「VTuberは仕事ではない、存在です」VTuberアメリカザリガニ平井善之に聞く。「道頓堀角座」は、データ上なくなっていない

2021.8.29

VR技術の急速な一般化

──僕がアメリカザリガニ平井さんを一番最初に見たのは『爆笑オンエアバトル』なんですよ。気づいたらVTuberになっていて、どういうこと!?って。

平井 20世紀から21世紀に変わるなか、30代とか40代とかの方々っていうのはそのあたりのお笑い番組をよく見ておられるイメージがありますよね。あと『M-1』。

──なのになぜVTuberを始めたのですか?

平井 それはちょっとした流れがあるんですよ。まず、2016、7年くらいに僕が、リアルタイムで3Dのモーションを取りたいねっていう話を、まわりの人に相談させてもらってたんですよ。もともとはVRのヘッドマウントディスプレイのためのコンテンツを、企画とかもしてたんですね。360度どこを見ても映像があるのがVRです。『ドラえもん』の世界をスネ夫の立ち位置で見たら、のび太が目の前でいじめられててジャイアンが立っていて、そこをドラえもんが止めに来るのを見つづけることができるような状態ですね。

アメザリひらい〈青年期〉
アメザリひらい〈青年期〉

──舞台を見るのとは、だいぶ違いますよね。

平井 360度だとどこを見ていいかまずわからない。そこで4分割にして90度ずつにステージを置いてステージ移行するとか、絵本の世界で夜空だけをきれいに見せていくような簡単なものであれば人間は集中できるかもしれないとか。音を先行させて視点誘導するとか。そんなことをやってたんですね。

──VRでどういう状況を作ればエンタメを楽しめるかを、先に考えていらっしゃったんですか?

平井 そうですね、エンタテインメントに最新の技術を取り込んだときに、どう扱えるかみたいなことはよく行われていますよね。たとえばPerfumeのステージで、物理的に半透明のスクリーンを垂らしてそこに何かを照射して、あたかもそこにあるように合成するとか。演出のひとつとしてヘッドマウントディスプレイを使った場合どうなるのかを、デジタルハリウッド大学の教授の方とお話しをしたり、学生の方の作品を元にしてみたりとかをやってたんですね。これが2016年から17年。僕は2011年くらいからゲームの開発もやってました。芸人というカテゴリではあまりいない、デジタルオタクなんでしょうね。

──ゲームの番組とかに出ていらっしゃるのは見てましたけど、そこまでクリエイター活動されていたとは。

平井 もともとそっちのタイプで、お笑いのほうがあとです。お笑いとデジタルは、僕の中では完全に乖離してました。ゲームのエンタメとテレビのエンタメは全然違うので。んで技術が進歩するうちに、デジタルの中で動くための機材がどんどん安くなっていって。

──2016、7年くらいからVR機器もガタッと値段落ちましたもんね。

平井 一般の人もゲームとか映画とかの技術に、ルートがあれば触れられるようになってきたんですよ。モーションキャプチャーを6000万で買えるとか。6000万は個人の所得で安くはないんですが、技術屋が使うのなら購入できる価格なんですね。

──使える技術として購入できるならむしろ安いくらいだと。

平井 安いです。本来ならそれぞれの会社で、いろんなデバイスを使って自分たちで構築しなきゃいけないんですよ。そうなるとすごく時間と費用と人員が必要なんです。そんなカスタマイズして構築しなきゃいけないっていう技術の部分を、お金で買うことができる。じゃあ今後これでコンテンツを楽しむ世の中が来るかもね、ってみんなが思うわけですね。そこから「VIVE」とか「Oculus」とかのVR機器が個人で買えるよ、っていう世の中まで来ています。

──そこまでいくと、がくんと値段下がって10万以内で買えますね。

平井 趣味で買う人が一般の方が出てくるんですよね。それがだんだん、スマートフォンでも見れますよ、ってなってきているんです。ユーザーが増えれば増えるほど安価になっていく。2018年くらいにはもうかなり安くなってますよ。そこでエンターテイメントのコンテンツを作れるかどうかっていう話をしたのが当時なんですよ。VRのヘッドマウントディスプレイのデバイスが出るのなら、コンテンツがいるよねってなってくるわけです。

アメザリひらい〈壮年期〉
アメザリひらい〈壮年期〉

無形文化財を有形文化財にする

──そこでバーチャルで漫才をやってみようというのが出たんですか?

平井 僕は陸上選手の体にセンサーをつけてモーションの研究をするとか、ゴルフの姿勢を見ましょうとか、歌舞伎役者さんの動きを撮りましょうとか、華道や茶道とかの記録のイメージのほうが先に来ました。おじさんの歩き方を調べてみようとか。

──ご自身の漫才先行じゃないんですね。

平井 全然別でした。記録です。データを蓄積していく。データを取ればいろんなところに流用できる。昔、言葉で伝えてたのが紙と文字ができて、絵画ができて、写真ができて、動画撮影ができて、そこに3Dデータというものが出てくる、という時代の流れです。芸能活動であったりダンスであったりを、3Dデータとして蓄積させて、教材にしたかったんですよ。今だと無形文化財っていう表現ですよね。3Dデータが存在してたらそれは無形ではなくて、有形になるんじゃないかなって。

──すごい人の技術はその人で終わってしまうけれども、3Dデータにすれば形として残せると。

平井 音声もそうですし、映像としてカメラで撮影するのも合わせて、複合でデータを取っていくいうことが大事です。

──映像だけでは駄目だったんですか?

平井 映像の記録でもまだ、有形の文化財として扱われないと思うんですよね。たとえばお城とかであれば、みんな有形文化財だって普通に理解してくれると思うんですよ。でも有形と無形で分けていること自体がおかしいんじゃないかという話になったんですよ。

──なるほど、どちらも同じ文化だと。

平井 一緒です。じゃあ有形にするために必要な素材を集めればいいんじゃない、って話なんです。そこで、家を建てるときってCADを使うよね、という話が出たわけです。

──無形文化財を、設計図化というか展開図化するような……?

平井 そうです。声もあるぜと。残すことができるんですね。

──実際に教材として作ることはされたんですか?

平井 何回か人につけてやったりはしたんですけど、やっぱりコストの問題が出ちゃうんですよ。企業さんのファンド組んでやるにしても、商業として売り上げが上がらないとファンドを組めない。これはもしかしたら研究費のほうなんじゃないかなと。

──文化財であればそうですよね。

平井 ならプロジェクトで教材作って、論文も作って、ちゃんと保存できる仕組みも作る必要がある。ここはまだ諦められないし……今後やるんですけど(笑)。この活動に関しては僕がやらなくてもほかの人でもいいんですよ。残したいだけです。これに関してはタレント事務所に言ったところで仕事内容が違うので。

──タレントの事務所には荷が重いかもしれないですね(笑)。

平井 並行してモーションキャプチャーのセンサーの研究で、声優さんの卵の方々に参加していただきつつ、キャラクターとして動かしてみようよ、というのもやっていました。そしたらそっちの方が速く進展して、VTuberに行き着いたんですね。

技術実験だったVTuber

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