かが屋コントの“設計思想”の片鱗「これはやらない、ってものがはっきりある」加賀翔インタビュー

2021.10.6
かが屋 加賀

文=斎藤 岬 撮影=福岡秀敏 編集=福田 駿


かが屋のコントをかが屋のコントたらしめているものとは何か。「着想がすごい」「演技がうまい」「構成がスマート」——賛辞されるポイントはどれも首肯できる。

そんなふうに思わせるに至る“設計思想”の片鱗を、加賀の言葉に見出したい。 『芸人雑誌 volume4』(9月25日発売)に掲載されている、かが屋のインタビューから、加賀翔のインタビューを全文公開!

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感情移入が肝のコントである場合

芸人雑誌volume4_かが屋
かが屋表紙ver『芸人雑誌 volume4』(通常版/全国書店・ネット書店にて発売)

——休養明け直後、本誌前々号でインタビューした際に「以前はコントに関して詰められるだけ詰めなければと考えていたのが少し緩んだ」という話をされていました。あれから約半年たって、その感覚はまだ継続していますか?

加賀 こ〜れは難しいですね! あのときのことは忘れずに、詰めすぎないようにしようとは思うんですけど、正直やっぱり「これはやらない」っていうのはけっこうはっきりとあります。このままそれが強くなっていくと結局また「こんなんじゃダメだ、もっともっと」となっていっちゃうのかなと。

——「これはやらない」というのは、「この設定は辻褄が合わないからやらない」というようなことですか?

加賀 はい。「引っかかるなぁ」とか。ネタ合わせや練習をしてる段階で「そこの言い方はこうじゃないかな」とか「ここはもっと表情が明るいほうが合うんじゃないかなぁ」ってことを言うんですけど、そういうなかで僕が敏感モードみたいになるときがあって。髪の毛が1本落ちてるのに気づくとほかの髪の毛も同時に見つけちゃう、みたいな状態ですね。ひとつ気になると、ほかのことも気になり出しちゃう。そういうモードになるとネタが完成しないんです。

それでもまぁ今できることをやるというか、「詰めたら1、2は変わるかもしれないけど10、20変わらないんだったら別にいいか」と思って諦めるようにはしてます。僕らはそういうところがすごくあって、ネタの調整もものすごく下手なんですよね。一箇所気になり始めると永遠に気になりつづけるんで、あんまり同じネタを短期間で何回もライブでやって、ってことをしないんです。

——1本のネタを一気に叩いていくスタイルではないんですね。

加賀 そうですね。昔試してみた時期はあるんですけど、僕らのコントの性質的にもウケにくくなると思いました。僕、わらふぢなるおさんがすごい好きなんですけど、わらふぢさんのネタは知っていてもおもしろいんですよ。はっきりしたボケとツッコミなので、お客さんがそのネタを観たことがあっても笑える。

でも僕らのネタは、めちゃめちゃ本音で言ったら、感情移入をしてもらって観るような前提で作っているので、観るのが2回目になると笑いにつながりにくいのかなぁと思ったりします。「ここでこういう気持ちになる」ってわかってると、感情移入がちょっとだけ弱くなるのかなと。全部観てくれるお客さんもいますから、そういう方にリフレッシュしてもらうためにも、1個のネタを試そうと思ったら8個くらい別のネタを用意して8回ライブ出て1周させないと、って感覚です。

——それはなかなか大変そうです。

加賀 でも、今話してることが全部が全部、100点のルールじゃないので。「こういう考え方も頭にあります」って選択肢のひとつを言っているだけです。すごく長い目で見てるので、焦らないようにしてます。

明確な記号を使わず「伝える」ためには

かが屋
かが屋

——ネタによってふたりはいろんな関係を演じますよね。しかも衣装をあまり変えることなく、最低限の小道具で見せています。わかりやすい記号なしにおふたりがどういう関係なのかを伝えるために、こだわっている部分はありますか?

加賀 細かいところでは賀屋さんが女性の役をやるときに、天然っぽい女の子ならツインテールにしたり、しっかりした女性ならひとつ結びで横髪をちょっと垂らしたり、僕のほうは所作だったり。最低限わかるように、できることをやってます。そこはけっこう、お客さんに対する信頼のようなところもあります。日頃いろんなものを観てる方も多いので、伝わるだろう、と信じてるというか。全然伝わってないときもありますよ。

——加賀さんが気をつけている所作はどんなところですか?

加賀 以前ナイツさんとライブが一緒だったとき、帰りに塙さんと話していて「手にすごく演技が出る」と聞いたんです。漫才でもネタ中に本人の感情が出てしまいやすいのはそこだから、手の演技をしたほうがいい、って。それから手は意識してますね。

緊張してるキャラなら服の裾をちょっとつかんだりソワソワ動かしたり、どっしりしたキャラなら僕自身がどんなに緊張してても手をガシッと膝に固定して動かさないようにしたり。特に僕たちみたいに、黒Tシャツ白Tシャツでやってるようなタイプだと、そういうところはちゃんとしたほうがいいなと思います。

——おもしろいです。やりたいことが伝わるかどうか、当たり前ですがセリフ以外の要素も大きいですよね。

加賀 それでいうと、観るときに集中してもらいやすいようにしたいっていうのはあります。道具もあんまり使わないし衣装もこれなんで、「あいつらのネタのときは集中して観ないと」って思ってもらいたい。あの手この手でお客さんをグッと引き込んで、観終わったあとに「(息を吐いて)はぁっ」ってなってもらえるように工夫はしています。

——かが屋さんは「演技力が高い」と評されることが多いと思います。そう言われる所以はどこにあると思いますか?

加賀 そこはいろいろ考えてみたんですけど、僕、自分でやりにくい演技をつけないんです。「自分はこの演技はできないな」って思ったらやめるんですよ。それだけなんですよね。ドラマに呼んでいただいたこともあるんですけど、ガチガチでした(笑)。人が考えたものを台本通りに言うのは苦手ですね。

——ネタを作っていて「おもしろいけど、自分の演技じゃできないな」と諦めることもある?

加賀 あります、あります。一番最悪なのが、考えてる途中に一瞬でも「これ、バナナマンさんがやったほうが絶対おもしろいな」とか思っちゃうと、もう! 人がやってる姿が浮かんだってことは、自分の中に心当たりのある演技が存在してるんですよね。そうなっちゃったら、もう絶対できないです。そうはいっても、避けずにやらなきゃいけないときもあるんですけど。

方言によって獲得したかが屋の両A面

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