ピンク映画の存在意義とは?
──考えが変わった、とは?
城定 「ピンクは何をやってもいい」というムードの中で、アバンギャルドになり過ぎた作品も多数ありました。「取ってつけたような濡れ場だけど、本筋がおもしろいならいいじゃん」という考え方が広がり過ぎたというか……。僕自身は、映画作りというのも仕事である以上、エロを期待して観にきた人をがっかりさせることはしたくないと感じるようになっていきました。
──城定監督の作品は、セックスをきっかけに心持ちが変わる男女など、濡れ場がストーリー上で必須の要素になっていますね。まずエロという土台がしっかりあった上での遊びだと。
城定 「ピンク映画はエロだけじゃない」というのを、業界の中の人間が言うのは少し違うんじゃないかと思うんです。そういうふうに宣伝しないと観客が増えない難しさもあるのでしょうが、「エロをないがしろにしたら、ピンク映画の存在意義ってなんだろう?」という気持ちもあります。まずエロあってのピンク映画ではないでしょうか。昔は枠をはみ出すことをカッコよく感じていたけど、自分が大人になって感じるのは、枠を守るカッコよさもあるんじゃないかということです。
作家主義に対する反発心みたいなものが、僕の中に常にあるんですよ。成人向け映画の世界を支えているのは、結局とにかくエロい作品です。それは日活ロマンポルノの時代からそうで、歴史的には神代辰巳が評価されていて映画としては自分も大好きだけど、当時、興行的に結果を出していたのは西村昭五郎の作品だったりしたわけで。エロと作品性をうまく両立させたものが、いいピンク映画なのかなぁと感じています。
──話は変わりますが、城定監督は昨年公開された一般映画『アルプススタンドのはしの方』が高く評価されました。いちファンとしては、うれしい反面、もうピンク映画は撮らなくなるのかと心配だったので、その後もピンク映画を撮りつづけていて安心しました。
城定 ある程度、「こういうものが撮りたい」という希望が通る立場にはなれたので、ピンク映画もマイペースにつづけていくつもりです。
──城定監督の作品は、ぱっとしない人々への愛情が感じられますよね。『花と沼』の課長とか、冴えない感じの登場人物も観ているうちに自然と応援したくなります。
城定 ピンク映画は作っている側も観ている側も金がないですからね。冴えない人間は実感を持って描けます(笑)。それで、ああいう課長みたいな人が観に来て、「いい目にあってやがんなぁ」と課長に自分を投影して楽しむというのが、ピンク映画の原点だと思うんですよね。
なくなると言われつづけて20年
──ピンク映画初心者にお薦めの城定監督作はなんでしょうか?
城定 普段、興味を持たない人がお薦めを鵜呑みにした結果、「なんだ、つまらないじゃないか」となってはいけません。タイトルとか女優さんの好みとかで、自分が気になったものを観てほしいですね。あくまでピンクはジャンル映画(スプラッターやアクションなど、一定のパターンを持った映画ジャンルのこと)ですから。観たい人が観ればいいんじゃないかと思います。そのぶん、少しでも興味を持ってくれた人の期待を外さないものをなるべく作ってきた自負はあります。
──では、城定監督ご自身が「ピンク映画はおもしろい」と感じた作品とはなんでしょうか?
城定 それはやっぱりピンク四天王の作品ですよね。自分の監督としてのスタンスは違いますが、自由に作品作りをしているおもしろさがあります。サトウトシキ監督の『ペッティング・レズ 性感帯』は、女性カップルの切ない気持ちが描かれていて、サトウさんの作品の中でも傑作と言える一本です。あとは佐野和宏監督の『変態テレフォン ONANIE』もいいですよね。ピンク映画ではなく日活ロマンポルノになりますが、神代辰巳さんや根岸吉太郎さんのファンでもありますし……。
──今後、ピンク映画の世界はどうなっていくとお考えですか?
城定 今もあるピンク映画の制作・配給会社は、新東宝映画、オーピー映画、新日本映像の3社で、そのうち新作を作りつづけているのは、今やオーピー映画だけです。ただ、オーピー映画もほかの事業があるからどっしりやれているだけで、ピンク映画だけでは儲かっていないんじゃないかな。
だからまぁピンク映画という文化はいずれなくなるのだろうとは思いますが、僕が業界入りしたときからなくなると言われつづけて20年ですからね(笑)。性愛をテーマにしたドラマに惹かれる人はいつの時代もいますし、意外としぶとく生き残っていくのかもしれません。
城定秀夫
(じょうじょう・ひでお)1975年生まれ、東京都出身。2003年、監督デビュー作『味見したい人妻たち』でピンク大賞新人監督賞を受賞。その後、Vシネマ、ピンク映画、劇場映画などで100タイトルを超える作品を監督し、2016年から4年連続でピンク大賞にて作品賞を受賞。2020年、高校演劇の名作戯曲を映画化した『アルプススタンドのはしの方』がスマッシュヒット。エロVシネ『欲しがり奈々ちゃん〜ひとくち、ちょうだい〜』『扉を閉めた女教師』が2021年10月より劇場公開中。2022年には、今泉力哉監督と互いに脚本を提供し合ってR15+のラブストーリーを2本制作するコラボ企画「L/R15」のうち『愛なのに』(2月25日公開)を監督する。
関連記事
-
-
サバ番出演、K-POPへの憧れ、両親へのプレゼン…それぞれの道を歩んだ5人が、新ガールズグループ・UN1CONになるまで
UN1CON「A.R.T.」:PR