鈴木もぐらがコントで演じる男たちのリアリティは凄まじい。電車や電波のおじさんしかり、学生服を着た冴えない男子しかり、どこかで確実にすれ違ったけれど、出会うことのなかった男たち。空気階段のコントを観る私たちは、もぐらの口寄せによって彼らを知る。そして、自分で出会うよりもずっと深く彼らを理解できた気がする。鈴木もぐらの演じるキャラクターはなぜリアルに感じるのだろうか。その謎に少しでも迫りたい。
『芸人雑誌 volume4』に掲載されている空気階段のインタビューから、コンビのボケ・鈴木もぐらのインタビューを一部公開。
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自分の目で見てきたことだからこそキャラクターに嘘はつけない
──空気階段のコントは、はみ出し者に慈悲のまなざしを向けている気がするんです。
もぐら それは買いかぶり過ぎですよ。でもたしかに子供のころからはぐれ者に囲まれて生活してましたし、そもそも僕が、はぐれ者じゃないですか。だから当然「どうしようもない人間ですが、もうちょっと温かい目で見てください」という気持ちはありますよね。「あれ? 普通の社会ってもっとちゃんとしてるっぽいぞ」と気づいたのもハタチくらいですから。
──もぐらさんが清濁併せ呑む性格をしている一方で、かたまりさんは潔癖症なところがありますよね。正反対の人間観を持つふたりですが、コント作りの際、その違いはどのように処理されるのでしょうか。
もぐら 正反対でぶつかり合うからこそ、コントが生まれるのかもしれないです。そういえば昔SMのコントを作ったとき、かたまりの書いたマゾのセリフがあまりにもズレててケンカになったんですよ。「マゾは絶対こんなこと言わないから!」「これでいいんだよ!」って言い合いになっちゃって。せっかくSMコントをやるからには、プレイにハマったキッカケや好きな拷問、痛みの耐性といったキャラ設定を、僕はなあなあにしたくなかったんです。
ただ単純に叩かれて痛がってるさまを見せて笑いをとりたいなら、SMを舞台にする意味がないじゃないですか。あのときは、ポップに笑いを狙う水川と、設定にこだわる僕との闘いでしたね。キャラクターの重要性に気づいたのは3年目だったと思うんですけど、6年目くらいまでは、こういう話し合いをとことんやってました。
──そうやって、コントの本筋には一見関係のないディテールを詰めるのは、演じる人の心持ちの問題ですか。 それとも詰めの甘さに観客が気づいてしまうからでしょうか。
もぐら 両方って言いたいところですけど、細部へのこだわりは僕の自己満で、多分ほとんどのお客さんには関係ないのかなと思います。SMのネタを作ってたときって無限大ホールでやってて、若いお客さんが多かったんですよ。だから設定にこだわったマゾの人を見せられても困るのかもしれない。でも、もし観客席にホンモノのマゾのおじさんが居たら、あんなコントは見せられない。リアルなMには、鼻で笑われちゃいますから。
──設定やキャラクターを単純になぞるだけじゃなくて、リアリティを追求する。
もぐら そうですねえ。たとえばギャンブルに負けたおじさんをコントに出すときって「大負けして泣く」みたいなのをやりがちなんですけど、僕に言わせればそれはありえない。負けた後は「うなだれて帰宅する」よりも「さらに金借りて風俗行く」、これがリアルなんですよ。SMやギャンブルの世界にどっぷり浸かった人をこの目で見ているからには、そこで嘘はつけないです。
──空気階段のコントには、はぐれ者が多いー方で、政治家を演じたり政治の小ネタを挟むようなコントもあります。 そこで垣間見える政治との距離感が面白いなと思うのですが、政治ニュースはよくチェックしますか?
もぐら 政局とか選挙をドラマみたいに楽しむ程度ですけどね。選挙で決着するのが、戦国時代っぽいので好きです。権力者も落選したらただの人。その一方で、見るからに悪そうな現職議員が有名人候補に圧勝したりね。「地元に甘い蜜を吸わせてんだろうな」「この人を勝たせて潤うのは誰だろう」って妄想するのが楽しいんですよ。
経験したこと、納得できることをコントにしたい
──空気階段は恋愛コントも印象的で、甘酸っぱいと同時に笑えるんですよね。大人の恋愛というよりも、初恋などの純愛が多いのも特徴かなと思います。
もぐら 単純に私の恋愛経験が乏しいから、純愛系が多くなるんでしょうね。初めて付き合った女性と結婚しましたし、大人の恋愛は知らないんですよ。
──もぐらさんって女性には一途で、全然だらしなさを感じさせませんよね。“クズ芸人”と言われることが多いために、誤解する人もいるかと思います。
もぐら 浮気とか不倫って全然興味ないんですよね。コントって自分たちの好きなものの寄せ集めで世界を作れるんですよ。せっかくそんな楽しい作業ができるのに、「浮気で修羅場」みたいな設定を作ったり、ヤリチンのコントをしたり、そんなことはわざわざやりたくないなと思いますね。
──自分の嫌いなことはわさわざコントにしないし、理解できないことには手を出さないというのも潔いですね。
もぐら そういえば僕らは、自分たちの経験や、納得できることをコントにしてますね。その点おじさんになって経験が増えるほど、できることも多くなるんですよ。今でも結成したころよりやれる幅が広がってます。でも、恋愛に関しては水川はともかく、僕の経験はこれ以上増えないんで、初恋とか甘酸っばい感じを続けるんでしょうね。わいわい合コンしてエッチしたみたいなコントは、空気階段はやらない。そういう恋愛は経験ないし、羨ましくもないんで作れないです。
──納得いかないキャラや設定でも、「演じてください」と頼まれたらどうしますか?
もぐら オファーいただけたら全然やりますよ、それは書いておいてください、どんな役でもやります。ヤリまくる役でもやりますんで、よろしくお願いします。ただ、自分たちが共感できないキャラクターを生み出すのはしんど過ぎるということです。そういう意味では、自分たちの人生と、かけ離れた設定のコントが作りづらいっていう弱みはあるかもしれないです。
『芸人雑誌 volume4』では、鈴木もぐらインタビューのロングバージョンや、相方である水川かたまりのインタビューも掲載。表紙は空気階段、かが屋、蛙亭の3パターンで発売され、サスペンダーズ、ガクヅケ、怪奇!YesどんぐりRPGなど注目のお笑い芸人が多数登場している。
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