位置ゲーにRPG要素は必要か。『テクテクライフ』の戦い。開発者・麻野一哉に事情を聞いた

2020.8.19

ゲームをやらない母親が『テクテク』だけはやってくれた!

──今回の『テクテクライフ』はRPGや戦闘要素をなくして純粋に地図塗りに特化したゲームになっていますね。

麻野 どうして前作にRPG要素を入れたのかというと、単純に勇気がなかったんですよ。だから課金に関しても「塗り」を補助する機能にお金なんて払ってもらえないだろうと考えてRPG部分に課金をしていたんだけど、去年の6月に前作『テクテクテクテク』を終了するタイミングでアンケートを取ったら、「塗りが楽しい」っていう人が9割、「戦闘が楽しい」っていう人は1割もいなかったんです。そりゃあ課金が回らなくてサービスも終了しちゃうよと。

米光 言っちゃ悪いけど前作のRPG部分は、出てくるキャラクターも、小林幸子が出てきたりゴジラが出てきたり無節操で、そこがニコニコ動画的なおもしろさでもあるんだろうけど、ホントは作ってる側も「地図塗り」がやりたいんだろうなって。

「となりぬり」もゲームの醍醐味(c)テクテクライフ 画面は開発中のものです
「となりぬり」もゲームの醍醐味(C)テクテクライフ 画面は開発中のものです

麻野 ああいうカオスな感じは完全にニコニコ動画のカルチャー。今回作り直すに当たっても「戦闘はなくしたとしてもモンスターキャラは残したほうがいいんじゃないか?」とか色々悩んだんだよ。モンスターを仲間にして収集できたり……。

ただ、『テクテクテクテク』は普段、僕が作ったゲームをやらない人たちがやってくれたの。その筆頭はウチの80歳過ぎた母親で、『かまいたちの夜』も『トルネコの大冒険』もやってくれなかったんだけど、『テクテクテクテク』だけはiPadに入れて渡したら「散歩がはかどる」とか言って、地元を100%塗りつぶしてたんです。

だから、普段ゲームをやらない人がやりやすいほうに特化したほうがいいなと。モンスターが出てきた瞬間に「自分とは関係ない世界だ」と思っちゃう人もいると思うんですよ。『テクテクライフ』は普段、まったくゲームをやらない、でもSNSをやっているような人に参入してきてほしいなって思っています。

βテストの結果
前作『テクテクテクテク』アンケート結果の一部

ライフログじゃなくてライフチェンジログ

米光 位置情報ゲームって『Ingress』や『ポケモンGO』みたいに現実のレイヤーに虚構のレイヤーを重ねて遊びを提案する方向性と、ライフログ的な方向性があると思うんだけど、『テクテク』ってどっちとも違う感じがするんだよね。

ライフログだと、日常生活の中で行った場所が記録されるんだけど、『テクテク』は“わざわざ”行って塗れよっていう。ライフログじゃなくて“ライフチェンジログ”になってる。

麻野 「生活が変わる」とはよく言われたね(笑)。今回、喜ばれたことのひとつは「現地ぬり」(実際に現地に行って地図を塗ること)と「となりぬり」(ポイントを消費して、現地に行かなくても地図を塗れる機能)とを明確に色分けしたこと。「今はその場所に行けないから『となりぬり』で塗っておくけど、いつか行って『現地ぬり』をするぞ!」みたいな目標づけをできるようになった。「おかげで罪悪感なく『となりぬり』ができます」って言われましたね。

米光 実際の地図をもとに作っているから、街区のバランスが悪いのもおもしろいんだ。

麻野 バランス調整できないですよ、全国で何十万、何百万と街区があるんだから。

田村 街区のデータを作るのが一番大変でしたよね。あれをドワンゴで作ってもらえたのが大きかったです。地図で道に囲まれた区画をイチイチ切り抜いてデータベース化するっていうのは開発力がないと不可能でした。

麻野 ただ、バランス調整していないからこそ、ナラティブ(主体的に語ること)なゲームになっていると思います。与えられたストーリーじゃなくて、自分のストーリーを生きていくゲームはナラティブ性が高いんですよ。自分で現地を歩いて回ったときもそうだし、「となりぬり」でも、大きな街区に当たったみたいな話を語りたくなる。ストーリーはゼロなんだけど、ナラティブ性は高いと思います。

米光 要は体験だよね。今までのゲームは「やるぞ!」って感じでプレイしてたけど、『テクテク』はそうじゃない。「やるぞ!」って思ってないときにやって、「散歩がはかどる」みたいな、日々の生活をより豊かにしてくれる。そういう意味ではゲームというよりもツールなのかもしれない。

米光一成
米光一成(よねみつ・かずなり)ゲーム作家。代表作に『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』など

麻野 確かに、ツールに近いかもしれない

──「日本を全部塗る」みたいな目標も無理があるし、明確な目標がないぶん、自分ルールが必要なゲームですよね。

麻野 最終的には世界版を出したいと思っているんで、全部塗るのは不可能でしょう(笑)。目標や目的は各自で決めてくれればいいんですよ。遊ぶ側が意識的に自由に遊んで、自分ルールを作ることができたら細く長く遊んでもらえるかなって思います。

ブエノスアイレスの街区構想(c)テクテクライフ 画面は開発中のものです
ブエノスアイレスでの街区化テスト画像(C)テクテクライフ 画面は開発中のものです

米光 今、アナログゲームを作っているんで、その感覚はよくわかる。トランプとかってある種ツールなわけですよ。カードに何かしらの記号が書いてあって、ルールには「こうやって遊ぶとおもしろいよ」って書いてあるけど、プレイヤーはルールを無視してもいい。つまんなかったら「ジョーカーを外そうぜ」とか、プレイヤー自体がゲームを勝手にアレンジできるおもしろさがある。

麻野 『テクテク』もそういう感じ。自分でルールを決めていいんだぜ!

麻野一哉と米光一成
『テクテクライフ』は自分でルールを決められるのが魅力

オレだけは大好きなゲーム

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北村ヂン

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北村ヂン

(きたむら・ぢん)1975年群馬県生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌を伺うライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れ過ぎています。

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