今や「すゑ様」ですからね
──大宮セブンに注目が集まり始めたきっかけとして、マヂカルラブリーさんやGAGさんらが次々と賞レースの決勝に進出するようになったことがまず大きいと思うのですが。
覚野 実力のある芸人たちですから。大宮には「腕はあるけどめちゃくちゃ人気があるかと言われると……」っていうメンバーが集まってる(笑)。その彼らのがんばりが、ようやく実を結んできたんじゃないですかね。マヂカルラブリーはもともと、大宮セブンメンバーの中では一番人気があったんですよ。彼らが2017年にM-1決勝に進出してくれたのは大きかった。GAGもずっとKOCの決勝に上がってますし。すゑひろがりずがこんなふうにハネるのは完全に予想外でしたけど。
──すゑひろがりずのおふたりは、「とにかく大宮で鍛えられた」と話されていました。
覚野 確かに営業にもたくさん行ってたし、僕も彼らはそっち向きの芸人やとずっと思ってました。大宮にはほかの劇場にはないような細かい営業がたくさんあるんです。すゑひろがりずはそもそも、地域密着型の営業を盛り上げる要員としてセブンメンバーに入ったところがありますから。それが今や「すゑ様」ですからね(笑)。
──その予想外の活躍につられるようにして、大宮セブンの名も知られるように?
覚野 本人たちが「僕らは大宮セブンなんですよ」と発信してくれているというのが大きいですよね。すゑひろがりずに限らず、GAGにしろ、マヂカルラブリーにしろ、何かにつけて大宮のことに触れてくれる。それを、まわりの芸人たちも見るじゃないですか。すると、「埼玉の劇場で密かに好きなことやってた奴らが頭角を現してきたぞ」って、おもしろ半分でイジるんですよね、鬼越トマホークとかが。
──確かに、多くのお笑いファンが「大宮セブン」の存在を知ったタイミングは『ゴッドタン』で鬼越トマホークが取り上げたとき(2020年4月放送「事務所対抗ゴシップニュース」)だった気がします。
覚野 腕があって人気がある芸人は、もうスターじゃないですか。でもそんなのは本当にひと握り。腕があっても注目されていない芸人が山ほどいるなかで、泥水すすってがんばってたやつらが売れていくのは、芸人仲間もみんな温かい目で見てくれるし、話題にしてくれるんですよね。
桁を間違えてると思った配信の数字
──支配人が大宮の変化を感じられたのはいつごろですか?
覚野 大宮セブンメンバーが全員そろう『大宮セブンライブ』というのを毎月やっているんですよ。僕が着任したころは劇場の141席のキャパのだいたい半分、70人くらいの動員だった。今年の年明けくらいにやっと100人を超えるようになった感じでした。コロナ自粛が明けて大宮の劇場を再開したのが7月1日で、最初の2週間は無観客だったんです。7月頭に無観客の『大宮セブンライブ』をやったら、配信チケットが750枚売れた。「あれ、どっかで誰かハネてる?」と、そこでようやく思いました。
──すゑひろがりずとななまがりのユニットライブ『地獄変』の無観客配信も1000人以上が視聴したとか。
覚野 あれも驚いたなあ。だってこのライブ、ずっとお客さん20人くらいでしたよ。20人しか入らないイベントなんてどこの劇場もやりたくないですよね。でも僕らは「芸人本人がやりたいって言うとるんやからええやろ」と、何回もやってもらってた。当然赤字ですよ。それが、気づいたら急にこんなことに……。最初に「配信チケットが1400枚売れた」って聞いたとき、絶対に桁を間違えてると思いましたもん。いざ集客できるとわかったら、無限大ホール、ルミネtheよしもと、祇園花月とほかの劇場がこのライブを呼び始めた(笑)。まあ、大宮でやっていたイベントがほかの劇場に展開してくれたらいいなというのはひとつの夢やったので、これはすごくいいかたちやなと思っています。
──大宮は20人の集客でもライブができる劇場……。
覚野 さすがにそれが毎日だったら困りますけど。ただ、お客さんが毎日ぎっしり詰めかけるような劇場じゃないからこそ、芸人もスタッフもみんな好きなことをやっているのが大宮という場所なんです。芸人みんな言いますよ、「大宮はゆるい」って。
──注目度が高くないからこそ、できることがあるんでしょうか。
覚野 見逃されている、というかね。僕自身はもともと、大喜利なんかでシビアに戦い合うようなものが好きで。支配人に就任したばかりのころ、「ツッコミの技術を競い合う」というコーナーをやったことがあるんです。そしたら芸人からもお客さんからも「大宮っぽくない!」と言われて、そこからはそういうライブはやめました(笑)。今は企画については本当に自由にやってくれ、って言ってます。芸人やスタッフが出してきた企画に「それはあかんよ」と言うことはないですね。結果、大宮ならではのゆるいノリが勝手にでき上がってる。GAGの福井(俊太郎)がなんかかんか仕かけてはずーっとスベってたりする。でもそれも大宮ではオッケーだし、お客さんもそこを楽しまれているんですよね。
時代に奇跡的にマッチした劇場
──大宮では、平日や土日夜の企画ライブは、基本的に毎日配信されているようですね。
覚野 配信が好調なのは確かです。大宮は特に、配信に合った劇場だと思うんですよ。こんなふうに各劇場が配信をするようになる以前は、キャパが少ないぶん、吉本内での存在感もすごく薄かった。大宮に劇場があること自体、社内でも知らない人が多かったくらいですから。でも配信を始めたら、ほかの主要劇場と肩を並べられるくらい、お客さんを呼べている。
──ライブ配信には人数制限がないから、動員に関して劇場のサイズが関係なくなるわけですね。
覚野 NGKとかルミネでは、きちんと技術会社に発注をして、しっかりとした機材でプロが撮影したものを配信しているんですよ。でも大宮は、劇場にもともとあった家庭用のビデオカメラで、定点で撮っているものを流してる。ステージが狭いから、それでちゃんとステージ全体が入るんです。
──大きな劇場に比べると、配信に対するハードル自体が低い?
覚野 そうなんです。内容的にも、ガチガチの笑いじゃなくて、家で夜にゆるーいものを楽に観られる。これまでさんざん「ゆるい」と言われてきた大宮の特殊性が、もしかしたら配信というかたちに向いているのかもしれないと個人的には思ってます。
──劇場の立地、サイズ感、内容が配信にマッチしている。
覚野 そう。すべてのことが偶然、今の時代にカチッとハマってるんですよ。密かに「僕らの時代が来た!」と思ってます。今がピークかもしれませんけど(笑)。
──こうして注目を集めている今、何か新たなことを仕かけていこうというものはありますか?
覚野 何もないですね。小さな劇場やし、スタッフも少ないし。変わらずできることをやっていくだけです。すゑひろがりずのスケジュールが押さえられなくて困ってるくらいです(笑)。
──ライブをやりたくても、メンバーがそろわない?
覚野 そうなんですよ。先日とうとう、すゑひろがりず抜きで『大宮セブンライブ』をやりましたけど、やっぱり全組そろってこそなんでね。名前が出ている以外のメンバーもみんな魅力的ですから。囲碁将棋は後輩みんなに慕われてて、ネタもすごくおもしろい。タモンズも腕があるから、この先賞レースなんかで勝てる可能性がめちゃくちゃあると思う。ジェラードンもボーイフレンドも、まだ所属して1年ちょっとですけど、実力があるんでどんどん前に出てきてくれたらって思ってます。鉄板のパターン芸を作ってくれたりしたら、全員でテレビとか出られるんちゃうか?って。
──パターン芸! おもしろそうです。
覚野 でもね、一方でみんな売れて卒業していってくれたらいいな、とも思うんですよ。芸人たちが劇場になかなか出られなくなるくらい忙しくなるのはすごくいいことじゃないですか。ただ大宮のことは忘れんといてね、ここぞというときは助けてね、と(笑)。
──では、これから「大宮セブン」のメンバーが入れ替わっていく可能性も。
覚野 モーニング娘。みたいなイメージですよね。誰かが卒業して、新メンバーが入って、でもユニット名はずっと変わらずある。大宮セブンもそんなふうに、売れてどんどん抜けて、また誰かが入ってきて、グループ内でプッチモニみたいなユニットとかがどんどんできればいいのに、って思います。
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