野田はしゃべってもいいんだ!
──そんな状況で大宮に行かれて、ネタに変化などがあったんでしょうか?
野田 一個あるとすれば……大宮で寄席に出始めたんで、ネタ前にしゃべらなきゃいけなくなったんですよ(注・寄席は持ち時間が7~10分と長く、賞レース等にかける4〜5分尺のネタだけでは持ち時間に満たないため、ネタ前にしゃべりを入れる芸人が多い)。それによって、縛られていた部分がどんどんなくなっていった。
──縛られていた?
野田 それまではネタの中で素でしゃべるところがほとんどなかったから、固まったイメージを持たれてたんですよね。大宮に出始めたころは、「あ、野田って普通にしゃべるんだ」ってめっちゃ言われました。もともとのファンの人は俺がしゃべることにがっかりして、「しゃべんないでほしい」って言われたりもした。
──確かに、特に初期のころの野田さんは、タンクトップに裸足で痩せていて、今以上にミステリアスな感じもありましたね。
野田 でも寄席のネタをやり始めて、しゃべってもいいってなってから、ネタのバリエーションが広がったんですよね。『郵便トーナメント』(注・郵便の種類の中でどれが一番強いかを競う、郵便局でアルバイトしていた野田の経歴を活かしたネタ)みたいな、僕が普通にしゃべるネタもできるようになったんですよ。
──それによって、「縛られていた」ものから解き放たれた。
野田 めちゃめちゃ楽になりました。たぶんラップバトルのネタがウケて「楽だな」「このままコントやりたいな」と思ったのも、あのネタでは俺がツッコミに回ってたからだと思うんです。大宮に出始めて、ボケ=普通にしゃべれないという状態を脱して、いろんなネタを作れるようになっていった気がしますね。
村上による『大宮セブンライブ』改革
──現在、おおよそ月1回で行われる、大宮セブン全員が出演する『大宮セブンライブ』の企画は芸人さんが持ち回りで担当されていますが、そうなるきっかけが村上さんだったと伺いました。
村上 そうです。当時ついてた作家の子が、大宮だからってだいぶナメた企画を出してたんです。マジでクソつまんなかったですからね。
──そんなに(笑)。
村上 だって、『大宮セブンライブ』は、言ってみれば大宮セブンの本公演じゃないですか。なのにただ台本に「トーク」とだけ書かれてお茶を濁されても、そりゃ誰も来ないですよ。
野田 本当、あのころの『大宮セブンライブ』は単なる「ネタとコーナーライブ」だったからな。
村上 あるとき、ライブ中に「なぜ『大宮セブンライブ』にお客さんが入らないのか」っていう討論をする時間があって、つい言っちゃったんですよ「つまんないからだろ」って(笑)。作家さんには申し訳なかったですけど。でもおかげで「じゃあ芸人が考えたほうがいいよね」となって、今もつづいてるんです。
──そのぶん、芸人さんの負担も増えたとは思いますが。
村上 うん。でも自由度が増えたし、毎回担当するコンビ、トリオの色が出るようなものになって、自分たちもライブが楽しみになりましたね。
野田 あと、企画を作った人がその場にいるから、クソみたいなコーナーだったとき「クソみてえなコーナーだな!」って言えるっていうのがでかいんですよね。そこから始まることもあるから。
プロの「人に見せられるギリギリ」が観られる場所
──通常、吉本のライブは、いわゆる「地下ライブ」と呼ばれるライブとは明確に色が違うように思うのですが。
野田 そうですね。
村上 基本、形式張ってますからね、吉本は。
──『大宮セブンライブ』、あるいは「大宮セブン」メンバーが中心となったライブは、その中ではかなり異質で、飛び抜けている感じを受けます。
野田 うん。
村上 それはありますよね。だから吉本のお客さんがこういうライブを楽しんでるのはいいことだと思います。ここからもっとお笑いの深みに興味を持ってくれたりしたらすごいなって。こんな変なライブ、地下にはもっとたくさんあるのかなあって思ってくれたら。
野田 大宮セブンがちょっと賞レースで勝ち上がったから「賞レース激強集団」みたいな捉えられ方をされがちですけど、もともとストイック集団ではないんでね。だからこそ、(配信チケット1万7000枚を売り上げた)『マヂカルラブリーno寄席』みたいに、突然バズることもあり得る。『大宮セブンライブ』も、あの寄席と同じような感じだと思うんですよ。大宮セブンはいつ、何がどうなってもおかしくない団体だなとは思います。
村上 仲よしで集まっているわけじゃないっていうのがいいですよね。仲悪くなったら終わり、っていうのがないんで。本当に「お笑いやろうぜ」で集まってるのがいい。
野田 力のある人間が「どうなってもいいか」と思ったらこうなる、っていうのが大宮ですね。「どうなってもいいか」って一番強い状態じゃないですか。実力のない人たちがそれをやると独りよがりになっちゃうけど、みんな人に見せることは当然のように体に染み込んでる人たちだから。どんなにやってもそこは絶対に意識する人たちが「どうなってもいいか」と思ってやるから、飛距離が出ておもしろい。ライブの最中に「どこまで行くんだろう」って思うとき、たまにありますからね。
村上 人に見せるギリギリの楽しさじゃないですか。ショーとしてのギリギリ(笑)。
──これからの「大宮セブン」はどうなるといいと思われますか?
村上 僕にとっては、「大宮セブン」って吉本の中の家みたいな場所なんですよ。もちろんそれぞれのコンビやトリオが各々の場所でがんばるのが一番大事ですけど、その上で、『大宮セブンライブ』はなくなってほしくない。たとえ大宮の劇場がこの先なくなることがあっても、年に1回でもいいからやりつづけたいなって思っています。あと、大宮セブンで番組ができたらいいよね。
野田 『アメトーーク!』出演がゴールみたいになってるけど、これで終わりじゃないからね。
マヂカルラブリー
ボケの野田クリスタルとツッコミの村上からなるコンビ。2007年、ピンで地下ライブを中心に活動していた野田に村上が声をかけるかたちで結成。2014年、大宮ラクーンよしもと劇場所属の芸人ユニット、「大宮セブン」に所属し、以来大宮を中心に活躍。2017年、M-1グランプリ決勝進出につづき、2018年の『キングオブコント』でも決勝に。『R-1ぐらんぷり2020』で野田が優勝を果たし、2020年『M-1グランプリ』で王者に。
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