「悲愴感はいらない」入江悠が20代の若者たちと“健康的に明るい現場で”作り上げた『シュシュシュの娘』

2021.8.22


お客さんに観てもらうまでが自分たちの仕事

──出演俳優の方もミニシアターを応援している井浦新さんや邦画界で大活躍の宇野祥平さんなどが参加しています。

入江 宇野さんはインディーズから出発して、今や日本アカデミー賞俳優ですよ。井浦さんはミニシアターを支援していらして、この映画にも出たいと言ってくれました。若松孝二さんの現場を経験してから考えが変わったようで、映画館は自分たちの職場だという意識を持っていらっしゃる。つまりお客さんに観てもらうまでが自分たちの仕事だという感覚が強い。それだけでも一緒に肩を組めるような気がしました。

──信頼できる人たちがこの企画に関して意気に感じて参加されているわけですね。

入江 目標が同じなので、手弁当で宣伝していきますという気持ちを持ってくれた気がします。

──ところで、画面をスタンダードサイズ(※)にしたのはなぜですか。

※画面比率が4:3のこと。かつての映画の標準サイズだったが、現在では16:9などのワイド画面が一般的

入江 やりたかったんですよ。映画はシネスコ、ビスタなど作品ごとに画面サイズを選べます。そのサイズによってふさわしい撮り方があって、今回はスタンダードだからやれることをこの機会に挑戦してみたいという思いがありました。サイズが選べるとはいえ、商業映画だと今、スタンダードは正方形に近いのがネックでやりづらいんです。

今の映画館はシネスコの横長のスクリーンサイズが主流でスタンダードが特殊サイズのように考えられています。昔の映画館にはスクリーンの幅を変える機構があったけれど、今は映画館によってはそれがない。すると端が黒味になって、見慣れていないお客さんだとスケール感的にちょっと損した気持ちになるんじゃないかな。

海外だと今でもたまにあるんです。去年公開されたジョナ・ヒルの『mid90s ミッドナインティーズ』はスタンダードだし、カンヌ映画祭に出品される映画にもありますが日本では少ないですね。昔の映画館はスタンダードサイズが主で、僕も大学のときは16ミリで撮っていたのでスタンダードサイズでした。今回はそれ以来になります。

──やりたかったサイズでやってみてどうでしたか。

入江 やっぱり楽しいですよ。カメラもなるべくFIXで撮ろうと思って、今回、あまり動かさなかったんですよね。移動ショットも、役者の動きに合わせてPANすることもないですし、ここぞってときに動かそうと思ったので、そうすると演出の仕方も変わってくるんです。

手持ちで追いかけたりできないんで、しっかり動線を決めて、美術の配置も決めて、俳優の動きを計算しておかないと演出できないというか。そういうふうに、新しいこと──普段やらないことにトライできることが自主映画ならではの楽しさですよね。

全部自分で背負いたいと思うことがある

映画『シュシュシュの娘』より

──コロナがなかったら自主映画はもうやることはなかったですか。

入江 いや、自主映画はいつかまたやりたいと思っていたんです。というのは、各映画祭で審査員などをやるようになって、ゆうばり(国際ファンタスティック)映画祭などですごくトガった作品とかオリジナリティのある作品に出会うんですよ。そうすると自分がどんどん保守化している気がして。

一回壊すためにも自主映画をやりたいと数年前から思っていました。先輩でも瀬々敬久さんや古澤健さんがメジャーと自主の両方をやっているのを見ていいなと思っていたんですよ。

──自主という初動に立ち帰るみたいなことが、時には必要である?

入江 あるんじゃないですかねえ。全部自分で背負いたいと思うことが。機材がないとかお金がないとき、どうしたらおもしろくいいふうに状況を変えられるか頭を使う。そういう雑草魂みたいなものはあると思います。

Yu Irie 
1979年、神奈川県生まれ、埼玉県育ち。2009年、自主制作による『SR サイタマノラッパー』で注目され、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門グランプリ、第50回映画監督協会新人賞など多数受賞。続編『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(2010)、『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)も制作した。ほかに『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(2011)、『日々ロック』(2014)、『ジョーカー・ゲーム』(2015)、『太陽』(2016)、『22年目の告白〜私が殺人犯です』(2017)、『ビジランテ』(2017)、『ギャングース』(2018)、『AI崩壊』(2020)などがある。テレビドラマ演出も手がけ、WOWOW時代劇『ふたがしら』(2015)、『みんな!エスパーだよ!』(2013/テレビ東京)、『ネメシス』(2021/日本テレビ)などがある。


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  • 映画『シュシュシュの娘』メインビジュアル

    『シュシュシュの娘』

    製作、脚本、監督、編集:入江悠
    出演:福田沙紀、吉岡陸雄、根矢涼香、宇野祥平、金谷真由美、井浦新ほか。
    8月21日(土)〜渋谷ユーロスペースほかにて順次公開。

    地方都市・福谷市のはずれに生まれ育った鴉丸未宇(からすま・みう/福田沙紀)は市役所に勤めながら、祖父・吾郎(宇野祥平)の介護をしている25歳。平凡な日々を送っていた未宇だったが、役所の先輩の間野幸次(井浦新)の自殺によって運命ががらりと様変わる。先輩の死に関わる理不尽な“文書改ざん”の陰謀を暴くべく立ち上がる未宇。

    “今までは、息をひそめて生きてきました。でも、今日からは。”これまで目立たないように生きてきた未宇の人生が花開く、痛快で爽快な88分。

    文書改ざん、移民排斥……社会の闇を暴く物語は、スケールの大きい商業映画にもなり得る題材。それをあえてこじんまりしたスケール感でやりきるユーモア。ゆったりとしたスケジュールで美味しい食事を摂りながら充実した創作活動を行うこと。その道のプロと学生が入る混ざる学びと実践の場。人間が生きるための大事なスタンダードが、最近見かけない慎ましさあふれるスタンダードサイズの映画の中にぎっしり詰まっている。

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木俣 冬

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木俣 冬

(きまた・ふゆ)フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。著書に『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち・トップアクターズルポルタージュ』、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。

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