「私は私でしかない唯一無二の何かである」
ハダシは、無垢のプロフェッショナルだ。そして、それ以上に、ハダシという一個の生き物。うっかりすると何歳かも忘れるほどだ。私たちが、動物の年齢などさほど気にしないように。
「人と関わることが、自然な動きになるといいなあと。当たり前に自然にやっていることとして成り立つといいなあと思っていました」
ハダシは、時間差である感情に気づきますね。
「気づくのが遅かった。でも、わかんないよなあって、たぶん初めての感情だから。でも、それを知ることで、受け入れられるようになったこともあるわけで。そのリアリティラインは意識しました。(脚本の)三浦(直之=劇団「ロロ」主宰)さんが紡ぐ言葉は、すごく繊細で難しい。現実ではなかなか口にしづらいことを言ったりしている。
でも、ハダシが言ったら受け入れられるかも、という状態にならないと(映画に)ついていけないじゃないですか。なんかずっとしゃべってるけど、何言ってるかわかんないな、この子。ってなって、(観客が)離れていったら、ほんとに意味がないから。とにかく、ハダシは何かを一生懸命訴えてる。三浦さんが込めた想いがちゃんと乗るといいなと思いながら」
何度か出てきた「受け入れられる」という言葉が印象的です。これ、表現する上で大切にしていることですか?
「グループ時代にアイドルやってた経験も大きいのかな。伊藤万理華という名前のアイドルなわけですが、性格とか隠し切れないんです。どんなにキャラクターづけしようとしても、出ちゃうんです。無理なんです。でも、それを受け入れてくれるんだと知った。その自分、すごくイヤだったけど、それが『よさ』なんだと知ったとき、自分も受け入れられるし、自分が受け入れられたことで、やっとファンの人と通じ合える感覚になっていった。自分が好きな『こう見せたい』というところと、客観的に『万理華はここがいいから好きなんだよ』って言ってくれることは違う。
グループに6年いたけど、このことに気づけたのがすごく遅かった。卒業する2年前とか(笑)。イヤな『自分』も、みんながいいって言うなら、きっとこれも「よさ」なんだ。20歳くらいに気づいたことは関係あるかも。(『受け入れられる』という言葉を使うのは)癖です……」
それから楽になりました? 軽くなりました?
「はい、全然違います。全然楽になった。今回の作品、初号(の試写)を観たとき、『私って、こんなふうに見られてるんだ』と。演技も、顔の表情も、いいね、とか思えなかったんです。でも、今日も、ちゃんとハダシだよ、って言ってくださるわけじゃないですか。そうか、私のよさって、この年齢(現在25歳)でも学生としてやれるところなんだ。挙動もおかしいし、顔グセもあるし。でも、アイドルのときよりも、何かを破った自分を、今は受け入れられるようになって。だから、すごく感謝しています。恥ずかしいけど、これが私なんだなと」
こう見せたい、だけが表現じゃないんですね。観客が求めているのは、セルフプロデュースされ切っているものだけじゃない。
「(表現は)自分がいいと思うものだけじゃ、成立しないから。完璧なもの──自分のいいところだけ見せたいという時期もあったけど。でも、私が惹かれる人って、人間臭いところがある人。なんかカッコ悪くても、ただただ全力で打ち込んでる人。この作品に出てくる人たちにも通じるんですけど。好きなことをとにかく一生懸命やってる人。ものづくりしてる人。そういう人に惹かれる感じは、ずっと変わらずあります。
私自身、表現の上では素っ裸っていうか。ばーっと全部見せてるわけじゃないけど、かわいく見せなきゃとか、そういうキャラでもないし。きれいとか美しいとかじゃなくて、私は私でしかない唯一無二の何かである。それを受け入れられるようになりました」
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