|
|
怒られると思った母との電話。「ちゃんと産んであげられなくてごめんね」
久保田 まず初めに「親に報告してください」と。親から移植してもらうことがまず第一らしいんです。
俺、電話するのがすごい嫌で。芸人になるっていうのでまず迷惑かけてるんです。親父は学校の先生になってほしかったらしくて、芸人も大反対されて。でも無理やりこの道を選ばせてもらって、群馬の田舎から上京して、お金もないからNSC1年目のころは仕送りももらって。
僕が言うことではないですけど、100歩譲ってお金と自分の職業の選択は「子供として迷惑をかけられるギリギリのライン」だと思ってたんです。で、ここから「腎臓1個分けてくれ」は、ラインを越えているなと。
当時72歳だった高齢の親父から腎臓1個分けてもらうって……。東京行ってお金もなくて体悪くして、芸人としても売れていなくて。でも手術も決まってたんで、電話するしかなくて。
母親が出て、「腎臓があんまりよくないって話してたじゃない? 実は移植をしなきゃいけないんだよね。両親に移植できるか確認を取ってくれって言われたんだ」と伝えて。俺、超怒られると思ったのに、母親が第一声で「ちゃんと産んであげられなくてごめんね」と言ったんですよ。俺、電話越しで泣きそうになって。しばらく電話離して上向いて泣かないようにして。もう1回電話に耳傾けたら、母親はずっと「ごめんねごめんね」って謝ってきて、「そうじゃない、俺のせいだ」ってやりとりを何回もしました。
で、病院で検査がある日程を伝えたら、「誰の腎臓が合うかわからないから」って田舎から親戚一同で来てくれたんです。
秋本 歳いったお父さんなんですよ。おじいちゃんみたいな。何回も会ったことあるんですけど、あったか~い、やさし~い親御さん。
相方が病気になって気づいた<初心>と<優しい芸人界>。そして<相方の大切さ>
秋本 こいつが手術決まったときに、ルミネの出番の間で「ちょっと話がある」っていきなり言われて。
久保田 舞台ウラの奥のほうまで連れて行ってね(笑)。
秋本 10年間で1回もそんなことなかったから、「あれ? これいよいよ解散って言われんのかな?」とすごい怖くて。そしたら、「実はこういう理由で、いったんお休みしてもいいかな?」って。僕はもう解散告げられると思ってるから「いいよいいよ!」しか出てこなかった。それよりも彼がこのタイミングじゃないと命がやばいっていうから。
久保田 手術をしないと3年で死ぬって言われてたんです。
秋本 僕も生き死にの話ですから不安で。手術しても戻ってこられるのか?っていう。
──告げられた秋本さんも、相当ツラかったですよね。
秋本 でも、いい意味で感謝をしていて。
僕はその間ひとりになるんですよ。もともと入っていた仕事、スタッフさんに「久保田さんいないから出ないですよね?」って言われたんですよ。なんか俺、それにちょっとムカついちゃって。「いやいや、出ますよ!」って言って初めて出たピンの仕事が、とろサーモン、僕、中川家っていう順番で(笑)。劇場はウケて、スベって、ウケてました。
だから、そのピン活動の期間に“芸人の初心”を思い出したんです。ボケに頼ってちゃいけないなって。病気になってるんで感謝って表現は違いますけど、いい経験にはなったなって。コンビで長くいると、相手のせいにすることもあるじゃないですか。そういうのよくないって気づきました。
──ピンで活動された期間はどれくらいだったんですか?
久保田 4カ月かな?
秋本 先輩方も本当に優しくて。僕ら(博多)華丸・大吉さんにずっとお世話になってるんです。久保田が報告に行ったときに「相方は任せておけよ」と言ってくれたらしくて、本当に飯に連れて行ってくれました。久保田だけじゃなく、俺のことも気にしてくれたんです。
ザ・パンチの(パンチ)浜崎さんなんて、「バイトとかあんの? 大丈夫?」って言いながらクッチャクチャのお札くれて「なくなったら言って!」って。昭和の芸人ですよね。「バイトしろって言わねえから! いいじゃん! 久保田がいないことを笑いにしてこうよ!」って。相方がそうなって、芸人の世界にいてよかったなっていうのと、相方がいないと困るなってことにちゃんと気づけたんです。
久保田 なかなかないもんね、そんなことって。
秋本 生死に関わる話はないからね。戻ってくるかどうかが超不安でしたね、僕は。
こいつ、愛されてるんで芸人がいっぱいお見舞いに来てくれてたんですよ。僕もそれは知ってて。でも僕は1回しか行かなかったんです。行きたかったんですけど「気遣うだろうな」って。「心配させてごめんな」って思わせるのも嫌じゃないですか。だから手術前に1回だけ行って、恥ずかしいですけどお守り渡すくらいしかやれることがなくて。だって、いっぱい行ってネタの話とかするのも違うし……。一番相方のことを考えたタイミングじゃないですかね。
|
|