完璧主義なふたりの美しい“負け様”『水溜りボンドのANN0』が残したもの

2021.5.1
水溜りボンド

文=山本大樹 撮影=伊藤元気
編集=中野 潤田島太陽


毎週木曜のレギュラー放送を終え、4月からは月に1回、土曜深夜の放送となった『水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)。4月26日(月)には、番組の公式書籍『水溜り本―水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)深夜のアミーゴ―』(扶桑社)が発売された。

同書籍に収録されている撮り下ろし写真の一部を特別に公開し、動画クリエイター初のANNパーソナリティとして奮闘した、水溜りボンドの1年の歩みを振り返る。

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水溜りボンドがこれまでけっして見せなかった姿

カンタ(左)とトミー(右)/『水溜り本―水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)深夜のアミーゴ―』(扶桑社)より

「……僕らの実力不足だったんじゃないですか?」

トミーの言葉は清々しかった。やりきった、という充足感を帯びた声だった。2月25日に放送された『水溜りボンドのANN0』。この日、水溜りボンドのふたりは毎週木曜のレギュラー放送終了をリスナーに告げた。

「カンタのコーナー(「さよならチェーンソーの会」)を引っ張り過ぎたせいじゃない?」「トミーが噛みまくってたせいだと思うけど」と、お互いの失敗をイジりながら、レギュラー放送終了の理由を分析したふたり。ひとしきり笑い合ったあと、トミーは冒頭の言葉を口にした。それは「水溜りボンド」というコンビがこれまでけっして見せてこなかった美しい“負け様”だった。

2020年4月、「YouTuber初のANNレギュラーパーソナリティ」という大きな看板を背負うことになった水溜りボンド。学生時代の夏休みが永遠につづいているような「気になるけどまだ誰もやっていない」実験企画やドッキリ企画を次々と生み出し、2015年から2020年末までの6年間にわたって動画の毎日投稿を行ってきた。

さらに、ライブやテレビ出演などYouTubeの枠を飛び出した活動にも積極的に挑戦し、未だに偏見に晒されることも多い“YouTuber”という職業そのものの可能性を開拓してきたコンビだ。だから、動画クリエイターとして初めての「オールナイトニッポン」のパーソナリティに選ばれたのも納得だった。

ラジオの現場で悪戦苦闘したふたり

『水溜り本―水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)深夜のアミーゴ―』(扶桑社)より

水溜りボンドは自分たちの見せ方やブランディングにとことんこだわってきたコンビだ。ファンにはけっしてカッコ悪い姿を見せないし、苦しい時期でもふたりはいつだって笑顔を崩さなかった。

初回放送に密着した『クイック・ジャパン』vol.149でのインタビューで、トミーはこう答えている。

「YouTubeでは出せなかった部分が、ラジオで表現できたらいいよね。(中略)僕らのまだ見せていない一面が強制的に引き出されたりしたら、コンビとしても幅が広がると思います」

『クイック・ジャパン』vol.149より

その言葉のとおり、ラジオという舞台は水溜りボンドが今まで見せたことのない姿を次々と暴いていった。カッコいいところも、カッコ悪いところも。

「音楽を2曲しか知らない」「洗濯機の使い方がわからない」など常識外れの私生活が露わになったトミー。同級生からの目を気にして大学の卒業式を欠席するなど、繊細で少し自意識過剰な一面を見せたカンタ。そこには、水溜りボンドというコンビのどこまでも人間くさい姿があった。

それはもしかすると、完璧主義なふたりにとっては見せたくなかった姿なのかもしれない。でも、彼らは慣れないラジオの現場で悪戦苦闘し、本音をさらけ出しながら自分たちの居場所を築いていった。そして放送を重ねていくにつれ、リスナーからの少々キツめのイジリや突拍子のないボケにも、「うるせえ!」「おもんないメール送ってくんな!」と躊躇せずにツッコんでいくようになった。

「YouTube界のNHK」と呼ばれるほど品行方正なふたりだからこそ、時に暴走するトークやかけ合いは笑いを誘う。賢いイメージのあるカンタが簡単な漢字を読めないのは予想外のおもしろさがあったし、常に頭の切れるトミーがうんこを漏らしたエピソードを赤裸々に話した回はそれだけで破壊力があった。

そして、番組イベントのチケットが思ったように売れなかったという悔しい出来事すらも自虐的なトークで笑いに変えていくふたりには、今までにないほどのたくましさを感じた。そんな「完璧じゃない水溜りボンド」に、彼らを知らなかったリスナーたちも少しずつ魅了されていった。


「いいところも悪いところも、ラジオで全部出せたよね」

『水溜り本―水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)深夜のアミーゴ―』(扶桑社)より

そして、3月25日のレギュラー放送最終回。「ラジオラジー賞」と題して、番組内でのふたりの印象的な失敗をリスナーから募集する企画が行われた。

放送開始当初は「まずはラジオのリスナーさんたちに認めてもらわないと」と不安を口にしていたふたり。しかし最終回のこの日は番組でも過去最多のメールが集まり、ブースは大いに盛り上がった。それはまぎれもなく、ふたりがラジオのリスナーたちから愛された証だった。

「深夜ラジオではタブーとされている『夢で見た話』を自慢げに話すトミーに驚愕しました」「相応しいを『そうおうしい』、大草原を『おおくさばら』、立役者を『りつやくしゃ』……カンタさんのとうてい大卒とは思えないレベルの読み間違いの数々に驚きました」「トミーの原稿読みが最後まで噛み噛みでした」etc……。

ふたりはリスナーから指摘されるたびに手を叩いて笑い、「恥ずかしい!」「やめろ!」と大声で叫んでいた。

最終回の放送を終えた直後、『水溜り本』収録のインタビューでふたりはこう話している。

「YouTubeだったら失敗を見せない編集ができるし、ちょっとミスっても「これ使わなきゃいいか」ってなるけど、生放送のラジオだからミスしたらすぐに取り返さなきゃいけないし……。YouTubeとは真逆の場所だったよね。だからこそラジオをやったっていうのは、俺らにとっては本当に意味があることだと思う」(トミー)

「もともとの水溜りボンドの視聴者さんはびっくりしたかもしれないよね。『意外とこういう一面があるんだ』とか『水溜りボンドの裏側ってこうなってたんだ』とか。失敗することも、悪い方向に行くこともたくさんあったし。でも、そのほうがコンビとして長持ちしそうだなって。ハリボテじゃない感じというか。いいところも悪いところも、ラジオで全部出せたよね」(カンタ)

『水溜り本―水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)深夜のアミーゴ―』(扶桑社)より

いつも完璧じゃなくても、いつも朗らかでなくてもいい

『水溜り本―水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)深夜のアミーゴ―』(扶桑社)より

水溜りボンドはいつだって妥協しないコンビだ。

入念に仕込んだドッキリ企画や、用意周到でスムーズな実験企画など、水溜りボンドの人気動画の数々はマジメで完璧主義なふたりだからこそ生み出せるものに違いない。でも、漢字が読めないカンタも、ウンコを漏らすトミーも、とても魅力的だ。いつも完璧じゃなくていいし、いつも朗らかで明るいふたりじゃなくていい。

毎週木曜のレギュラー放送は幕を閉じた。それはけっして無様な“負け”ではない。水溜りボンドというコンビがすべてをさらけ出し、悔しいこともうれしいこともリスナーたちと共有した濃密な1年間だった。

4月24日から、月に1回の『水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)』が始まった。ラジオで美しい“負け様”を見せたふたりはこれからもきっと、うまくいくことばかりではない私たちの夜に寄り添ってくれる。

『水溜り本―水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)深夜のアミーゴ―』(扶桑社)表紙
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山本大樹

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山本大樹

(やまもと・だいき)編集・ライター。1991年生まれ、埼玉県出身。明治大学大学院にて人文学修士(映像批評)。編集プロダクション勤務を経て、2019年に独立。現在『クイック・ジャパン』外部編集・ライターのほか、『BRUTUS』、『オードリーとオールナイトニッポン』シリーズ、『三四郎のオールナイトニッポ..

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