根本宗子が吉田豪に聞く「“演劇の流行ってなさ”をどうにかしたいんです」<岸田賞ノミネート記念対談>

2021.3.9


「なんか楽しそうですよね」とはよく言われるけれど

──実際、面倒な面もあるわけで。

演出家ってみんな面倒なんですよ。面倒な人しかやらん仕事ですよ(笑)。だけど公演にはある程度の人が入って興行としてうまくいっておもしろいものができてればOKってみんなが思うなかで、それだけじゃなくて「演劇全体を盛り上げたくてあえてこれをやってるんです」ってことを理解してくれるプロデューサーと組んでいかないと、自分が切り開きたい道は開けないな、みたいなのはあって。内側にもっと理解者を増やさないと。やっと意見を聞いてもらえる年齢にもなってきたし。

──その説明をあまりしてこなかったんですね。

そうなんです。普通アフタートークとかで、「この公演はこういう気持ちで書いて」みたいなことをみんなしゃべるんで。私はこんなにいろんなとこでしゃべってるのに、自分の劇団でアフタートークしたことは1回もないんですよ。

唯一、清竜人さんとやった10周年公演(『今、出来る、精一杯。』/2019年)の千秋楽で「1回もやったことないから」ってことで初めてやったぐらい、アフタートークが嫌いで。人の芝居を観に行って、よくわかんない芝居だったなと思ったのにアフタートークで30分ぐらい説明されて、いいものを観たって思わされて帰るのが嫌で。

観たままを持って帰りたいので、それを観てアフタートークで説明するのってダサいなと思っちゃったので。アフタートークするなら全然違う話を全然違うゲストとしてる団体のほうがおもしろくて。なので話す場と芝居は分けてたんですよ。

──ほかに話す場も多い人ですしね。

でも、ほかで話す場も相方が長井短だったり(夢眠)ねむちゃんだったり、全然違う話になるじゃないですか。そうすると“劇作家然”として出るところがなかったんです。“劇作家然”としてたくないので、自分としては今まで組ませてもらったペアの方々全員めちゃくちゃありがたいし、感謝しかないんですけど、その露出の仕方であまり理解されなくて芝居のイメージも「それと同じでしょ」って思われてしまうことがあって。

自分のお客さんのほうがよっぽどそれを理解してくれてるというか、あえてやってるんだろうなってことを楽しんでくれてるんでありがたいですけど。そういうのどうしたらいいと思います?

──意外だったんですよね、順調にうまいことやれている人というイメージだったので、こんなにちゃんと考えて迷っていることが。

演劇外からはうまいことやれてる感じに見えてるんですね。「なんか楽しそうですよね」とはよく言われるんですけど。

──好きな人たちと好きな仕事をしているようには見えてます。

万理華ちゃんとかもそうですけど、やりたいなと思った人のマネージャーさんも含めて協力的に一緒にやってくれてる人に恵まれてる面と、ご本人はめちゃくちゃやりたいって言ってくれてるけどマネージャーさんが「根本宗子とやらせたくない」っていう人ももちろんいるので。

──なんでそんなに警戒されてるんですか?

演出家としてホントに怖いと思われてるので(笑)。「マジで怖いんですよね?」って初めてやる人に絶対言われるし、確かに鬼みたいな時代はあったんです。

──それも間違いではなかった。

鬼というか、演劇って初日付近がチケット売れなくって、千秋楽付近が一番売れるんですよ。初日はまだ仕上がってないんじゃないかってお客さんの心配と様子伺いがあって、それが嫌だったんで、とにかく「うちは初日と千秋楽のクオリティが一切変わらないですよ」ってことをやってきたんです。俳優と再現度の高さを鍛えて、1カ月間同じことが毎日絶対できるようにしてきた。

灰皿を投げるとか人格を否定するみたいな絵に描いたような演出家というよりは、「これをこのテンポでやってくれ」っていうのをひたすら繰り返し練習する、だからコーチみたいなタイプですよね。自分も役者としてほかの人の芝居に出るので、20代後半になったころには「言われつづけていいことなんかないよな」って気持ちになってきて、わりとディスカッションで作っていく淡々とした現場になっていったんですけど。

普通に訓練したらチームとしては再現度が上がって、みんなが簡単にそれできるようになって、でも25歳くらいから再現しないことの楽しさがわかるようになったんですよね。

あー、だから私の好きな先輩たちは演劇をずっと楽しくやっているんだなと。「毎公演同じクオリティ」を求めつづけた結果、「毎公演同じにならない楽しさ」を大事にするようになったと言いますか。

『もっとも大いなる愛へ』より

──そこも変わっていったんですね。

はい。あと、どうしても真ん中に若い女の子が来る芝居が多いので、そして本人のパーソナリティとして“危うい”ところが多い人に私が惹かれがちなので、“危うい人”っていうのはタイミングよく組めばめちゃくちゃな爆発力を出すけど、タイミング悪く組むとお互いよくない感じになっちゃうこともありましたね。

降板した人のこと聞かれたりするけど、その後、仲悪いみたいなことは全然なくて。ホントにタイミングで、体調を崩した子もいるし、メンタル的に舞台やるテンションじゃなくなっちゃった子もいるし、それをあえて私は無理させてこなかったというか。俳優と私の距離が近かったのもあって、お互いつらいと正直言い合えてしまえる関係性だったので。

プロデューサーからしてみれば、「降板は根本のイメージが下がるからなんとか舞台に立たせろ」って言うんですけど、少なくとも10日とかある公演をやりたくないのにやるしんどさを考えるとこっちもしんどいし、やる人は一番キツいし、無理にやらせないほうがいいって私は思っちゃうんで。長い目で見て、またいいタイミングで一緒に組むほうがいいって思っちゃうタイプで。もちろん降板は簡単なことではないので、ちゃんと話し合って決めてますが、それが最善だと思ったときは迷わずそうしました。

楽しいと思ってない人が現場にいるのがいいことだと思わないタイプなので、プロデューサー脳みたいなものは演出家のわりにはあるほうだと思うんですけど、そこに関しては真逆、プロデューサーと。

豪さんにも届かない「演劇の流行ってなさ」どうなんですか?

──業界での見られ方よりも現場の空気を重視してるんですね。

そうですね、業界評判ってどうでもよかったっていうか、一緒に作品作りたい俳優やスタッフとの信頼関係と、お客さんとの関係性のほうが自分にとってはよっぽど大事。

自分自身に興味ないんで、そりゃ同じ界隈の人からなんか言われたら傷つくんですけど、あることないこと言われるし、でもある程度歳を重ねて本来の“根本宗子”と“ねもしゅー”が自分の中で分かれてきて、「あー、“ねもしゅー”がまたなんか言われてるな」みたいな気持ちになってきたんで、大丈夫になった。

もともとそんなに自分自身に興味がなくて、自分の服を買うより人の服を買うほうが楽しいみたいなタイプです。外に出るからある程度はちゃんとしようとは思うんですけど自分の服はなんでもいいし、自分が食べるものもけっこうなんでもいいけど人になら作るみたいな感じなので。あ、食べ物は嘘かも、食いしん坊だからひとりでも食の楽しみはある(笑)。

脚本も人に書いてるほうが楽しいからあんまり自分が出なくなってきたっていうのもあって。チラシが毎回自分の写真で、毎回出てたら相当な出たがりだと思いますよね。でも私は“俳優・根本”をそこまで信頼していない。やれることとやれないことがくっきり分かれている、使う場所合ってれば意味あるけど、使う場所間違えたらなーんも芝居に作用しないポンコツ俳優だと思ってます、自分のことは。

──かなり自己愛が強い人なんだろう、みたいな。

それで20代やってきたんで、そのイメージとはまた違う私もいるんですよっていうのを30代はもうちょっとちゃんとやらないと演劇のために活動しづらいなと思って。とりあえず名前を出してお客さんが入らないと何を言っても聞いてもらえないと思ってたので、集客がある程度のところにいくまでを20代はやり切った感じがあって。

──いざそれが実現してみたら。

そうなんですよね。だからこそやりづらくなってるところもあって。「イメージを変えていきましょう」ってこないだ話していたプロデューサーに言われて、じゃあなんのために20代やってたんだよって(笑)。

──「今までのがんばりは無駄でした!」って(笑)。

あはははは(笑)。その豪さんの口調の潔さで言いたいです(笑)。意見をくれる人と組んで芝居を作るみたいなことに前よりは興味があるというか、劇団だけでやりたいわけではないし、逆に「これをやってみたらおもしろいんじゃないですか?」って人に言われるのは全然嫌じゃないので。自分のまわりに本人の発信力が強い女の子の作り手が多かったので、そういう人を見てても別ジャンルで私と同じようなことになってる人っているわけですよ。

そういうのを見てると、味方を増やしていって賢く立ち回ろうとしてるし、まずは協力してくれる人を増やさないと。……演劇の流行ってなさみたいなものはどうなんですか? 昔のほうが耳には入ってますよね。

──そうなんですよ、これくらい外の世界にいる人間としては、もう10年ぐらいは新しい人の名前を聞いてない気がするし、なんとなく話題になってタイムラインに流れることも減ってる気がしますね。

これは書けないですけど……(以下自粛)。

これが25歳ぐらいのときだったら言っちゃってたと思うんですけど、ある程度大人になってるんで(笑)。演劇ってどうしても「自分たちがやりたいからやってます」みたいな自己満になりがちなので、もうちょっと外からどう見えてるかを……演劇を作ってる人は芸術のリテラシーがない人には観られなくていいみたいな感覚なのかもしれないですけど私は、大衆に向けて作ってるんじゃないか!っていう気持ちがどうしてもあるので。

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吉田 豪

(よしだ・ごう)1970年、東京都生まれ。プロインタビュアー/プロ書評家/コラムニスト。 編集プロダクションを経て『紙のプロレス』編集部に参加。そこでのインタビュー記事などが評判となり多方面で執筆を開始する。現在、雑誌・新聞に多数の連載を抱えるほかテレビ、ラジオ、ネットなどさまざまなメディアに活躍の..

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