俳優・柳楽優弥が語る、駆け抜けた10年の終わりと始まり

2021.6.1

北斎の気持ちを理解していく作業

──柳楽さんは今回、青年期の北斎を演じました。青年期の資料がほとんど残っていないなかで、どんな役作りをしましたか?

北斎に関わる限られた資料を見た印象では、骨太というか、無骨というか、わりとワイルドなイメージが強い人だなと感じました。一方で、お弟子さんのために教本として『北斎漫画』を発行するなど、晩年に向けていろいろと緻密に計算しているところに、知的な一面を感じました。
青年期は情熱あふれる性格だったのではないかなと思います。演じるほど、その原動力はなんなのだろうと思うほどパワフルな人だと感じながら役作りをしました。

──北斎の気持ちで理解できるところはありましたか?

理解できるところを探していく作業でした。たとえば、「波」に出会って、自分が描きたいものはこれだと気づくシーンがあるのですが、「今すごくいい絵が描けるぞ」というプラスのモチベーションで海に向かっているのではなく、「納得いかない」とか「悔しい」という、ある意味絶望的な気持ちで海へ向かって行ったのだと思うんです。そうした状況の中で、ふと「波」というものに出会い、気づくということがアーティストの境地。
前向きでいることは大事だと思うんですが、アーティストや何かを表現する人は、ネガティブな感情からも、美しいものを作り出すことができるのだということを学びました。そのエネルギーがものすごいものなんだなと気づかされました。監督と一緒に「映画の中での北斎像はこれだ」と作り上げた人物像が、情熱的な北斎になったという感じです。

葛飾北斎の青年期を柳楽が、老年期を田中泯が演じた

「今までやってきたことを一回捨てるような感覚」

──「ただ描きてえと思ったもんを、好きに描く」という北斎とは違い、俳優は自分の好きに演じるわけにはいきません。そのへんの葛藤はありますか?

日々、葛藤しています(笑)! 俳優は台本があって、セリフを読んで、そのキャラクターについて考えていくということが基本の作業だと思うんです。僕は演出してもらいたいと思うほうなので、言われたことをするのは大事だと思うのですが、ロボットのようにはなりたくないというか。個人としての考え方だったり、好きなことや嫌いなことなど、普段のインプットも大切にしていきたいなと、最近は思っています。

──北斎の名前の由来となった、“たったひとつ、決して動かない星”、北極星。柳楽さんにとって北極星に当たるものはなんですか?

なんですかね……探してます。2020年を通して、新たな価値観を築き上げていかないといけないなと思ったんです。今までやってきたことを一回捨てるような感覚というか。

──10年前、「30歳までに一度燃え尽きて灰になって、ぴっかぴかの金色になって生まれ変わりたい」と仰っていました。

まさにそのとおりです! 今の時代に生きる人たちの中には、そういう考えに行き着く人が多いかもしれません。俳優だから特別そうだということではなく、2020年はいろいろなことが強制的に中止になってしまったりして、思うようにいかない年だったので、これまでのことに頼るのではなく、新しい価値観を見つけるためにいろいろなことに挑戦したいと思っています。

圧倒的な才能にかっこよさを感じる

この記事の画像(全22枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。