「しんどくて歌えなかった曲」から、変身した瞬間
──とはいえ、本来見せたくなかった部分を表現したことで、同じように社会になじめなかった人たちが体重を預けられる曲、存在になっていったわけですね。
もふくちゃん 当時は、(この曲に共感できる)ある意味重い人たちってそんなにたくさんいるんだってびっくりした思い出があります。私は秋葉原に来るまで、メンヘラ文化や、いわゆる“病んでる“みたいな人に、出会ったことがなかったので。
Yumiko でも、あの曲を軸にしたツアーをやらなかったら、今とは曲の取り扱われ方がまったく違ったと思います。グループ自体も、自分たちを題材にしたコント集団になってたかもしれない。自分たちを投影して歌うところまでいけてなかったから。
もふくちゃん きっとフィクションみたいになってたってことだよね。
Yumiko 当時めちゃくちゃやったのが、巫女が三日三晩祈るみたいな、集中の作業だったんです。ひたすら自分に向き合うためのツアーだった。
相沢 当時の記憶、断片的にしかないですもん。メンタルがやば過ぎて。
──過去の自分を直視したくないから今の自分になったのに、改めて過去の自分と向き合う作業をしたと。
Yumiko そうです。しかも舞台の上でそれを題材とした作品を、それぞれが発表する企画をやったんです。確か全国のZeppを回るツアー(『ワールドワイド☆でんぱツアー2013 夢見たっていいじゃん?!』)で、1公演につきひとりが、絶望的な話をしたり、人形劇をやったりして。人によって、15分やったときもあったと思う。
もふくちゃん 未鈴ちゃん、長かったよね。15分くらいやってた気がする。
Yumiko そのパートの直後に「W.W.D」を歌うセットリストにしたんですね。そしたら、それまで軽い感じで「い〜じめられ」って歌ってた子たちの顔がまったく変わったんです。全然違うギアが入った。
──断片的にしか記憶がないとのことですが、相沢さん、ギアが入った自覚はあったのでしょうか。
相沢 そのときはすごくしんどかったけど……。こういうのを歌ってもいいんだなって思えたのかも。「W.W.D」を最初に歌ったとき、どうしてふわっと歌ってたのかというと、ニコニコして、心を入れないように歌わないと、しんどくて、しんどくて、歌えなかったんです。
だからZeppツアーの独白の直後の「W.W.D」、みんなふえ〜んって感じで、ちゃんと歌えてなかったです。
もふくちゃん みんな、ほとんど歌えてなかったよね。
相沢 アイドルって、ステージの上でそんなふうに泣いちゃいけないと思ってたんです。ライブってお客さんが楽しむためのものであって、私たちのものじゃない。それなのに、パーソナルな部分を10分もぶつけていいのかなって。
でもやるからには、自分がイメージするなんとなくのアイドルはもうできない、それでは太刀打ちできないんだなって覚悟があったんだと思います。どうしようもないけど、さっきYumiko先生が言ってた、変身した瞬間、何か皮が剥けた瞬間。
Yumiko それが、自分自身と、作り上げたアバターの同期が完了した瞬間だったんだと思います。その瞬間を、ひとりずつ、全員が段階を追って迎えていくという、不思議な体験をしたツアー。本人たちの思いは彼女たちにしかわからないけど、外から見た顔はまったく違いました。
未鈴ちゃんは常識を打ち破ってきた子だから
──「W.W.D」を機にパーソナルな部分をさらけ出したことで、相沢さんのいう「無理をしない」グループに、いわばドキュメント性が高いグループになっていった経緯がある。
もふくちゃん それこそ結成当初の2000年代って、アイドルがオタクだってことも恥ずかしい時代で。自分の隠したい過去をさらけ出して、ある意味では開き直ってきたグループだったと思うんです。そのなかで結婚のことだけを無視してなかったように振る舞うのは、ちょっと違うんじゃないかとは思いました。
──古川さんの結婚をテーマにした楽曲を作ったり、新体制後の新曲「プリンセスでんぱパワー!シャインオン!」「玉虫色ホモサピエンス」など、メンバーのキャラクターを存分に活かした、ドキュメント性とエンタメ性が高い水準で融合した作品がつづいています。その意味では、結婚、出産を迎えるメンバーがいても、受け入れられる土壌がある現在への流れの源が「W.W.D」にあるいうことですね。
もふくちゃん ずっと楽しい人生だったわけじゃない人たちから、さっき梨紗ちゃんが言ったように「やっと結婚できてよかったね」って思ってくれる人がいるっていうのも、あるかもしれないですね。
──さらに今後も、常に変わりつづける、無理しない姿を表現していく。そして産休明けの古川さんと一緒にやるかもしれないし、やらないかもしれない。
Yumiko 期待はしてますよ。ものすごい集中力が必要な仕事で、それがないんだったら、もう難しいって話になるけど。未鈴ちゃんはいろいろな常識を打ち破ってきた子だから。常識では語れないスタイルがあるからこそ、いろいろなものを覆してくれることを期待してる。結果がどうなったとしても楽しみです。
もふくちゃん ウルトラCをかましてくる可能性もあるよね。「うちの赤ちゃんもメンバーに」とかさ(笑)。
相沢 平均年齢、爆下げじゃん。
Yumiko なんだかんだあっても、将来「これでよかったね」って言えるように、一歩ずつ進んでいきます。
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でんぱ組.inc『衝動的S/K/S/D』
でんぱ組.inc新体制のシングル第2弾リリース。表題曲はグループの名曲を数多く手がけてきた玉屋2060%が作詞作曲。前山田健一が作詞作曲の「玉虫色ホモサピエンス」のほか、スピンオフユニット「ねもぺろ from でんぱ組.inc」、「チャぺの泉 from でんぱ組.inc」の楽曲も収録する。
発売日:2021年9月22日(予定)
予価:2,200円(税込)関連リンク
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「相沢梨紗バースデー記念展〜Aquaporin〜」
写真家・七菜乃が撮影した写真、デザイナー・MIYA NISHIYAMAがデザインした衣装に加え、本人が制作した絵画も展示予定。写真作品は販売も行う。特典つき限定ドリンクや展示開催記念グッズの販売も予定している。
開催日:8月11日〜8月15日(12:00〜20:00)
会場:AWAJI Cafe & Gallery(東京都千代田区神田淡路町2-4-6)
チケット料金:無料関連リンク
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