました。

厚みというか。でも初めの4年間にトミーが負け顔できてたらおもしろかったかって言ったら、実はそうじゃないんで。あの時期はあれがおもしろかったし、また何年か経ったときそれだけじゃ突き抜けれなくなってくるじゃないですか。そう考えると、ほんといい変化だったよね。

僕らは個人個人だったらずっと生身の人間だったと思うんですけど、ふたりでいるときは映画やマンガのような世界観は感じられる。ふたりでいると楽しいし、編集なしで動画出しても全然問題ないぐらい僕はふたりでやってる瞬間が好きです。

7年8年しゃべってて飽きないってすごいですよね(笑)。

さっき告知の動画撮ろうと思ったんすけど、気づいたら30分くらい撮ってた(笑)。告知のシーンが1分くらいであと無駄話が29分。そこはもうおかしいですよね。

なんだろ、テレビとか芸能界って、何か芸があったり、視聴者の求めることに応える人たちの集まりで、その場所では別に嘘ついてもいいわけじゃないですか。

嘘っていうかね、キャラクターだったり台本だったりね。


みんな心に“リトルトミー”を飼ったほうがいい

(笑)。以前オアシズの光浦靖子さんが「芸能界は真剣に嘘をつく場所だ」とおっしゃってました。

そうなんですよ。1900年代後半から出てきた「テレビ」というメディアを、みんな見飽きてきたというか。ヤラセではない、本当のことを求め始めたと思うんですよ。そこにYouTubeはばっちりハマった。だからリアルなほうがおもしろいっすよね。

僕らが再生数が取れるからってやりたくないことやったら、すぐ気づかれちゃいますから。嘘つけないんですよ。だから家も汚い。動画に映ってたらもう家は絶対に汚いんで。「家汚い」って言うしかない。なんか自分を大きく見せようとするときつくなっていっちゃいそうで。

かっこつけたり。

僕も変に作ってるつもりもないんですけど、でもYouTubeを始めたことで人格は変わっていってるなとも思います。求められることに応えたい、こういう人間でありたいっていうのは強いじゃないですか。

逆にいったら、動画でこれ言っちゃったから絶対そうしないとって律してしていく感じもある。普通だったら取らない選択でも動画になったらおもしろいからやってみようかなって。ほんと、YouTuberになってなかったら何してんだろうね。

俺はめちゃくちゃだったんじゃない。

じゃあよかったわ(笑)。

どのジャンルに行ってもおふたりはちゃんと成功されてると思います。

カンタはね、やっぱすごいですよ。どこでもフィットできるしちゃんと努力できる。必要な努力をできるタイプだと思うんで、YouTuberじゃなくても成功するだろうなと思いますね。

僕は好きなことでも嫌だったらできないぐらいなんで。野球好きだったのに、坊主が嫌で辞めたし。

本にもありますが、部活のコーチに「この練習の意味がわかりません」とかなかなか言えませんよ。

俺も、部活にそういう人いたら「もっと言え!」って言う。俺も思ってる、でも俺は言えない、言ってきてくれって。だって怒られるじゃないですか。そういう風習って世の中にいくつもありますよね。

だからみんな心に“リトルトミー”を飼ったほうがいいと思います。

リトルトミー!!

当たり前のことなんだけど、みんな言えないんですよね。

「水溜りボンドは何者でもない」からこそ、今までがんばってきた


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西澤千央

(にしざわ・ちひろ)1976年生まれ。神奈川県出身。実家の飲み屋手伝い→ライター。『クイック・ジャパン』(太田出版)や『文春オンライン』、『GINZA』(マガジンハウス)などで執筆。ベイスターズとねこと酒が好き。

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