音響、照明、すべて自分ひとりで
──マヂカルラブリーの野田(クリスタル)さんがよく「ひょっこりはんはオートバックスで売れた」とおっしゃっていますね。
S店長 当時ピン芸人になったばかりの、ひょっこりはんの初めての営業がウチで。やっぱりファミリー層が多く来るので、子供さんが喜ぶんですよね。ほかにガンバレルーヤとかぼる塾の前身であるしんぼるとか、初めての営業をここで経験してくれる芸人さんが多かったんです。僕もだんだん「もっと知らない人が見たい」とお願いするようになって。
──お笑いに縁のなかったS店長が、いつしか知らない芸人さんを求めるまでに……。
S店長 いや、だってみんなすごくおもしろいんですよ。芸人さんを知れば知るほど「まだそこまで知名度が高くない芸人さんでも、こんなにおもしろいんだ!」と思うようになったんです。ライブだと音を使う芸人さんに「このセリフきっかけでこれ流してください」とか言われますけど、本番では、教えてもらったセリフと違う言葉を言うこともあるんですよ。なので来てくださる芸人さんのネタを調べて事前に見て、「この人はこういう芸をするんだな」とか、「こういうことなんだ」ときっかけや芸風を勉強していくうちに……。
──え、きっかけで音を出すとか、そんなこともS店長が?
S店長 ライブのときは音響、照明も全部僕がひとりでやっています。マイクの音の合わせ方とか照明のこととか、YouTubeで勉強して。
──店舗スタッフの方が手伝われたりは……?
S店長 あくまでもこのライブは自分が勝手にやっていることなので、このためにスタッフを稼働させることは一切ありません。これは店長だからやっているしできることなので、スタッフには負担をかけない。だからライブの日はいつも自分が休みか、有休の日なんです。
演者に喜んでほしい一心で手作りの劇場が本格的に
──最初のころはステージが野外にあったんですね。
S店長 2016年の8月までは野外でした。そこから、店内に劇場を作ったんです。
──ご自分で、劇場を。
S店長 そう。お金をかけられないので、全部自分で。会社には経費や負担をかけずに作りました。そもそも、最初の屋外ステージも自分で作ってたんですよ。俗に言う”みかん箱”なんて失礼だと思ったので、単管パイプで骨組みを組んで、芸人さんにいい環境でやってもらいたいから屋根もかけて。
──それでは飽き足らず、屋内にステージを。
S店長 店内だったら雨が降ろうが雪が降ろうができるので。さらに気温の問題もないですしね。屋内のはもうちょっと本格的にしようと思ったから、大宮ラクーンよしもと劇場に見学させてもらいに行って、ステージ裏から楽屋まで構造を見て。休みの日や営業終了後に夜な夜な作業して、1カ月くらいかけて作りました。
──もともと、大工仕事の心得があったんですか?
S店長 車屋なんで、カスタムなどで板の切断とか配線とかは仕事でやってるんですよね。
──なるほど!
S店長 あとはポスターとかも全部自分で作ってます。
──立派な劇場を作られたあと、さらに店内で劇場を移動しているそうですね。
S店長 はい。最初は売場で誰でも、無料で観られる状態だったんです。でも劇場を店内に移動してから、無料で観せることに違和感を覚えるようになったんですよ。芸って芸人さんにとっては商品なのに、それを無料で観せるって芸人さんに対して失礼だな、って思うようになっちゃった。
──もうオートバックスの店長よりも劇場支配人としての意識が。
S店長 だから、観たいと思う人だけが観られるようにしようと、まず特注のカーテンで仕切って見えなくしたんです。その代わり100円をいただこうと。お店の利益じゃなくて、とにかくいくらでもいいからお金を払ってもらう。それだけ芸人さんのネタには価値があるんだと思ってもらいたくて。でもカーテンで仕切っているだけだから、店内に音漏れしてお笑いに興味のないお客様から「なんかうるさい」という苦情もあったりしたんですよね。それから、当たり前なんですが売り場でクラクションを鳴らすお客様がいて。芸人さんがネタをやってるときに、「ビーッ」と鳴らすんですよ! それが芸人さんに申し訳なくて。商品として売ってるんだから当然なんですけど(笑)。
──そうですよね、そもそもクラクションなどを買いに来るお店ですもんね? もう完全に芸人さん側に立った考え方に……。
S店長 それで、店内の劇場と壁を隔てた奥にお客さんの休憩スペースがあったのを、劇場スペースと入れ替えたんです。売り場にあった劇場を、奥の密閉スペースにして。それでようやく観たい人だけが観られるし、音も遮ることができるようになりました。
──すごいことです。
S店長 この前も『アメトーーク!』(テレビ朝日)で野田クリスタルさんが言っていました、「店長はお笑い好き過ぎる」って。僕にとってはそれは最高の褒め言葉で。とにかく演者さんのために何かをしたいって常に考えてたんですよ。ライトを増やしたいとか、マイクもよくしたいとか、ちゃんと劇場にしていって芸人さんに喜んでいただきたいという一心でこれまでやってきました。
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