2位『ボールパークでつかまえて!』(既刊1巻)球場スタッフだって大変
オグマ 2位は近年どんどん増えている“球場周辺マンガ”で、ビールの売り子と彼女の周辺で起きる日常風景を描く『ボールパークでつかまえて!』です。
ツクイ 須賀達郎先生といえば、『マックミラン高校女子硬式野球部』(講談社)、『2年2組のスタジアムガール』(双葉社)、『帷子しずくはリードしたい!』(アース・スター エンターテイメント)と、これまでずっと「女の子×野球」という視点でこだわって描いてきた作家です。これまでは良くも悪くもターゲットが狭く、どれも中途半端な終わり方になっていましたが、今回の作品はバランスがよく、多くの人に読まれそう!という期待感があります。
オグマ 確かに、この作品のよさは「バランス」にありますよね。登場キャラクターというか、ビールの売り子のまわりや視線の先に観客がいて、裏方がいて、選手がいて、選手の家族がいて……というキャラクター配置のバランスがいいことで、さまざまな視点から野球に触れることができる。コロナで大変だ大変だと報道されるのは選手が中心になりがちですけど、球場スタッフだって普段から大変だし、それぞれには家族や関係スタッフが大勢いて、個々に悩みがあることに気づかせてくれる作品。これってなかなかないと思うんですよね。
ツクイ そのなかで、主人公であるビールの売り子が見た目はギャルっぽいけれど芯は強く、でもデレな部分も持っていて……とキャラもしっかり立っている。女子野球のマンガって芳文社やKADOKAWAあたりでよく連載しているイメージですけど、どうしても“萌え”に寄りがちで読者を選別してしまった可能性はある。その意味でも、編集がいい仕事しているな、と感じる作品です。そしてこれまでと変わらず、須賀先生が描く女の子はかわいい!
オグマ 『モーニング』という読者層のレンジが広い雑誌で連載しているのも強いですよね。それこそ、1話完結ものでいつでも終わることができるけど、細々と長くつづいてもらいたい。『とりぱん』みたいに『モーニング』を開くといつもある、という立ち位置になってほしいです。
3位『ビッグシックス』(既刊5巻)負けつづけるエースとはなんだ?
ツクイ 「東京六大学野球」という、野球マンガの世界ではけっしてメジャーではないテーマを実直に描く作品です。東大野球部をモデルにしているんですけど、現実世界同様、5強1弱のなかでどうやってリーグ戦を戦っていくのか、という話は確かに描写しがいがあります。
オグマ 女子選手が登場したり、1勝をもぎ取るための総力戦だったりと、東大野球部らしいエピソードがどれもドラマチックですよね。
ツクイ そうなんです。たとえば「エースの役割とは何か?」という問いに対して、本来であれば「負けないこと」という答えがある。でも、負けることが当たり前の東大エースは何を目指せばいいのか、と監督に問われるシーンがあったりする。確かに、ずっと負けつづけるエースとはなんだ?と、いろいろ考えさせられるわけです。
オグマ 東京六大学を舞台にした野球マンガといえば、『男どアホウ甲子園』(水島新司/秋田書店)と『ロクダイ』(コージィ城倉/講談社)、両巨匠が描いた作品が思い浮かびます。この『ビッグシックス』を含め、どの作品も東大野球部を舞台装置としているのは興味深いです。
ツクイ 本作の中だと、通算成績のわりにプロから声がかからない選手の成績を掘り下げていくと東大戦でやたらと数字を荒稼ぎする「東大キラー」だった、といった描写も説得力と納得感がありましたね。
オグマ ただ、説得力という意味で不満があるのは、もう少し大学名をモデル校に寄せるか、なんなら『ロクダイ』のように実名で勝負してほしかったなぁと。たとえば、東京六大学を舞台にした野球小説『6 シックス』という名著があって、どの大学も実名が出てきます。実名だからこその説得力、納得感というのは大きいですよ。
ツクイ この作品で語りたいトピックが内容以外にもあって、発刊ペースが異様に早いんです。2020年5月に1巻が出たあと、2021年1月ですでに5巻。8カ月で5冊も出している。ネット展開を活用した新しい手法ですよね。週刊誌よりも早く出る。
オグマ そのぐらいのペースじゃないと読まれないのかもしれないですね。YouTubeでも週2更新というのは多いですから。
ツクイ そこに対して、過酷なマンガ制作はどう向き合っていけばいいのか、というのは大きな課題です。
次点 『あの月に向かって打て!』(既刊4巻)野球を知らない人をどう読者にするか
オグマ 野球というスポーツは、これから少子化の影響やファンの高齢化の問題もあって「マイナー競技」の道に進む可能性が残念ながら高い。そんな時代を迎えつつある今、野球を知らない人をどう読者にするか、という視点は野球マンガにおいてけっこう重要なはず。
ツクイ そうですよね。『あの月に向かって打て!』は、そういった点も考えているだろうな、と思わせる作品です。
オグマ 主人公は高校入学時点まで野球をやったことがない。野球未経験者が高校野球なんかできるのか?という問題を、本当はすごい運動神経の持ち主だけど中学は受験勉強のために部活も何もできなかった、とするのは少し無理があるかもしれないけど、一応理由にはなっている。
ツクイ その意味で、主人公の設定が少し『BUNGO』っぽい。粘着気質を持っている点を含め。
オグマ その粘着気質な個性が「上達には集中力が重要だ」という描写にもつながっていくし、1巻から徹底しているのは「野球は楽しんでこそ」「技術力や能力以前にリスペクトが大事」といった点を強調することで、これから野球を始めてみたい人に向けて野球の魅力や価値を伝えようとしているんですよね。実際の指導者も、子供たちにはこんな姿勢で臨むことが大切なんだろうな、と。
ツクイ この作品でいいなと思うのは、ボールが飛ぶのって気持ちいいよね、という打ち出し方がしっかりしていること。天性のホームランアーティスト、という主人公の資質がどこまで伸びていくのか、というのは追いかけていく上で楽しみな視点です。
オグマ そのための「打球角度」や、守備でも「逆シングルキャッチの優位性」だったり、初心者目線がありつつも、ちゃんと今のトレンドも入れている。そうじゃないと、野球リテラシーが高い人たちにはウケないわけですから。
ツクイ あとは、弟大好きの秀才お姉ちゃんや、金髪で賢い外国人女子マネージャー、そして、男子の試合に混ざっても見劣りしない女子高校球児……と、冒頭から女の子に対する盛りが多い。
オグマ 『MAJOR 2nd』の次ぐらいにあります。
ツクイ その意味で、とても『サンデー』的なんですよね。作者の寒川一之先生といえば、以前『週刊少年サンデー』で『最後は?ストレート!!』を描いていた人なんだから、その文脈は得意とするところ。この作品は『ビックコミックスピリッツ』での連載ですけど、寒川先生の得意な少年マンガのジャンルで出しても、女の子のかわいらしさや初心者感はちゃんとウケたんじゃないでしょうか。逆にいうと、そんな少年誌の読者層にも知ってもらいたい作品でもあります。
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