大宮が賞レースに向けてネタを磨く場に
──大宮のお客さんの雰囲気は、ほかの劇場とは違うんでしょうか?
福井 平日にやるライブは基本的にはお笑い好きの、昔は特に大宮セブンを応援してくださる方しかいらっしゃらなかったので、平日でも10人20人、時には2、3人とか。開演ギリギリまで0人で中止の話し合いをしていたら、30秒遅れでおひとり人入ってきて、じゃあ開演しよう、ってこともありました。その方たちはちょっと特別なお客さんですね。一方で土日は寄席なので、大宮近辺の一般の方、ファミリー層の方が来られるんです。だから平日と土日の差がすごくて、そこに対応できずに最初はみんな苦しみました。土日はずっとスベり倒していた記憶が強いですね。
──そんな状況のなか、大宮セブンの皆さん、GAGはもちろん、マヂカルラブリーやすゑひろがりずはどうやって賞レースで強くなっていったんでしょう?
福井 全員に当てはまるかはわかりませんが、僕らとか、マヂカルさんを観ていて思うのは、極端なことを言えば、ウケなくても許されたというか……。
──許された?
福井 ルミネ(theよしもと)やNGK(なんばグランド花月)、幕張(よしもと幕張イオンモール劇場)はお客さんの数も多いですし、笑いを取らなければ出番がなくなるんですよ。もちろんプロなのでそれは当たり前なんですけど。ただそうなってくると、やっぱりウケるネタをかけるようになる。
──はい。
福井 でも大宮は、もうX氏が直接、言い方は悪いかもしれないですけど、「練習に使っちゃってください」と。もちろんウケたほうがいいけど、賞レースで勝てるように、賞レースでやるネタをどんどんかけてくださいと言ってくれたんです。それで僕らも寄席ではウケづらいネタもやらせてもらった。するとネタを磨けるので、賞レースでウケるようになる。一度決勝に行けてそこで知名度がついてきたら、同じネタを寄席でやってもウケるようになってくる、という循環で。本来普通の劇場だったらやらせてもらえなかったことを、大宮は賞レースに向けてやらせてくれてた、というのは大きいのかなと思います。
──最初こそ平日と土日との温度差に悩まされていた大宮が、賞レースに向けてネタを磨く場になったわけですね。ネタ以外の部分はどうですか? 大宮セブンのエピソードとして、マヂカルラブリーの村上さんが「コーナー(企画)がつまらない」と爆弾発言をしてからコーナーが芸人持ち回りになったと聞いたことがありますが。
福井 ありましたねえ。さっき言った初代のころのチーム分けの、Aチームの方は中央(東京)でも仕事がたくさんあったんです。でも僕らBチームは本当に大宮でしか仕事がなかった分、大宮愛が強かった。で、Aチームが抜けて5組になったときに、「セブンライブのコーナー、ちょっとおもしろくないよな」ってみんな思ってたことを、舞台上で村上くんが口に出して言っちゃったんですよ。そこから、文句言うだけじゃなくて「これからは僕らがひと組ずつコーナーを担当させてください」というかたちになって、それが今もつづいているんです。
──普通のライブでは、作家の方がコーナーを考えるわけですよね。
福井 自分たち主催のライブなら作家の方と一緒に芸人もコーナーを考えたりしますけど、劇場主導のライブではそういうことはあまりないですね。大宮セブンライブは劇場制作のライブなので、普通なら僕らは全力でプレイするだけ。そこを村上くんが「このライブをおもしろくしたい。だからコーナーも僕らにやらせてください」って。劇場にも作家さんにもちょっと失礼ではあるんですけど(笑)。でもそれを受け入れてもらったんですよね。
──たとえば、それによって動員が増えたということはあったんでしょうか?
福井 ちょっとかっこよ過ぎる言い方をすると、当時はちょうど変革の時期で。X氏が大宮を離れられて、彼の弟子のような存在の、若い女性社員であるK氏が「せっかくならもっとお客さんに楽しんでいただけるようなライブにしましょう」と。ライブの内容や見せ方にも手を入れて、ライブの最後にお客さんひとりずつと撮影をするという案も出してくれて。X氏が蒔いた種がちょっとずつ芽吹いてきた、みたいな時期だったのかもしれません。そういう要素もあって、実際少しずつお客さんが増えていったのはありました。
大宮の営業=ストリートファイト
──大宮といえば「ほかの劇場にはない小さい営業がたくさんある」という話もよく聞くのですが。
福井 普通営業って、営業部の方が取ってきてくれた案件に行かせてもらうんです。でも大宮はちょっと別モノというか。支配人が地元の方々と夜飲みに行って営業を取ってきてくれたんです。だから地域のお祭りとか、お店とか、大宮芸人しか行かない独自の営業がかなりあったんですよね。
──現・大宮ラクーンよしもと支配人にお話を聞いたときに(近日公開予定)「ステージがあるだけでもう立派なくらいだった」と。
福井 そうですね……。ステージ以前の問題で、大宮セブンのメンバーみんなよく話すんですけど、カレー屋さんの営業というのがあって。
──カレー屋さん。
福井 カレー屋さんの店内でやる営業なんですけど、僕らがコントをやる場所が普通に店員さんの動線になってて、カレー持って歩いていかれる。それを避けて「あ、すいません」とか言いながらネタをやるっていう状況でした。ステージがどうこうという状態じゃなかったですね。
──確かに……。
福井 あと、焼き鳥フェアみたいなイベントに出させてもらったこともありました。屋外に何十店舗も焼き鳥屋さんが出店してて、その真ん中にステージがあるんですけど、いざネタをやろうと思ったら焼き鳥を焼く煙でまったく見えないっていう。「見えてます?」とかいうのも最初こそウケるけど、そっから15分ですから。本当に最後は諦めて、煙の中でただ声だけが聞こえる。あれは本当にすごかったです。
──そういう細かい、ネタをやる状況じゃないような営業がたくさんあった。
福井 はい。そういうのが毎週土日に入ってた。ただただ芸人が呼ばれて、ネタとかどうでもいいからちょっとでも笑い取ってこい、という。営業というよりストリートファイト、野試合みたいな感じでしたね。
──そこまでの状況の営業は、芸人さんとしてあまりうれしいものではないのでは?
福井 大阪からこっちに出てきたころは、「いや、こんなんできひんて」と思ってました。でも大宮セブンになってからはもうこれが当たり前になって、逆にそういうのを求める体というか……。どんどんおもしろいところでやらしてください、って変な方向に成長していって。きつければきついほどおもしろくなって、普通の舞台が物足りへんくらいにまでなってしまってたところはありますね。
──あの、スーパーオートバックスさんは。
福井 あ、はいはい。ご存知ですか、オートバックス。
──大宮の方々にとって大変重要な場所であるということだけは聞き及んでいるのですが。
福井 確かに重要です(笑)。「スーパーオートバックス大宮バイパス」というカー用品のお店でして。もともとイベントスペースが屋外にあって、吉本の芸人もたまに呼んでいただいていたんですけど、いつの間にか大宮吉本のもうひとつのホームになってました。店長さんもそのあたりから火がついて、売り場を狭めて店内に劇場を作られまして。黒いカーテンで仕切って、店長さんが横で音出しをするスペースも確保して。それでも飽き足らず、今度は「ここには舞台袖がない」と言い出して、もともとお子さんが遊ぶようなキッズスペースを全部潰して、袖の広い、なんやったら大宮ラクーンよりも立派な劇場を作られたんです。
──すごい。
福井 あるとき、照明のピンスポットライトも導入されて。「ピンスポつけたから、いつでも言ってよ」なんて言われたので「じゃあ今日つけてもらえますか」とお願いしていざ舞台に出てみたら、なんかね、イメージですけど、物干し竿くらいの細さの……。日本一細い光が当たってました。ピンスポというより隙間明かりみたいな。
──物干し竿(笑)。
福井 そういう、異常な劇場です。漫才用のサンパチマイクもありますし、スモークを焚く機械もありますし。調子いいときは店長がスモークを出し過ぎて、劇場中にスモークが蔓延して、焼き鳥フェアを彷彿とさせるようなこともあります。
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR