でんぱ組.inc「結婚だけを無視するのは違う」産休を経て目指す“これでよかった”と言える未来

でんぱ組.inc相沢梨紗

文・編集=森 ユースケ 撮影=飯田エリカ 編集=田島太陽


でんぱ組.incの相沢梨紗、プロデューサーのもふくちゃん(福嶋麻衣子)、振付演出を担当するYumikoに聞く「アイドルと結婚」にまつわるロングインタビュー。(全3回、前編はこちら)。

前編では、でんぱ組.inc・古川未鈴の結婚後の活動継続と出産に対して、リーダーの相沢梨紗とプロデューサー陣がどのような思いを抱いたのかを聞いた。中編では、メンバーのひきこもりの過去を楽曲としてさらけ出すに留まらず、結婚をテーマにした楽曲の制作をして結婚をも“エンタメ化”する、いわばドキュメント性の高い活動をすることになった経緯を探る。


秋葉原に辿り着いたのは、今までの自分をリセットしたかったから

──結婚と出産をオープンにしただけでなく、それをテーマにした楽曲「私のことを愛してくれた沢山の人達へ」「結婚してもMAMAになっても君は永遠にぼくのIDOL♡」なども制作。このドキュメント性の高い動きは、2013年リリースの、各メンバーの過去を掘り下げた楽曲「W.W.D」に端を発しているように感じます。言葉どおり偶像だったアイドルから、「いや、みんな人間なんですよ」と強く発信したことで、現在にまでつづく流れができたというか。

相沢 あの曲、みんな歌うの嫌がってたよね。だって、最初は泣きながらやってたから。「こわ〜い、無理無理〜」って。

もふくちゃん 最初の歌詞の時点でNG出したもん。会員番号の自己紹介みたいなかわいい曲にしてくださいってお願いしたのに、何このド暗い歌は! 全然違う!って。

Yumiko 最初に披露したのはリキッドルームだったと思うけど、学芸会みたいになって、お客さんも大笑いして聴いてたよね。本人たちも“自分の歌”とは捉えられないから、キャッキャしながらコントみたいにやってた。そのあと、歌について深掘りしていくタイミングで、「嫌だ嫌だ」って言い出して。

もふくちゃん みんな自分の話はしたくないって気持ちが強かったよね。

──ステージの上でキラキラしているところだけ見せたいのに、なぜ忘れたい暗い過去の話をしなければいけないのか、と。

相沢 私たちって、アルバイトやメイドさんみたいなところから始まって、地下アイドルをやって、路上ライブをやって、お客さんが10人も来ない……ってところからずーっとやってきたから、自分の能力で今のステージに立ってるわけじゃないって思ってるんですよ。本当に運がよくて、まわりの方たちが押し上げてくださった結果。だからこそ、自分という存在はないほうがいいって素直に受け止めていました。

この考え方は私たちの中ではすごく大事だったんです。秋葉原という場所に辿り着いたのも、今までの自分をリセットしたかったから。自分でキャラクター設定を作って、「私は相沢梨紗ちゃんだから、これでいい」って思って、“秋葉原ワールド”で見つけた仲間たちと生きてきたのが幸せだった。

あのままだったら、苦しくて生きていられなかった

──確かに、メンバーのみなさんがどっぷり浸かってきたネット文化って、自分ではない、ネット上の人格を作り上げる側面がありますよね。それをリアルの世界、秋葉原でやっていたと。

相沢 そう。私は秋葉原でリアルアバターを作って生活してきたし、その道を極めていけば、なんとかなると思ってた。それが「W.W.D」で変わったんです。

もふくちゃん 分かれてた人格と急にぎゅっとくっつけられた感じ。本当のお前は、これなんだーって。

相沢 わー! 嫌だー!って大暴れして。

もふくちゃん ヒャダインさんのせいだね(笑)。 

相沢 (笑)。でも、あのまま分かれたままだったら、苦しくて、苦しくて、生きていられなかったとも思う。楽しかったはずだけど、自分ではない何かが人気になって、成長していく感覚──自分の中にふたりいるみたいな感覚──で生きていたから、すごく楽しいときもあれば、すごくつらいときもあったんですよ、たぶん。それを見かねてヒャダインさんがあの曲を作ってくれたんだと思う。……とはいえ、やっぱり最初は嫌だったかな。

もふくちゃん 曲を作る前の、ヒャダインさんの質問が悪かったんだよね。「未鈴ちゃんってどんな子なんですか?」って始まって。「いじめられてたらしいですね」「どんないじめ?」「こういうふうにいじめられてひきこもりだったらしいですよ。『ゲームしか友達じゃない』って言ってました」みたいな。

でも仕方ないじゃん、だって、本当に彼女はそういう人なんだもん。私は楽しい会員番号の歌を作ってって言ったのに(笑)。

もっと楽しい、「私はきゅるきゅる、未鈴ちゃん」みたいな歌ができると思ってたのに、「いーじめられ」って始まりだったから、もう「えっ……」て絶句。シーンってなって。全員止まったもん。でも、みんながそういう人だったんだよ。

相沢 それもあるし、実際、近い人たちにはバレてたからね。秋葉原ディアステージで働いてて、その仲間たちと来てくれるお客さんたちはだいたい知ってたことなんです。それを乗り越えてみんなキラキラしたものを外に出してるのに、ファンの方たちは「そんなこと、言わなくてもいいんじゃない?」って心配してくれてた。

もちろんキラキラした部分を見たい人もいるから、「そんなことをする未鈴ちゃん、りさちーは嫌だな」って言われる時期もありました。

もふくちゃん 「アイドルが暗い過去を歌うのってどうなの」って叩く人もたくさんいたんですよ。でも、それを言い出すと、電波ソングだって最初はさんざんな評判だったし。

相沢 でも、つづけていくうちに、みんなだんだんと理解してくれるようになったので。

「しんどくて歌えなかった曲」から、変身した瞬間


この記事の画像(全10枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

森 ユースケ

(もり・ゆーすけ)1987年生まれ。東京都出身。毎日ウルトラ怪獣のTシャツを着ているライター/編集。インドネシアの新聞社勤務、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。近年は企業のオウンドメディア編集も担当。オリックス・バファローズファン。

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。